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創作民話 お汁粉屋と塩

茶屋で出す甘いお汁粉は江戸時代からある
「お里さん、おしるこを2つ」
私はこしあんに、白玉を入れて用意する。
「おまちどうさま」
客層はさまざまだが、私の店は高級店ではない

藁葺きで土壁がむき出しのぼろい店だ。
表現は悪いが、貧乏人相手の商売
別に気にしてはいない。

「しるこくれや」
外の席で、お客さんが呼んでいる。
長い椅子があるだけの席で、塩売りが座っていた

「一椀でいいですか?」
「ああ頼むよ、歩き疲れて甘いものが欲しくなった」
年老いた男は、もう見ただけでくたびれている

塩売りはお金が無い人が、商売をする職業だ
金も力仕事も出来ない、そんな人が売り歩く。
他の商売は、それなりに支度に金がかかるが
塩売りは支度の必要が無い

銭をもらって、お汁粉を作る
「おまちどう」
塩売りは自分の荷物から、塩をだすと汁粉に入れた。

「そんなに入れたら、味が変わりますよ」
つい口に出すが、客がどう食べようと勝手で
余計なお世話だ

「いやいや、こうすれば汗で抜けた塩を補充できる」
うまそうに食べると席を立つ
「ありがとよ」
すたすたと道を進んでいく

「そうね確かに、味を調整できるかも」
汁粉は元は塩味らしい。
今は甘く作られているが隠し味で塩を使う場合もある。

次の日から、力仕事をしている客に、
塩気のある大根の漬け物も出す。
「お里さん、頼んでないぞ」漬け物に戸惑う客も居るが
意味がわかると好評だ。

お客も増えて、店も大きくなる。
私は人を雇えるほど裕福になった。

「お里さん、店に変な客が来てます」
雇い人が困惑をしている。
「どんなお客さん?」

出てみると、前に来た塩売りだ。
見るからに病んでいるのが判る
「すまんな、この店で汁粉を食いたくてな」
私は、彼から塩味の漬け物を思いついた
恩がある。

「座敷に通して」
老人は畳敷きの部屋に通されると恐縮している。
汁粉を出すと、彼は旨そうに食べた。
「最後に、ありがとうよ」

私は彼に少しでもお金を渡そうとしたが
断られた。
「この汁粉で十分だ」
彼の人生に干渉できない、
お汁粉に塩をいれた時と同じだ。

ほんの少しだけ交差した男の人生を不思議に感じながら
よろよろと外に出る老人を見送った。

終わり


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