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【3分間ブックレビュー】No.006/ゲンロン戦記

<3分間ブックレビューとは?>

この記事では、ビジネス雑誌などを中心に20年近くにわたり執筆を続けるフリーライター・ひらっちが、過去の名著や話題の一冊などをピックアップし、3分でサクッと読めてちょっぴり役立つ情報をお届けしています。

今日の一冊・・・『ゲンロン戦記』

今日は、最近読んだ本の中からこの一冊をご紹介したいと思います。『ゲンロン戦記』という本です。

今、とても売れているようですね。Amazonを覗いてみたら、すでに200以上のレビューが付いていますし、評価もかなり高いみたいです。僕もどこかの書評を見て手に取ったわけですが、評判通りの面白い一冊でした。

この本は、批評家・作家として活躍されている東浩紀さんが、自ら会社を興し、経営してきた2010年代の10年間を描いたものです。元々哲学者として有名な方のようですが、お恥ずかしながら、お名前をうっすら知っている程度でした。

僕は大学時代、文系の学部で勉強していましたが、法律、経済、経営といった実学系の学問を専攻していて、哲学とか社会学といった分野はあんまり触れてきませんでした。社会人になってからもその傾向は続いてきましたが、30代も後半に差し掛かった頃からビジネス書だけでなく、哲学的な本にも触れるようになり、面白いなと感じることが多くなりました。

というわけで、東さんの哲学的な思考が存分に発揮された著作なのかと思っていたわけですが、実際の中身はというと、その半分ぐらいが「とある中小企業の創業者の記録」といった趣になっています。

「じゃあ、あんまり面白くないの?」と思いきや、むしろその逆で、中小企業の経営者の苦悩が赤裸々に描かれていて、これから独立や起業を考えている方にはとてもタメになるんじゃないかと感じつつ一気に読了しました。カリスマ経営者の立志伝を熟読するよりも、こちらの方が等身大で、むしろ役立つことが多いと思います。

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これはあくまで個人的な印象ですが、元々スタープレイヤーだった人が、会社を興したり、お店を始めたりすると、上手くいかないことが多いと感じています。僕はこれまで、仕事を通じてさまざまな経営者さんをインタビューしてきましたが、例えば飲食店さんなどでは、めちゃくちゃ腕のいいオーナーシェフにも関わらず、経営が上手くいっていないということが往々にしてあります。要するに、現場のスキルと、経営のスキルは、全くの別物だということですね。

あえて例えるなら、イチローさんが球団経営をやるみたいなものでしょうか。もちろん、頭脳明晰で知られているイチローさんのこと、球団経営もそつなくこなす可能性は大いにあるわけですが、でも、求められる能力はきっと別物ですよね。

東さんも、いろいろとあって2018年から社長の席を譲って以降、むしろ順調にビジネスが進んできていると述懐しています。

クリエイティブ系の職種で独立した人を見渡してみると、作品づくりに没頭するあまり、経営的な視点が欠如しているといったことは結構あります。もちろん、手を抜いていては受注に繋がらないけれど、こだわりすぎても経営が成り立たない。そのちょうどいい案配をいかに成立させるか。プレイヤーと経営者のほどよいバランスを取るのが、なかなか難しいところです。

会社組織が大きくなればなるほど、現場を離れて経営面で力を発揮する必要が出てきます。現場が楽しくて仕方がないような人であれば、僕みたいに一人、ないしはごく少人数の組織に留め、現場に関わり続ける方がむしろ幸せな働き方だろうな、と僕は思います。

組織を大きくしようと頑張りすぎると、かえって幸せな働き方を失ってしまう。将来独立を目指しているなら「どんな働き方を望んでいるのか」をきちんと考えておくことが大事だと、この本を読んで改めて感じました。

本の中では、経理を担当していた人が業務を放置し、辞めてしまった時のお話が描かれています。結果的に、大量の領収書と自ら格闘することになる東さんは、この時の作業を、こんな文章で振り返っています。

そういう作業をするなかで、ついに意識改革が訪れました。「人間はやはり地道に生きねばならん」と。いやいや、笑わないでください。冗談ではなく、本気でそう思ったのです。会社経営とはなにかと。最後の最後にやらなければいけないのは、領収書の打ち込みではないかと。

折しも、世間は確定申告の時期です。そう思いながら領収書の山と格闘しているフリーランスの方々もたくさんいらっしゃると思います。僕も含めてですが(笑)

結局そうなんですよね。やらなければいけないことは、地道なことだったりします。独立することは、今まで気づいていなかった地味な作業もすべて自分で引き受けるということ。これもまた、一つの現実であるわけです。

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半分ぐらいは哲学的な内容になっているので、そのあたりは好みが分かれるかもしれませんが、中小企業の実情を描いた本って、あんまりないんですよね。なぜなら、有名企業でもない限り、書店に置いても売れませんから(笑)。そういう意味では、かなり貴重な存在かもしれません。気になる方はぜひ手に取ってみてくださいね(^^♪

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