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創作民話 関係

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2022年1月の記事一覧

創作民話 ゆびきり地蔵

某月某日  「私は他国を巡り行商をしています」 「ときたまその地で奇妙な事を見聞きします」 むかいに座っている老人は興味がなさそうに相づちを打っている 「ある山奥の村で、ゆびきり地蔵の話を聞きました」 「地蔵といえば子供を守る仏さんです」 「なにか約束でも守ってくれるのかと思いましたが」 少し私は言いよどむ じいさんは相変わらず眠そうでも聞いてくれている 「その地の役主さんに聞いてみると物騒な話でした」 「まずその地蔵というのは口が開いています」 「ご存じのように普通のお地蔵

創作民話 ふたりの惣領

ある武家の惣領が朝帰りをした。しかし前日にも総領が家に戻っている。 ふたり居る総領を、それぞれを別室に通した。 我が家は長男の総領と次男坊がいる。家族に面通しをすると 誰が見ても区別がつかない。母親ですらわからないわからないとつぶやいた。 それぞれの前日の言い分を問いただすと 先に戻った方は茶屋からまっすぐ帰ったという 朝帰りした方は茶屋から戻る途中で眠くなり古寺の軒先で寝て朝に戻った。 どちらの言い分も茶屋から後の目撃者も居ないため確認ができない 総領同士は合わせないように

創作民話 辻男

夜中に辻を通ると男がいる。夜盗かと恐れるが何もしてこない。 こちらから問うても話さない。 ただ居るだけなのだが、片腕を上げて道を指している。 自分の行きたい方向でもないので無視をして歩くとまた辻にでる そして男がいる。 迷ったかと考えるがまっすぐ歩いているだけなので間違うわけもない 狐に騙されていると思いそこらの枝で男を追い払おうとすると 消えてしまう。 安心して歩き出すとまた辻にでる。 男もいる 怒鳴っても懇願しても男は何も話さないし何もしてこない ただ道を指しているだけ

創作民話 前妻の古鏡

古道具屋は手鏡を見せながら 「いわくつきですよ」と断りをいれた。 以下は古道具屋の語り 「武家の奥様のもちもので」 「何代も嫁ぐときに持たされた鏡と聞きました」 「裏を見ると縄模様の奇妙な細工がされています」 「もしかしたら上代のものかもしれません」 「奥様は体も弱く、床にふせる事も多かったようで」 「長くは無いとご自身も悟っていたのでしょう」 「殿様に死んだらこの鏡の持ち主がいなくなる」 「後添いにお渡しして大事にしてもらいたい」 「と懇願されて殿様も了承いたしました」 「

創作民話 死神の駕籠

俺は不貞腐れていた。当たり前だ、ろくな相棒が居ない。 この前は非力な野郎が相方だ 力がねえもんだからふらふらふらふら危なくて仕方が無い 客は文句を言って歩いて帰ってしまう 駄賃もでねぇ 親方に相方を頼んでも 経験の無い奴しか紹介されない このままだと食いっぱぐれだと悲観をしていたら、 人相の悪そうな男が近寄ってきた 「駕籠の相棒を探しているのかい」 やけになれなれしいな うさんくさいが背に腹は代えられない 「相方になるかい?力はあるか?」 その野郎は陰気そうに「経験はあるぜ、

創作民話 化け傘

天気なのに傘がある。 番頭が丁稚を呼ぶ。 「お客様の傘かもしれない、しまっておきなさい」 丁稚はさっそく納屋に入れます。商家なので客の出入りが激しく 傘のことなぞ誰も覚えていません。 丁稚が雨の日に使いを頼まれます 納屋にしまった傘を思い出し取りに行きましたが、それきり行方がわからなくなりました。 「使いを頼んだ丁稚はどこにいる」 ぷんぷん怒る番頭さんのため、みなが探しますが見つかりません。 丁稚は奉公に来ていますから実家に戻ったかもしれませんが これも空振りです 当時は子供

創作民話 かゆうま

その雑炊屋のつくる粥はまずい。 いやまずいを通り超して、致命的ですらある。 当時の衛生状態はひどいもので、売れればかまわないと思う商人も居た。 現代でも痛んでも大丈夫という人もいる。 利点といえば安い事。 一文二文で腹一杯になる。 貧乏人には生命線ともいえるが、食してあたれば死んでしまう代物だ。 「安いよ安いよ」雑炊屋は今日もえたいのしれない 肉やら野菜やらを煮込んでいる。 決してうまそうな臭いでもないのに、食べる客はいる。 そこに六尺はありそう大男がきた。 「おれにもその粥

創作民話 ひとくいやど

中年とおぼしき男女が田舎道を急ぐ 「あんた、まっとくれ疲れたよ」 「早くしないと捕まるぞ、山を越えれば仙台藩だ」 むかしの犯罪者は、国境を越えれば追っ手から逃げられました。 この男女は夫婦でもないようです 「あんたは、美しい客だとすぐ手をつける」 「うるせえな、金持ちと見れば容赦しない、お前のせいだ」 もう夜半です、月明かりだけで峠を越えます 峠で一息つくと下の方に家の灯りが見えます 「よし今日は、あそこをねぐらにするか」 男はふぅふぅ言いながらも、安堵している 「家の者を、

創作民話 影あんどん

ほんわかした光を暖かく感じる。 子供は、夜になるとあんどんを見るのが楽しみだ。 お金持ちの家に生まれたその子は、夜更かしを許されていた。 絵草紙を読みながら、ちょっと休むときに あんどんの炎がゆれるのを見る 表面の和紙に炎が映り、文様が浮かび動いているように見える。 「これは馬かな、これは茶碗に見える」 何も描かれていなくても、でこぼこで絵が浮かび上がる。 その日もなんとなく、あんどんを見ていると 棒のような、人のようなものが見えた。 じっくり見ていると、動いてるようだ。 棒

あめ売り

「今日もさっぱりだ」「生きていくのも面倒だ」 土手でごろ寝して、ぐちを言うのは、あめ屋 川原を見ると子供達が、川の石を集めて積み上げて遊んでいる。 うらやましそうに「俺も気楽に暮らしたい」 何をしても仕事が長続きしない しくじりが多くて嫌われる。 子供相手ならと、あめ売りをしたが売れない 何が悪いのか自分ではわからない 「おじちゃん」 見上げると五歳くらいの娘が立っている 「なにしているの」 土手に座り直して「休んでるんだ」 と答える 「おじょうちゃん、あめ好きかい」 あめ売