小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(42)先手を打って
Chapter42
ダンは自分が感じ取った「異形」の存在が、目の前のトムが持っている「絵本」らしき物体だと推測した。いち早くそれを解析した彼は、脅威の眼力により一瞬早くトムの「書物のページ」を一枚めくり、ダン自身が取り込まれることを巧みに避けた。しかし彼の持っていた「古びた斧」は次のページに取り込まれてしまった。
『その予測していたかのような判断⋯⋯幾つもの並行世界を経験していないとできない動きだ。そしてその書物⋯⋯お前は一体何者だ? しかも先ほどとは違い何か強い決意を感じるぞ』
ダンはトムが持っている未知の書物に警戒心を抱きながら、雨でぬかるんだ草と土を裸足で踏みしめてトムに迫った。
『転ばされた汚い足裏のままで、お前は靴下が履けるか?』
この突拍子もない質問に、トムは黙ってダンを警戒し続けた。彼の右手には、次のページをめくる準備が整っていた。
『俺には無理だ。気持ち悪いだろう? 靴の中が汗で蒸れるだけで、たまらなく不快な気分になる』
心配そうに見つめるレナを横目に、トムはある決断をした。それは自身の書物のページに取り込んだ「古びた斧」を本来の「金色の斧」に戻し、レナに渡すことだった。
「レナっ!! 今から君に、「金色の斧」を渡す!! それを使って、過去を断ち切ってくれ!!」
突然のトムの言葉に、レナは考えを巡らせた。細かいことはもはやどうでも良く、それを受け取ってから行動を決めれば良いと彼女は思った。
『いかにも勝算があるような言動だ。俺があえて「古びた斧」に変えてから、その娘に渡したのがバレているようだな? さては封印を解いたか、解く術を知っているかのどちらか⋯⋯』
「さあっ!! 受け取ってくれ!! レナっ!!」
トムはレナの方へ向かって右手で何かを放り投げる素振りを見せた。彼女は戸惑いながらも、受け取る構えをしてその場で待っていた。
『ん? 小僧⋯⋯何かを誘っているのか? どこか演技くさいぞ⋯⋯?』
なかなか斧を出現させずに、もたついた動きのトムを見ていたダンは自身の口の中に異変を感じ取った。
『⋯⋯うっ!? くっ⋯⋯グボッ!! これは何だ!? しかも⋯⋯この無数の視線は!?』
ダンの口の中から突如として湧き出る大量の「目玉のような物体」が溢れ出し、浮遊して彼を取り囲んだ。それらはまるでダンの秘密を覗き見るかのように、あらゆる方向から彼を凝視していた。
──みる⋯⋯ミル⋯⋯ 見る⋯⋯miru⋯⋯観る⋯⋯Mill──
「これまでに、何度も破れ去った僕の創造力が⋯⋯ダン! お前の「眼力」を超えるんだ!」
額に脂汗をかきながら片膝をついたダンを見下ろすと、自信に満ちたスーツ姿のトムは、書物からゆっくりと「金色の斧」を取り出し右手に構えた。その姿は、彼がこの瞬間を待ち望んでいたかのように凛としていた。
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