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小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(41)過去を解いて

Chapter41


 怪訝な表情をしたダンはふと上空を見上げた。そこには不自然に形成された雨雲が浮かび、景色が彼の意図しないものに一変していた。

『ふ〜む。俺の設定キャラが、あの「金色の斧」を偶然釣り上げただと? 出来すぎた話だな? そしてこの天候の変化、お前は、いや⋯⋯お前らは最高に面白いぞ』

 ダンは「トムの映る鏡の中に潜む異形」に注意を払いながら、レナのいる方をチラッと見た。彼女の脳内には邪悪な信号が送信され、レナは苦痛に顔を引きつらせた。

『おい、娘。倒れていたお前の手元に転がっていたモノ⋯⋯ディテールに欠ける不細工なデザイン、別の意味で芸術的とも呼べるが。あれは何らかの「通信デバイス」だな? この世界に来たばかりのお前が、それを作り出せるはずがない』

 両耳を押さえ涙目になりながら、レナは自身の生成したスマホを思い浮かべた。同時にその時の釣り竿男性との会話も、無理やり引き出されているようだった。

『釣りキャラとの運命的な出会い⋯⋯ヤツから教わったAIを使って、元の「現実世界」へ帰れると思った、か。そしてあの池に浮かんでいた幼子とお前の容姿から察するに、その通信デバイスを使い「並行世界の幼い自分」をこちら側に呼び出したと説明がつく。だが一体何のために?』

 執拗な尋問が続く中、レナはそれに抗うかのように、ダンに対して燃え盛るイメージを送った。それは敵意と化して発動し、彼の高級なネクタイをグイと引っ張り上げた。

『小娘⋯⋯。お前も大したレアキャラだ。そもそもこの世界において「この俺」が、靴を脱がされる事などありえん。その「AI設定」への柔軟性と、当然のように能力を発揮できるお前や、その小僧を映し出した「鏡」の反応⋯⋯』

 ダンの強烈な視線がレナの喉元を締め上げた。彼女の首にはいつの間にか、彼の上品なネクタイが丁寧に、そしてキツく巻かれていた。

『貴様ら⋯⋯この俺と同じ「鏡の世界」の住人か?』

 ダンの放った言葉に共鳴したかのように、突然滝のような雨が降り始めた。その雨粒はまるで意思を持っているかのように、激しく鏡の表面を真横から叩きつけ、フレームごとなぎ倒してしまった。そのおかげで束縛から解放されたスーツ姿のトムは、ついに身体の自由を取り戻した。

「うう⋯⋯レナを⋯⋯守らなければっ!!」

 トムはフラつきながらもレナの元へと駆け出し、視界に入った古ぼけた斧を無意識のうちに拾い上げた。その時、ダンの凄まじい脚力が一瞬にしてトムとの距離を詰め、その斧を背後から奪い取った。

『池に沈めて隠してあったこの「大切な斧」の存在とその秘密を、お前はなぜか知っていた。釣りキャラにも知り得ない情報をだ。斧が「歴史を見てきた」だと? まるで自分がそれを見てしまったかのような口振りだな』

 ダンの威圧感に負けじと、振り向きながら堂々とトムは答えた。

「釣りキャラなんて、初めから存在しない。僕はこの場所で釣り竿を持ってこの時が来るのを、ずっと待ってたんだ!!」

『何だと?』


──ブックマーク──




『何っ!? 貴様っ!!』


 喉元を締め付けるダンのネクタイの圧力が緩んだ途端、レナは深く息を吸い込み、呼吸を整えた。彼女の目はスーツ姿のトムに留まり、彼の左手にはいつの間にか開かれた分厚い「絵本」のような書物があった。


So, you too are inhabitants of the 'Mirror World,' just like me?


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