【ヒューマン】 アラビア語・トルコ語・ペルシア語翻訳家 片桐早織 さん
アラブ首長国連邦の絵本『ラマダーン』を発売
2024年2月、初のアラブ首長国連邦の絵本『ラマダーン』(7歳向けのストーリー絵本)を発売しました。
ワールドライブラリーでは、世界中の国の絵本を翻訳出版しており、現在は、約35カ国100タイトル以上となっています。
『ラマダーン』の注文や問い合わせに関しては、当初の予想をはるかに上まり、絵本の売り上げとしては、低年齢向けしかけ絵本が上位の多くを占める中、『ラマダーン』も堂々のトップ10に入る勢いなのです。
ラマダーン。断食。聞いたことはあるけれど、その本当の意味や内容は、大人でも知らないことが多いのではないでしょうか。
絵本『ラマダーン』は、そんな方々にぴったりの一冊です。断食やご馳走、夜の特別なお祈りなど、ラマダーンの風習はもちろん、イスラーム教の人々の暮らしや文化も感じ取ることができます。
切り絵アートのような質感と温かみのある色合いのイラストは、まるでアラビアンな夢の中にいるような感覚を与えてくれます。絵を見ているだけでも、イスラーム文化への興味が湧いてくることでしょう。
日本ではあまり馴染みのない文化を知ることで、子どもたちは広い世界に触れるきっかけになります。大人にとっても、改めて(初めて?)イスラーム文化を知ることができる、とっても奥深い一冊です。
ここからは、『ラマダーン』の翻訳者である片桐早織 さんのお話会の様子とインタビューした内容を紹介させていただきます。
『ラマダーン』お話会の様子
ー 板橋区立中央図書館/JICA横浜ライブラリーで片桐さんが行ったお話会はいかがでしたか?
板橋区立中央図書館「外国語おはなし会」で、『ラマダーン』の読み聞かせをさせていただきました。
アラビア語などの特殊言語のお話会の場合は、残念ながら普段はあまり人が集まらないのですが、当日は図書館内の他の子ども向けイベントと重なっていたにも関わらず、多くの親子の皆さんが来てくださいました。
また、JICA横浜ライブラリーさんでは、イスラームやアラブの文化をご紹介するために作ったアラビア語の紙芝居(自作)の上演と、絵本『ラマダーン』の読み聞かせ、そして中東の絵本のご紹介をさせていただきました。
今回はJICA横浜ライブラリーさんのご要望により、アラブの民族衣装を着用。真っ黒いアバーヤに黒いニカーブ、そして黒いヒジャーブ…。
表に出ているのは手首から先と目元だけ。 実は…とても楽です。
まずは「クイズ何かな?何かな?」という語源当てクイズの紙芝居で、中東に親近感をもっていただき、「ラマダーンってなぁに?」という紙芝居で、ラマダーンについて簡単にご紹介。次に絵本『ラマダーン』を大きなスクリーンで映しながら、私がアラビア語原文を、次に司書さんが日本語訳文を読み、加えて私が用語解説をさせていただきました。アバーヤが出てくる箇所では、立ち上がって着用していたアバーヤをご披露。
絵本のご紹介では、いたばしボローニャ絵本館さん所蔵の中東の原書をご紹介。『ラマダーン』に登場するお菓子なども、『アラブ首長国連邦のABC』という絵本の写真をお見せしました。また会場の皆さんには、アラブの早口言葉絵本から抜粋した「アラブの早口言葉」に挑戦していただきました。
いずれのお話会も、「ラマダーン」という言葉や中東に関して、日本ではあまり知られていないながら、お楽しみいただけたようで良かったです。
片桐さんの経歴、翻訳のお仕事、そのほかの活動
ー 精力的にお仕事をされている片桐さんですが、翻訳家としての原点、現在の活動等を教えてください
国文科卒ですが、オリエント考古学(中東の古代史)が好きで働きながら学んでいました。その縁で現地での発掘に参加させていただいているうちに、古代史だけでなく中東の風土・文化・歴史、そして言葉の奥深さにも惹かれてしまい、改めて学びました。
アラブイスラーム学院(サウジアラビア国立大学分校・当時)の図書室司書、国際子ども図書館協力員を経て、現在は翻訳の傍ら、アルドゥルキッサという手作り紙芝居ユニットを立ち上げ、バイリンガルで演じるなど、日本と中東の双方向にお互いの文化を紹介する活動を行っています。
また昔話や中東の絵本の研究や、再話での語りもしています。
アラブ首長国連邦や近隣諸国について
ー 近年は多文化への理解が深まっているとは言え、私たちがまだまだ知らないことが多い国々だと思います。ぜひ、教えてください!
アラブ首長国連邦というと、「お金持ちの国」というイメージがあるかもしれません。日本でもドバイ観光は人気がありますね。アラブ首長国連邦やサウジアラビアなど経済的に豊かな国は、超高層ビルが立ち並ぶ一方で伝統文化を大事にする、近代と伝統がうまく融合した国です。
また、アラブにはシリア、エジプト、イラク、レバノンなどいろいろな国があり、それぞれ違いがあります。そしてアラブ諸国、さらに近隣のトルコやイランには、イスラームという共通の文化と価値観があります。
これらの国々にはイスラーム教徒だけでなく、キリスト教など他の宗教の人たちも暮らしていますが、宗教に関係なく皆、家族やご近所同士の関係が深く、人に優しい温かい人たちです。
想いや伝えたい事など
ー 遠い異国のイメージでしたが、少し身近になった気がします!最後に片桐さんの想いを教えてください。
アラブやイスラームというと、まだ日本では「ちょっと得体が知れない」というマイナスイメージがあるようです。
確かに日本とは文化が大きく異なりますが、「日本人はイスラーム教徒のようだ。」と称されるほど、その価値観やモラルは共通しているところがあります。
また日本語の中には、コーヒーやシャーベット、ギプスやマッサージ、キヨスクやバザーなど中東から入った言葉が沢山あります。
文化の違いは生活の違い、そして違っているからこそ面白いもの。
誤解や偏見にとらわれず、仲良くつきあっていきたいものですね。