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自分のために自分のしたいことを考えたら無意味に見える時間を楽しめるようになった

*以前掲載していたハッティバッティシリーズを加筆・修正したものです


シナモンとスキー場の匂いがする

 2018年 お盆真っ只中 連日35℃を超える猛暑の日本から11時間の飛行機の旅を経てヘルシンキ ヴァンター空港に降りた私は長い長いパスポートチェックの列をようやく抜けたドアの先で感じた第一印象は涼しさと日本とは違う匂いだった

 私が乗った便はちょうど日本からの到着便が3便も重なり、飛行機を降りてからパスポートチェックまでの長い道のりは日本人ばかりだった。イベント終了後に会場の出口に向かう人混みのように前後左右に人が隙間なく歩いている。聞こえる言葉も日本語ばかり

 本当にフィンランドに着いたのだろうか?

 最後に出た機内食はモスバーガー。私が乗った航空会社では期間限定で日本の味が提供される。
お盆ということもあり機内の9割は日本人だった。
長い通路の途中にあるトイレに寄るとトイレにも日本人しかいなかった。個室に入り便座に座ろうと思ったらいつもの高さに便座がなく、びてい骨に便座の先が当たった。振り返ってちゃんと位置を確認してしてから座ると便座が高くて足の裏が全部つかなかった。そこでようやく

あぁ、本当にフィンランドにきたんだ

と 尾てい骨の痛みとともにじんわり感覚が体に広がったことを覚えている

海外が怖い

 私は一生日本から出ることはないし、海外旅行も興味はない。英語を使うような仕事をすることも絶対にない。だから英語ができなくても問題ない。そう思っていた
そもそも保育士をしていたら海外旅行に行けるような収入もないし、休みだって取れない。海外と自分は無縁だと思っていた

 それよりも気になることは周囲に嫌われない、迷惑をかけないこと。今、機嫌いいのかな?話しかけていいかな?ビクビクしながら上司の様子を伺っていた自分は、いつしか逆に様子を伺われる立場になった。常にイライラしている自分が大嫌いなのにどうしたらいいのかわからなかった。

 そんな時デンマークの海外視察ツアーの案内をみて、これに参加したら何か変わるかもしれないと単純に思って参加した

 海外とは無縁だと思っていた私が初めてパスポートを作り日本を出た

デンマークの保育視察旅行 

 デンマークの幼稚園は何もかもがオシャレで可愛くて先生たちも輝いて見えた。現地の先生に聞いてみたいことがたくさんあった

でも私は英語ができないので通訳さんを捕まえて聞いてもらうしかない。でも20人の参加者に通訳さんは1人。デンマークはデンマーク語が公用語だが、ほとんどの大人は英語が通じる。だから英語ができる参加者の人が羨ましかった。

 帰国後、英会話教室に通い始めた。いつかこの悔しかった気持ちをリベンジするんだ!と強く思って行ったがダメだった。初心者クラスに入ったが他の生徒がペラペラに見えた。アメリカ人の先生が何か話すとみんなが同じタイミングで笑っている。私はなんで笑っているのかわからなくて、その場にひとりぼっちでいる気分になり、すぐ辞めた

やっぱりデンマークに行っても何も変わらない

自分について考える

 デンマークはまるで夢の時間だったかのようにすぐいつも通りの保育が始まった。デンマークに行って現地の幼稚園をみても私の保育は何も変わらない。デンマークは楽しかった思い出になり、仕事では年次を重ね気づいたら責任ある立場になっていた。気づかないふりをしていた体の不調もとうとう限界になり精神的にも辛い事が重なり仕事を辞め地元に帰った

 時間ができたので今まで放置していた自分のことについて考えてみた
仕事を辞めてみると自分の頭の中は仕事に関することばかりだったようで、それがなくなると何を考えていいのかわからない

 今一番したいことをやってみるといいよと助言を受けて考えてみたらデンマークのことを思い出した。デンマークにもう一度行きたいのか海外旅行に行きたいのかもっと考えてみた

そうしたら海外の保育園で働いてみたいという考えが出てきた

観光みたいな海外の保育園を視察するのではなく長期でその場所の職員として働く。視察でみられる保育は365日の積み重ねの中のたった1日、その1日を作るために日々どのような関わりや取り組みをしているのかそれをみてみたいと思った

仕事をやめて時間はある

退職金もある

家族も別に反対していない

あとは自分の行動次第!

カラッポだった頭の中は海外の保育園で働くキラキラした自分でいっぱいになった


ニョロニョロが湧き出てくる

 海外の保育園で働きたいと言っても何からすればいいのかわからないが大変なことだけはわかる

そもそも、中学英語も怪しいレベルの人間が海外に住めるような手続きをすることができるのか?英語の書類なんて読めない。書けない。実際住んでみても頼れる人がいない国で生活できるのだろうか…
そもそも30歳過ぎてから勉強なんて遅すぎるのかもしれない…

 まるでムーミンに出てくるニョロニョロのように不安が次から次へとニョロニョロと出てくる

 30代前半の大事な時期を費やして日本に戻ってきたところでなんのキャリアにもならない。お金と時間を浪費するだけ無駄なのか…?

次々とニョロニョロが出てくるとだんだん面倒になってくる。所詮私には最初から無理なのだ。30歳過ぎて貯金全部使って海外に行くなんて将来のことを考えてなさすぎる。おとなしく就職先でも探すか…と思っていると

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とニョロニョロを抜いてくれる人が現れた


「お金なんて後で稼げばいいんだよ!経験は今しかできないよ」


またニョロニョロが出てくる


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「若いうちはたくさん経験した方がいいよ! 年取ると家族の世話とか病気とか、自分の病気で身動きできなくなるから。頑張れ! 応援してる!」


こうしてニョロニョロが出てくるたびに誰かが私のニョロニョロを抜いてくれる


海外に住む決断をしたと話すと「すごいね」と言われることがある
私は何もすごくない
運がいいだけだ

こんな現実的でない話をしても誰も馬鹿にする人がいなかった。諦めようと思ったときに、ニョロニョロを抜いてくれる人がいた。ただただ運がよかった。周りの人に恵まれていた

大切なのは自分のしたいことを知っていること

 親の希望通りに生きたり、クラスの子どもたちの願いを叶えたり、保護者の要望に答えること、上司の期待に応えるのではない。誰かのためではなく自分のために自分のしたいことを考えた

それが海外の保育園で働くことだった
やはり私は保育に関わることはしたいらしい

これを諦める理由はいくらでも出てくる。でも今、諦めたら
一生私は私を信じないのだろう

私なんて何をやってもどうせ無理

諦めてグチを言いながら無難に生きる
20代はそうやってたくさんのことを諦めた

 30代前半が大事な時期だって誰が決めたのか?40代だろうと60代だろうといつだって大事にしなくてもいい時なんてないのに…
20代の自分は大事にしてあげられなかった。これからは自分の気持ちを大事にしてあげよう

大切なのは自分のしたいことを自分で知っていることだよ

(- スナフキン トーベ・ヤンソン「ムーミン谷の夏まつり」より)

スナフキンの言葉がまた私のニョロニョロを抜いてくれた


フィンランドに行けた

 こうして、蕁麻疹が出るほど四苦八苦しながら出国前の手続きを済ませ2018年の夏、私はヘルシンキのヴァンター空港に降り立った。
「こんな私でも、フィンランドに来ることができた」
この時点でもう私は感無量だ

しかし実際に生活が始まると、最初は楽しくてもだんだんと旅行気分からリアルな現実へとなり様々な壁にぶつかった
そのたびに、日本からそしてフィンランドで出会った人たちが助けてくれ
どうしても、ツラかった時は一度帰国した
帰国して笑うような人が周りにいなかったのも救いだった

フィンランドでは自分と向き合う時間がとにかく多かった。湖を眺めながらぼーっと過ごしたり、森の中を歩いたり、サウナに入ったり…
日本にいた時にのように好きな推しの情報を逃さないようにSNSにかじりついたり、流行りのスイーツ、人気の化粧品、最新の教育事情など、溢れるような情報が頭を占めることもない

とにかくボーッと何もしないことに罪悪感を感じないことを覚えた

何もしない予定を立てるようになったのだ


「無意味なように見える時間も人生の中で大事だから子どもたちには意味のあることだけを求めないようにしている」

どこか誰かの先生が言った言葉を思い出した
せっかくフィンランドまで来たんだからアレもこれもしなきゃ!!と思ったが意味のあることだけが人生ではないと学んだのだ

そして帰国して…


帰国してすぐ誰もが予想しなかった感染症の流行で、完全に海外への道が閉じた。「あの時、行っておいてよかった」と思ったが、日本にいても人との交流が難しくなり私たちの生活はガラリと変わった

その影響かわからないが、時々無性に自分の今までしてきたことが無意味に感じることがあるのだ。他人と比べて自分が無価値のように感じることもある。よくわからない不安に襲われることがある。

でも、そんな時こそこの言葉が私のニョロニョロ引き抜いてくれるのだ

無意味なことも人生に必要
無意味なことを楽しもう

そうだ、私は無意味なことをしているかもしれないけどそれも必要なのだ。もしかしたらいつか無意味に見えることに意味が付いてくるかもしれない。


そうしてゴロゴロスマホをして時間を溶かしても
休日に昼寝をし過ぎてしまっても

ずっとnoteをサボり続けた言い訳にするのだ

私は意味のないことを楽しむのに忙しかったのだ!


yakko



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