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小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(44)雨が止んで
Chapter44
雨が止み、雲の切れ間から覗く太陽は不気味な青白さを放ち、物語の顛末を静かに見守っていた。それは下界にいる、光り輝く少女の持つ「金色の斧」に味方するかのように、彼女を神秘的に照らし出した。
『この俺の「考察タイム」が来たか。まず、後方には放心状態の学生服の娘、前方には先ほど池の上に浮かんでいたと思われる幼い少女。同一人物であることは明白だが⋯⋯何かがおかしい』
ダンの目は冷静に二人を見比べ、その異常を突き止めようとしていた。光の少女は足元の大きな鏡を興味深く覗き込み、それを指でつついて遊んでいた。そして何やらその反応に疑問を持ったような素振りで、離れた場所にいるダンに向かって叫んだ。
──このかがみ、こわれちゃってるよ!? レナがうつってないもん!──
『そうか⋯⋯映っていない、か。だとすればあの幼子は偽物ということになる。鏡は真実のみその事象を捉え、記憶の反射となってヴィジョンを作り出す⋯⋯一つ目の謎は解けたな。そしてそろそろ、そいつを返して貰おう』
ダンは口元に笑みを浮かべながら、余裕に満ちた足取りで少女の持っている斧に向かってゆっくりと歩き出した。
──レナじゃなくて、トムがうつってるよ! 早く出してあげてよ!──
『何だと!?』
その瞬間、レナの意識は少女の身体へと移り変わり、その小さな足元の鏡に映った「子供のトム」と目が合った。彼は飛び跳ねながら彼女に向かって応援するように言った。
「レナ! やっつけちゃえ! 真っ赤なマント、ヒーローレナ!!」
トムの声を聞いたレナは、ひとつの勝利を確信した。「疑わずに信じた」結果が、今ここで報われるという安堵感に満たされた。
彼女の身体は元の高校生の姿に戻ったが、手に握る金色の斧の重さは一層増していた。物理的な重量とは違う、斧から放たれる圧倒的なパワーが彼女の体内で解放され、そのエネルギーが腕を通じて流れ込んでくるのを感じた。レナは斧を両手でしっかりと握りしめ、全身が黄金の輝きに包まれた状態で、ダンに対し身構えた。
『小僧ではなく、黒幕は⋯⋯この小娘だったか!!』
ダンのロケットのような脚力が火を吹き、金色のレナに迫る。輝きの増した斧はさらに重量感を伴い、彼女の足をふらつかせた。その危うい瞬間、何かに支えられているかのような安定感が身体を包み込み、レナの耳にはトムの優しく温かい声が響き渡った。
──大丈夫、僕が君を守るよ。レナ──
不意に腕が軽くなり、レナは斧を振りかぶった。彼女の涙の一振りは、迫り来るダンの顔面を直撃し、その勢いのまま真下にあった忌まわしい鏡をも同時に打ち砕いた。役目を終えた金色の斧はどこかへ消え、レナは無意識のうちに「ある場所」へと走り出していた。
『⋯⋯ぐああっ⋯⋯グッ!! うう⋯⋯!!』
歴史を刻んだ斧の一撃を喰らったダンの顔面はドス黒く変色し、彼の自慢の「眼力」はその能力を失いつつあった。
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