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ひつじにからまって

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ひつじにからまっているものがたりたち
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#海

あてのない約束

あてのない約束

「次は、あっちの海行き。あっちの海行きでございます」

気兼ねない声でアナウンスが入ると、グッと体が左に寄せられる。なだらかな曲がり角をあえてハンドルをキリキリと回しながら進んでいた。

自分以外は酔ってしまっても構わないという身勝手さが伺えたが、ハンドルを任せてしまったこちらが悪いのだ。足がつかまるとはしゃいでしまったのが運の尽き、先月もやられた手にまんまとかかっている。

どうやったのか、あえ

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アクアリウム・ハイウェイ

アクアリウム・ハイウェイ

「アメフラシは体を触ると紫色の汁を噴出します」

打ち付けられた雨がフロントガラスに流れを作り、流れ落ち続けている。ずっと向こうはレインコートの外側を眺めたようにぼやけ、無造作に設置された街灯がなにかしらの星座を形づくっているように見えた。
少し素敵なものだったから彼女に教えようかと思ったのだけど、気まぐれにいろいろな動物を紹介する自然のドキュメンタリー作品にくぎ付けになっていたのでやめておいた。

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シーベッド・サーバールーム

シーベッド・サーバールーム

サーバーは背の高い木のようにラックに積まれている。機体のひとつひとつがうなるような排気音を垂れ流し、まるで牛がうなっているかのような音をあげている。

その部屋が誰に用意されたのかを知る者はない。
その部屋のものが何をしているのかを知る者はない。

夜中にあげられる熱風の作用でときどき波がさざめいた。
ファンがカラカラ鳴ってみせれば、そこら中になにかがいると思わせた。

タコの影が現れて、サーバー

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