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創作民話 彼岸花

城下は暗くなり人の出入りは無くなる。
「そろそろ木戸を閉めるか」
提灯をもって木戸の扉を閉めようとすると
一人の女がいる、幼なじみのおつゆだ。

「おつゆさん、どうした通るのかい?」
「今日も客が取れなくてね」
むしろを丸めて持っている。
夜鷹が職業だ
胸を患っている(わずらって)のか、咳をしている

「いいぜ、通りな」
おつゆを通すと近寄ってくる
「そろそろ銭が無くてね、どうだい」

おつゆとは、長屋で一緒に育った。
元は武士の娘だが、仕官できずに父親は亡くなる
母親も働いたが体を壊したのか、数年後に墓に入る

おつゆは女郎として店に上がるが、
母と同じように体を壊すと追い出された。

木戸番は独身者しか雇われない。
薄給なため店にはいけないし夜鷹を買う奴も居るのだろう。
幼なじみの俺に頼ったのだろうか
「おいらももう年寄りだ、無理だよ」

今は俺と同じくらいにくたびれている
若い頃は、手も触れられないほどに美しかった。
おつゆは寂しげに笑うと、長屋に向かう。

俺は朝は早くから起き上がる、木戸を開けないと
商売をする奴らが怒り出す。
大工が仕事に行くのか木戸で待っていた。
「すぐ開けるよ」声をかけると大工が
「夜鷹のおつゆさんが死んだぜ」

朝になり長屋のおかみさん連中が飯炊きで井戸に
集まるとおつゆさんが路地で倒れていた。
すでに息は無い
大家が来て葬式の準備をするという。

「昨夜は、そんなに咳は酷くなかったが寿命かな」
夜鷹は、男相手に安い銭で遊ばせてくれるが
過酷な仕事だ。

葬式が終わり、何日かすると木戸の外に彼岸花が咲いている
「こんな所にあったかな」
触ろうと手を伸ばすと空を切る。
背の高い彼岸花は恐ろしいほどに紅い。
他の奴に見せても見えないと言われた。

夜になると、彼岸花の所に女が立つようになる
夜鷹のおつゆだ

俺だけに見えるようで、木戸を出入りする奴は見えてない。
念仏を唱えても、寺で札をもらって貼っても変わらない。
最初は怖かったが、別に何をするわけでもない
ただ立っているだけだ

馴れるとそこに居るのが自然に思える。
怖さも消えて木戸を閉めるときにおつゆの顔を見ると
まるで少女のように若い。

俺はついに声をかけてしまう
「おつゆさん、中に入りな」
きっと長屋に戻りたいのだろうと勘違いをした
若いおつゆは、俺の腕にするりと腕を重ねると
そのまま番屋の中に誘われた。

「私の事が好きだったよね」
若いおつゆは肌を見せると抱きついてきた
「そうだ、俺はお前が好きだった、でも高嶺の花だ」
「今はお前でも触れられる野の花さ」

朝になると死んでいる木戸番が見つかる
幸せそうな顔だという
彼の手には彼岸花

花の幽霊だと、この話になりました。

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