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「本当の習慣化」ってなんだろう

WizWe総研主任研究員の丹野です。
前回のnoteで習慣化のゴールは「歯磨き」のように「当たり前」「やらないと気持ち悪い」といった状態になることだと書きました。
これについてもう少し詳しく説明いたします。

どこからきた「やる気」なのか

心理学では「やる気」のことを主に動機づけ (motivation)という用語で扱います。そして動機づけは「外発」と「内発」に分類して検討がされてきました。

外発的動機づけとは、ある行為が外的な目的を達成するための手段であり、目的達成や失敗回避のために発生する「やる気」のことを指します。学習行動で例えますと「試験に合格して資格を取得したい」「テストで良い点をとらないと叱られる」といった動機です。
つまり外発的動機による行動は「外的な成果に基づいた行動」といえます。

内発的動機づけは、その行為自体が目的となっており、自発的に発生する「やる気」のことを指します。「内容がとても面白いからもっと学習したい」といった場合は、学習自体が目的となっていますので内発的動機が高い状態といえます。

内発的動機の高い状態では外的な成果に拠らず行動が自発されます。そのため旧来より内発的動機を高めること、つまり「楽しめること」が習慣化において重要だと考えられてきました。

ところが前回のnoteでも書きましたが、歯磨きはこれに該当しません。
楽しいという理由で歯磨きを習慣としている人はほとんどいないでしょう。
しかし歯磨きは、毎日に変化があろうがなかろうが、楽しさや飽きるのとは無縁に、多くの人が継続して行っています。
このような状態が「本当の習慣化」といえるのではないでしょうか。


自己決定理論


では「本当の習慣」を身につけるにはどうすればよいのでしょうか。
それを考えるために、動機づけの種類をもう少し細分化してみます。

今日紹介するのはデシとライアン(Deci & Ryan)の自己決定理論(self-determination theory)です。
自己決定理論では、外発的動機づけの状態を「外的調整」「取り入れ調整」「同一化的調整」「統合的調整」の4つに分類しています。

外的調整:もっとも外的な成果を目的とした動機づけです。行為の結果として得られる報酬や、行為を行わないことで生じる罰を回避するために行動する状態をさします。
(例:学習するとごほうびがもらえる、学習しないとひどい目に合う)

取り入れ調整:やや外的な成果を目的としている動機づけです。不安や自尊心に関連しています。行為の成果によって社会的承認を得たり、恥を避けたいといった背景から生じる行動状態です。
(例:試験に合格して良い評価を得たい、不合格となって恥をかきたくない)

同一化的調整:やや内的な目的からなる動機づけです。その行為の価値や重要性を認知しているために行動を起こしている状態をさします。
(例:この学習は将来必ず役に立つのでしっかりやる)

統合的調整:内的な目的からなる動機づけです。その行為が自分の価値観と合致している状態をさします。
(例:毎日学習することが当たり前)

このうち外的調整と取り入れ調整による動機は「統制的動機」としてまとめられます。
また同一化的調整と統合的調整は「自律的動機」としてまとめられます。
行動の長期的、つまり本当の習慣化には統制的動機ではなく自律的動機が必要となります。

それでは歯磨きはどの動機づけに該当するでしょうか。
おそらく多くの人にとって歯磨きは同一化的調整(例:日常生活を送る上で歯磨きは必要)か統合的調整(例:歯磨きするのはふつうのこと)、つまり自律的動機のレベルにあるのではないでしょうか。
したがって学習や運動も歯磨きと同様に自律的動機のレベルになれば本当の習慣になるといえるでしょう。つまり価値観の変容が必要となります。


結局は行動量?

とはいえ、価値観なんてそう簡単に変わりませんよね。
人間の価値観を簡単に変えられるぐらいなら、詐欺とかカルト被害とかはもっと多発しているでしょう。

価値観を変える方法はいくつかありますが、現実的な方法としては以下の2つがあげられます。

①衝撃的な体験をする
「ものすごい成功体験」をするとか「運動を始めないと〇年後に死ぬと医者に言われた」とか、そういった衝撃的で情動が揺さぶられるような体験があると価値観はガラッと変わります。
そうなると価値観に付随して動機も行動も変化していくでしょう。

ところが衝撃的な体験なんて、そう簡単には出会えないですよね。

②行動し続ける
とにかくずっと行動を継続すれば、行動することが「当たり前」の価値観になっていきます。そうなると、行動しない日があると違和感があるような状態になります。歯磨き習慣と同じ状態ですね。
前々回のnoteでハル(Hull, C)の動因低減説を紹介しましたが、行動は続けることで習慣強度が増し、行動の自発頻度が増します。これが「当たり前化」の状態です。

したがって、本当の習慣化とは「行動を続けて、行動するのが当たり前になること」だといえそうです。
しかし、これだとトートロジーのような結論ですね。

ですので、いかに馴化が生じて飽きる前の行動量を高めるかがポイントといえます。動因低減説では行動後の成果体験を繰り返すことが習慣強度の促進につながるとしています。
そのため早期から成果を実感する経験をいかに多くするかが習慣化に重要といえます。
したがって、早期の行動量を高めて成果を実感できるチャンスを増やし、また、さまざまな成果に対して敏感でいることが大切でしょう。

習慣化は「最初にどうするか」が成否を左右します。


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