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創作民話 関係

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#創作民話

創作民話 かゆうま

その雑炊屋のつくる粥はまずい。 いやまずいを通り超して、致命的ですらある。 当時の衛生状態はひどいもので、売れればかまわないと思う商人も居た。 現代でも痛んでも大丈夫という人もいる。 利点といえば安い事。 一文二文で腹一杯になる。 貧乏人には生命線ともいえるが、食してあたれば死んでしまう代物だ。 「安いよ安いよ」雑炊屋は今日もえたいのしれない 肉やら野菜やらを煮込んでいる。 決してうまそうな臭いでもないのに、食べる客はいる。 そこに六尺はありそう大男がきた。 「おれにもその粥

創作民話 影あんどん

ほんわかした光を暖かく感じる。 子供は、夜になるとあんどんを見るのが楽しみだ。 お金持ちの家に生まれたその子は、夜更かしを許されていた。 絵草紙を読みながら、ちょっと休むときに あんどんの炎がゆれるのを見る 表面の和紙に炎が映り、文様が浮かび動いているように見える。 「これは馬かな、これは茶碗に見える」 何も描かれていなくても、でこぼこで絵が浮かび上がる。 その日もなんとなく、あんどんを見ていると 棒のような、人のようなものが見えた。 じっくり見ていると、動いてるようだ。 棒

創作民話 尼さんの供物

都まで飢餓で苦しむ民があふれる。 人々が路上で空の椀を差し出して物乞いをするが、 あまりに多いため近づく事すら危険に思える 「このような事がいつまで続くのか・・」 高名な尼僧の黙桂妙唐は、心が痛む 路上に腹のふくれた子供が寝ている。 魚すら食べられない。 肉を少しでも食べないと腹に水がたまる。 苦しそうに口で息をしている。 動けずに道の脇で死ぬ者も多い そのまま放置されている 寺でも供養を行うが、終わる気配もない 黙桂妙唐は心を決めていた。 「私が寝ずに祈祷しよう」

創作民話 看板娘

「おしげちゃん、客きたよ」 私はよっこらしょっと腰を上げると、客を迎えに行く。 小さな茶屋には、様々な客が来る。 侍やお遍路、小物売りに坊主。 何回も来る客や二度と見ない客も居る。 「なんになさいます」 この客は若い任侠者に見える、旅支度を整えて旅行李を 肩から背負っている。 「茶漬けをくれ」 軽食を食べてから、街道に出る客は多い。 代金を受け取り茶碗に飯を盛ると、煎茶をかけて出す。 いそがしく働いていると、任侠者は居なくなっていた。 「おしげ、いまここに若いのは来たか

創作民話 聖剣伝説

「この村には、岩に刺さった剣があるのじゃ」 村の古老が言うには、剣を抜いた者は勇者として 国を支配できると、言い伝えがある。 若いものが抜こうとしても、無理 旅人が抜こうとしても、無理 屈強な戦士が抜こうとしても、無理 「勇者は誰も居ないのか」 みな嘆くが、勇者が必要な時代でもない。 平和な時代に、剣を抜く者が居ないだけだろうと 噂をする。 ある日、幼い少年が剣を抜いてしまう。 「おお勇者だ、勇者が現れた」 みなが彼を褒め称える。 強力な武器を手にした彼は、覇道を歩む

創作民話 お汁粉屋と塩

茶屋で出す甘いお汁粉は江戸時代からある 「お里さん、おしるこを2つ」 私はこしあんに、白玉を入れて用意する。 「おまちどうさま」 客層はさまざまだが、私の店は高級店ではない 藁葺きで土壁がむき出しのぼろい店だ。 表現は悪いが、貧乏人相手の商売 別に気にしてはいない。 「しるこくれや」 外の席で、お客さんが呼んでいる。 長い椅子があるだけの席で、塩売りが座っていた 「一椀でいいですか?」 「ああ頼むよ、歩き疲れて甘いものが欲しくなった」 年老いた男は、もう見ただけでくたび

創作民話 彼岸花

城下は暗くなり人の出入りは無くなる。 「そろそろ木戸を閉めるか」 提灯をもって木戸の扉を閉めようとすると 一人の女がいる、幼なじみのおつゆだ。 「おつゆさん、どうした通るのかい?」 「今日も客が取れなくてね」 むしろを丸めて持っている。 夜鷹が職業だ 胸を患っている(わずらって)のか、咳をしている 「いいぜ、通りな」 おつゆを通すと近寄ってくる 「そろそろ銭が無くてね、どうだい」 おつゆとは、長屋で一緒に育った。 元は武士の娘だが、仕官できずに父親は亡くなる 母親も働い

SS 旦那と毒【創作民話】

お里は、旦那が嫌いだ。 ろくに仕事も続かない旦那を、なんとか殺したいと考えていた 棒手振りで魚でも野菜でも売ればいいのに それが出来ない、顔はいいから客受けは良いのに、 だらしがない性格で仕事が続かない 「おい飯まだかよ」 今日も仕事にあぶれたのか、ごろごろと狭い長屋の部屋で寝ている。 邪魔で内職も出来ない。 外に出てお碗を洗おうと井戸へ行くと、お松が居た。 旦那が死んでからさみしげな彼女に声をかける 「どう調子はいいかい?」 「ええ、最近は、あの人からぶたれる事もないの

創作民話 兄が居る井戸

私の兄は井戸に居る。古い井戸からのぞき込むと兄が顔を 出して私を見る、怒ったり笑ったり悲しんだり、そんな兄 を慕っています。 「吉乃(よしの)もそろそろ嫁ぐのか?」 双子として生まれた兄は、私に似ているのかやさしげな 顔立ちだ。でも武家の男子として剣術で鍛えられた体は 私より大きい。 私に尋ねながら母が作ってくれたお茶請けのお饅頭を口に 運ぶ。甘い物が好きなのは私と同じ。 双子は不吉と言われたが、父も母も私達を一緒に育てた。 兄とは仲が良く、ケンカもしたことは無い。 年

SS 泣いてたまるか 創作民話

蔵六は小さい頃から頭がにぶい。 小さな村の貧乏の家に生まれた彼は言葉をろくに 覚えれない、両親との意思疎通も難しかった。 他の子供にもいじめられたが、その事も気にしなかった。 その行為を悪意と解釈できない。 大きくなると言われた事をして飯を食うだけの毎日。 庄屋に奉公に出されて主人から、こき使われる 「蔵六、マキを割ってこい」 外に出て斧を取り出す、機械的に斧をふる 「ぞうろく、なにしてるの」 庄屋の孫娘が近寄ってくる。 蔵六は、幼い少女を見ながら手を止める マキが割れて

SS 焚火霊 #爪毛の挑戦状

夜道で焚火を見ながら侍は酒を飲む 「焚火があって助かります」 商人風の男が荷物を背負っている 「峠を下りると道に迷ってしまって」 商人は荷物をおろすと座る 「ここは霊が出るらしい」 侍は、つぶやく 「傭われた俺はここで幽霊を退治するために来た」 商人は不思議そうに 「幽霊とか恐ろしいですな」 侍は商人を見ると 「夜が明けて目が覚めると、食い物と酒が置いてあるんだ」 指さす先に食べた後の弁当がある 「でもな、それは俺が最初の日に持ってきたものだ」 商人が 「最初の日に持っ

SS 妖怪図鑑:一本松の女

大工の大三郎は女房を亡くしてから、仕事に身が入らない。 「お銀、あんないい女房は居なかったなぁ」 お銀は太っているが、気持ちのおおらかな女だった。 また鼻をぐずらせると首からかけた手ぬぐいで鼻をふく。 いつまでも悲しんでいる大三郎は気の弱い男だ しばらく夜道を歩いてると前方の松の木のそばで、一人の女が立っている。 「夜鷹かな?」 このあたりは川沿いで、巻いたむしろを持って立つ女は多い。 近寄ると「にいさん、どうだい?」と女は、着物のすそから足を出して見せる。夜なのに透き通る

SS 世界妖怪図鑑:妖しい花 創作民話

旦那が帰ってくると、血の付いたハンカチを貰う。 これはとても大事なものだ。 「今日は女だったよ」 大きな剣を鞘から抜くと、研ぎ始めた。 この当時は公開処刑が行われていた。罪人を群衆に見せながら 首を切り落とす。罪に対して罰を見せる事で、犯罪を抑止する。 血が処刑台から流れると女達は、ハンカチで拭う 魔力が宿ると信じられていた。 高く売れる場合もある。 私は台所に行くと、ハンカチを肌に当てる。 ハンカチの血は私の胸から吸収された。 「これでしばらくは持つわ」 私は人間ではな

SS 侍と鏡 #夏ピリカ応募用

次男の長左エ門は、姉から鏡を貰う。嫁入り道具は新しく買うので不要と言われた。男がこのような鏡を持っていても仕方が無いのだが大好きな姉からの贈り物だから粗末には出来ない。自室の道具入れにしまう事にする。「では長左エ門、家をよろしくね」病弱な姉は美しいがどこか影のある人で他家に嫁ぐのは無理のように感じる。「姉上も元気で」手を握りながら別れを告げる。嫁げばもう二度と会うことは無いと思うと泣きそうになる、軟弱な自分が愚かに感じる。この家は長男が居るので自分は何をするわけでもない、ただ