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「江之浦測候所」で、人類と宗教の起源にふれる

かつて蜜柑畑だった神奈川県小田原市・江之浦の地に、杉本博司氏が設計した壮大なランドスケープ『小田原文化財団 江之浦測候所』

杉本博司氏といえば、今期のNHK 大河ドラマ「青天を衝け」の題字を手がけ、宗教的な作風で国内外に知られる現代美術作家である。

そんな氏が、構想10年、工事10年の年月をかけて「自らの集大成となる作品」として2017年にオープンした同所。先般ようやく訪れることが叶ったので、今回はこの『江之浦測候所』をレポートしたい。そこはまさに氏の意向が反映された、宗教的ともいえる空間であった。
https://youtu.be/Ft2yE4BrjEg

一番最初のコンセプトというのは、この地下の70メートルの隧道が、冬至の陽に向かって、太陽が昇るところに向かって伸びている。(略)それに対して付随して、じゃあ夏至の日、それから春分・秋分の日はどうなのか?そういうその、宇宙の運行上の軸線を、人間が、その、自意識が芽生えて「自分は何なんだろう?」と思った時に、やはりその、一番最初にしたことっていうのは「自分の場所を知る」ということですよね。それでやったことというのが、太陽の運行の規則性っていうのを認識するっていうことが、一番最初の、人間の意識のはじまりの行為だと思うんですよね。(上のYouTube動画より抜粋)

この場所は特定の宗教に与している訳ではないが、氏の発言からも汲み取れるように、太陽信仰やアニミズム的なものを前面に押し出していて、それが極めて「宗教的な」空間設計となっている。

かつて使われていた礎石、道祖神や野仏が集められて敷地内に点在し、竹藪の中など、思わぬところには氏の作品が展示されている。石群や作品は自然の風景に溶け込みながら、しかし存在感も放ちながら、朽ちていくのを厭わないような、今生のものとも異生のものともつかない、今際の際のような磁力を湛えている。

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日常生活と異なったスケールに身を預けているからだろうか、ここでぼーっと2時間近く、手入れされた敷地内を散策したり、水平線を眺めているうちに、日々の雑念が振り払われていくのが分かる。そしてこんな事を考える。

天体も巡るし、季節も巡る。形あるものはやがて朽ち、いのちは循環する。人間もそのサイクルにある。

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自然とそんなふうに思い巡らしているうち、ここを出る頃には、「よし、日常生活を頑張ろう。」という気分になる。不思議なもので、リセットできたような、リフレッシュしたような気分になる。

教会やモスク、寺社仏閣が誕生するよりはるか以前の、原初のプリミティブな宗教場に訪れたような余韻が残っている。きっと場から力を貰ったのだろう。

江之浦測候所は、ギャラリー、屋外舞台、茶室、庭園などで構成され、「人類とアートの起源に立ち返り国内外への文化芸術の発信地となる」ことを標榜している。しかし筆者にとってはここは紛れもなく「人類と宗教の起源に立ち返る」場所であった。

医食同源という言葉があるが、この地にはいずれレストランがオープンするのではないか?ここで1泊2日のリトリートなど開催されたら、さぞ良い時間となるだろう。ここで坐禅会なども良いだろう。そんなアイデアが次々と湧いてくる、滋養に満ちた滞在であった。

気になった方には、是非とも足を運んでいただきたい。

小田原文化財団 江之浦測候所(事前予約制)

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Text by 中島光信(僧侶・ファシリテーター)


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