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【読書感想】私たちは子どもに何ができるのか

「私たちは子どもに何ができるのか」—――

大きな問いです。

この本の大きなテーマは”非認知能力”です。ピンときますか?ぼくは何となく言葉は知っていましたが、何を指し示すのか、よく分かっていませんでした。

”非認知能力”とは、ひとつのことに粘り強く取り組む力や、内発的に物事に取り組もうとする意欲などを指す。心のOS(オペレーティングシステム)と言っても良いかもしれない。(p.5 日本語版まえがき より)

本書では上記のような力を指して、非認知能力と呼んでいます。区別としては、IQや学力など数字で表せるものが認知能力、そうでないものが非認知能力、という感じでしょうか。

たらたらと本についての説明をしても仕方ないので、この本を読んで「おお!」と思ったところだけ取り上げてみたいと思います。

①非認知能力を育成するために働きかけるべきは、子ども自身ではなく環境である

著者の研究によって明らかになったのは、非認知能力をうまく引き出す教育者たちは非認知能力の話を教室で口にすることはないということである。読み書き計算を教えるようなプロセスで非認知能力を習得させることはできない。

少し耳が痛かった。ぼくが教室で実践している『学び合い』では、始めと終わりに教師が話す。振り返ってみると、「自分たちで考えてタイムマネジメントするのが大事だよ」とか、「最後までやりきる姿勢が大事だよ」とかをはっきりと伝えていた。それが絶対不要とは思わないが、この本を読んで、もっと大切なのは、一緒に夢中になり、何がいけなかったのかをしっかりと一緒に考えることであると思った。教師のマインドがつくり出す環境である。

また、非認知能力を育成する上で最も重要なのが3歳までの関わり方だという。これは現時点での学校教育でなんとかできる部分ではないが、3歳までの子どもが生きる環境が、非認知能力の大部分を形づくるのだ(ちなみにアメリカではAmazonのCEOであるジェフ・ベゾスが何億ドルと出資してプレスクールを支援するような動きもすでにある。)。

これは端的に言うと、親の関わり方である。親があたたかい触れ合いを子どもに提供する場合と、そうでない場合で子どもの発達に大きな差が出るようである。あたたかい触れ合いとは、子どもの声(片言や鳴き声など)にいつも優しく反応してくれるなど、一見普通のことである(ぼくはまだ子育てをしたことがないからはっきりとは分からないが)。しかし、そのような時に、親が激しい反応を示したり、逆に一切反応しないなどの予想外の行動をとると、それが子どものストレスとなる(当然夫婦喧嘩なども)。3歳までの最も親の保護が必要な時期に家庭内でストレスを受容した子どもは発達が妨げられてしまう。家庭内の環境である。

そしてここには、貧困の問題も絡んでくる。貧困家庭とそうでない家庭で、子どもに提供できる環境は異なるだろう。平成28年の調査で日本の子どもの貧困率は14%。そう、義務教育がスタートではないのだ。こう考えると、現在比重が大きくなっている推薦入試やポートフォリオを活用したこれからの入試は、はたして公平なものなのか疑問が残る。

②「自律性」「有能感」「関係性」この3つを促進する教室環境で、生徒のモチベーションは高まる。

外発的動機付けと内発的動機付けという言葉がある。外発的動機付けとはどういうものかというと、人は「刺激(インセンティブ)」と「強化」に反応する、という行動主義的な考えが反映されたものである。簡単に言うと、ある行いに対してご褒美が貰えると人はもっとその行動をとるようになるし、逆に罰を与えられると、その行動をあまりとらなくなるという、賞罰に立脚して行動が決定されるというものだ。ここでいう”ご褒美”は外から与えられるものなので、それでやる気が出たら外発的動機付けとなる。しかしながら、長期的にみると、この外発的動機付けではモチベーションは上がらないどころか、何もしないときと比較しても下がってしまうというのである。

わくわくするパズル遊びが報酬の導入によって「仕事」になってしまったのだ。仕事となれば、支払いも受けられないのにやりがる人はいない。(p.90 15 モチベーション より)

この文章はなかなか刺さる。子育てでも教育でもこのような側面をついつい引き起こしているのではないだろうか。

だからこそ大切なのは、内発的動機付けである。要素に分けると、「自律性」「有能感」「関係性」の3つが重要である。

「自律性」—―生徒が自分で選んで、自分の意志でやっているのだという実感を最大限に持つことができ、管理、強制されていると感じさせないとき実感するもの

「有能感」—―やり遂げることはできるが簡単すぎるわけではないタスク(=生徒たちの現在の能力を少し超える課題)を教師が与えるときに持つ

「関係性」—―教師に好感を持たれ、価値を認められ、尊重されていると感じるときに感じる

この3つが満たされるとき、人は内発的動機付けを維持できるとデシとライアンは動機づけに関する基本理論である「自己決定理論」のなかで述べている。

ちょうど先日読んだ全く別の書籍、これまた北野唯我氏の『職場の「空気」が結果を決める』において、職場の満足度が高いとパフォーマンスが上がるということを知った。職場を教室に置き換えた時、子どもたちの満足度は上記の3つが大きく影響するのではないだろうか?だからこそ、その3つを満たせば内発的動機付け(パフォーマンス)が高まるのではないだろうか。そんな風に感じた。

今回の読書で、”教師のうまい授業が子どもをやる気にさせる” そんな単純な構造ではないことを知った。すでに非認知能力の大枠が完成している生徒たちに、ぼくは高校で何ができるのか。どんな風に環境づくりをしようか。最適解を求めて日々精進したい。

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