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創作民話 看板娘

「おしげちゃん、客きたよ」
私はよっこらしょっと腰を上げると、客を迎えに行く。
小さな茶屋には、様々な客が来る。
侍やお遍路、小物売りに坊主。

何回も来る客や二度と見ない客も居る。

「なんになさいます」
この客は若い任侠者に見える、旅支度を整えて旅行李を
肩から背負っている。
「茶漬けをくれ」
軽食を食べてから、街道に出る客は多い。
代金を受け取り茶碗に飯を盛ると、煎茶をかけて出す。

いそがしく働いていると、任侠者は居なくなっていた。
「おしげ、いまここに若いのは来たか?」
目明かしの熊吉が聞いてきた
「さぁ若い人は多いから」とそっけなくする。
私をじろじろ見ると黙って街道に向かう。

「追っ手があるから急いでたのね」
今日は忙しいのか気がついたら夕日で空が赤い。
「もうしまうよ」茶屋の主人が終わりをつげた。

支度をして外にでると、木陰から呼び止められる
「ねえさん、ねえさん」
見れば任侠者だ。

「宿を貸してもらえないか」
図々しいが、若くて男振りが良い。
「あたしの宿でいいかい」
茶屋からそう遠くないが一軒家がある。
狭いが、客を取る時に使える。
「ここでいいなら寝なよ」と土間に布団を出す

「さっきは目明かしに、嘘を教えてたのか」
「別に、若い客は一杯いるからね」
任侠者は私に感謝している様子だ。
「ありがてぇ、世話になるよ」

夕飯に野草の鍋をご馳走すると、喜んで食べている
食べ終わると、私の手を掴み
「金は払うから、たんまりあるんだ」
事が終わると、すぐ寝息を立てている。
私も隅で布団をかぶる。

夜半に、ごそごそと音がすると任侠者が扉を開けようとしていた
「なにしてるんだい」
私は起き上がると、引き戸の心張り棒を外す
「へへへ、そうか用心のためか」と頭をかきながら外にでる

「厠かい?」と聞くと腹を押さえながら、うなずいている。
厠まで連れて行くと、
「暗いから戸を開けたままにするよ」
戸を開けたまま用をさせる

している最中は完全に油断する、割斧を手にもって
真後ろから後頭部に振り下ろす。

「おしげちゃん、寝不足かい」茶屋の主人が笑っている。
目明かしの熊吉が顔を出す
「若いのを見たら教えてくれ、
 親分から金を盗んで逃げている」
言うだけ言うと、また探しに行く。
親分から鼻薬でも貰っているのだろう。

茶屋に長く居ると、やらかした奴は臭いで判る。
金の絡みで逃げる奴はたくさん居た。
そんな奴らを始末して金だけ貰う。
悪い事じゃない。

「いらしゃいませ」
茶屋の主人は私を見ながら「看板娘のお陰で繁盛しているよ」
常連の客と楽しそうに笑っている。

死体は石をつけて肥だめに沈めた。浮かぶことは無いだろう。

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