見出し画像

『劇場』ってなんだろ

何千年も前から「ダンサー」と「歌手」という仕事があった。
舞台でお芝居をする「役者」がいて、それを観にくる「観客」がいた。

2022年の現在でも、「ダンサー」と「歌手」と「役者」は存在している。

回転寿司の受付がpepperくんになったり
スマホでぽちぽちするだけでAmazonで買い物できるようになったけど、
まだ「劇場」のシステムは根本的には、何千年も変わらない。
『出る人』がいて、『観る人』がいる。

映画もあるし、Netflixもある。
でも僕は『劇場』で観るのが好きだ。
『映画』も『演劇』も、劇場で観るのは一味違う。

でも、何が違うんだろう。
『劇場』が無くなっても社会は困らないかも知れない。

でも『劇場は娯楽』だと言われるとイラッとする。

なんでだろう。

たぶん一つにまとまらないので
今日思いついた事を、ひとつ。


電車に乗っていたこの前の事。

向かいの座席に座っていたあるおばちゃんがスッと立ち上がって、僕の隣に座っていたお姉さんに話しかけた。

「ねえ、窓閉まってるよ」

あまりにも自然に話しかけたので知り合いなのかと思ってスルーしていたら、お姉さんが言った。

「え、、、?」

あまりにも反応がおかしい。

そう、そのおばちゃんは初対面のお姉さんに突然話しかけたのだ。
たまたま目が合ったのか、事前にコンタクトがあったのかも知れないが僕にはわからない。

ただ分かることは、いま横に座っているお姉さんがとても怖がっているという事だけだった。

「ねえ、窓、閉まってるよ?」

今度はもう少し大きな声ではっきりと言った。

お姉さんは無視していた。もう関わらないと決めたようだ。

「なんで開けてくれないのよ!」

おばちゃんはもといた席にズシンと座った。

両サイドのサラリーマンと本を読んでいた女性はびっくりした様子でおばちゃんを見た。

おばちゃんは車両の全員に聞こえる大きな声で

「ねえ〜、あのお姉さん窓開けてくれないのよ、オカシイわよね、だってこんなにコロナ流行ってるのに、なんで開けてくれないのよ。」

車内の空気が変わるのを感じた。
無色透明だった電車の中が、まるで冷房でもかけたかのように、青白く、冷たい温度になっていくのがわかった。
皆話すのをやめ、おばちゃんの気配を伺った。

ニヤニヤしながら眺める人、
気配を消して席を立つ人、
眉間に皺を寄せ意味深に咳をする人、

皆それぞれの意思の示し方で、ただ1人のおばちゃんに注目していた。

僕の隣のお姉さんはイヤホンをつけて顔から10センチほどの距離ですごいスピードでタイピングを始めた。

誰かに連絡しているのかも知れない。
もしくは何も用事はないけれど、この場が早く過ぎ去るのを待っているのかも知れない。

どうしよう。
おばちゃんがもっと騒いだら?
お姉さんに掴み掛かったら?
さっきの咳をしたおじさんが注意するかも?

自分はどうする?

「あなたが喋ってることが感染対策としてどうなんですか?」
「自分で開ければいいじゃないですか?」

いいたい。言いたいけど、おばちゃんを暴走させるだけなのではないか?

めんどくさいことに関わるのはやめて次の駅で車両を変えよう。


そんな事を考えているうちに次の駅に着いた。

お姉さんはサッと立ち上がり足早に出ていった。

おばちゃんは「はぁ、、、。」と、ため息をついた。

周りのお客さんは変わらずに様子を伺っている。

おばちゃんはまだ何か言いたげだ。

僕は、


その駅で降りなかった。



何故か?


面白そうだったから。



ちょっと変なのかも知れない。
でも刃物を持っているわけでもない、
大柄の男性でもない、
ただのおばちゃんだ(きっと僕より体重は重い)

襲いかかってきたところで払いのけられるし、誰か助けてくれるだろう。


そんな事より、

この後何が起きるのか、次は誰と揉めるのか、
続きを見たくて仕方がなかった。


そんな気持ち、ありませんか?


ちょっと怖いけど覗いてみたい。
人の喧嘩の行く末が気になる。


そんなことありませんか?


同じ空間で何か起きたときに
空気がピリッと変わる快感。


それが、『劇場』で起こる事なんじゃないでしょうか?


動物園だって、
ライオン観たいですよね?

なんなら柵越しに『ガォォォォ』って言って欲しいですよね?

サバンナで目の前で『ガォォォォ』はゴメンだけど、

動物園の柵越しなら『ガォォォォ』して欲しいですよね?

なんで?


面白いから。


ね?わかります?笑



ちなみにそのおばさん、その後、
とっても静かになって
周りの人も落ち着いて、

僕は到着の駅でおりました。

申し訳ないけど、ちょっとつまらん。
窓開けて欲しかったなら
誰か窓開けるまでちゃんと騒げばいいのに。


ちがうか。


でも劇場にはちゃんとオチがある。

だって、嘘だから。人が作ってるから。
お金を取れる、『事件』が起きる場所だから。

嘘だけど、ホント。

目の前に、生き物がいて、
空間の空気が変わるのを肌で感じる

それが魅力なんじゃないかなぁ?


今日はこんな感じで。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?