見出し画像

習慣化と心理学

WizWe総研主任研究員の丹野と申します。
専門は心理学で、2021年3月までは大学の心理学部で教員として教育・研究活動を行っておりました。
現在はWizWe総研で、習慣化プラットフォーム「SmartHabit」の改善のための研究活動に従事しております。
今後こちらのnoteで習慣化や自己実現などに活用できそうな知見を紹介いたします。

そもそも、習慣ってなんだ?

科学的な心理学研究は、ドイツの心理学者のヴント(Wundt, W)が1879年に心理学実験室を開いたことがスタートとされています。
それ以降、現在まで約140年ほどの間に心理学では習慣化に関するさまざまな研究がされてきました。

研究を紹介する前に、習慣という言葉の定義を確認してみます。
国語辞典(大辞泉)で「習慣」を調べてみると、

「長い間繰り返し行ううちに、そうするのがきまりのようになったこと」
「心理学で、学習によって後天的に獲得され、反復によって固定化された個人の行動様式」

と書かれています。
つまり習慣化を考える上で「繰り返し(反復)」「固定化」「後天的に獲得」といった要因がカギになりそうです。

これらを踏まえると「なんでも長期的に繰り返し行動を続ければ、それが固定化されて習慣になる」と言えそうです。

しかし「長期的に繰り返し行動を続ける」ということが、そもそも非常に難しいことを我々は経験的に知っています。イヤなこと・面倒なことを続けるのは大変ですし、いかに楽しい行動も続けていると飽きてしまいます。

では、どうやって長期的な行動継続は引き起こされるのでしょうか。
現在の習慣化理論に大きな影響を与えた2大人物として、スキナー(Skinner, B)とハル(Hull, C)がいます。


良い変化がないと行動は生まれない

スキナーはオペラント条件づけという理論から行動の自発的発生を説明しています。

オペラント条件づけとは簡単に説明すると「行動した後に生じた経験によって、その行動の自発的発生頻度が増えたり減ったりする」という理論です。
つまり、行動したときに良いことが起きれば、その行動は再び生じます。
しかし行動しても何も起きなかったり、悪いことが起きたりすれば、その行動は生じにくくなります。

スキナーは「スイッチを押すとエサがでる箱」にハトやネコを入れて実験しました。
最初、ハトやネコはスイッチに興味ありません。しかし偶然スイッチに触れたとき、エサ(報酬)を獲得できました。すると、ハトやネコはスイッチを押すという行動を何度もとるようになりました。
つまり、エサの獲得という「良い経験」を学習したことによって、後天的に行動様式が形成されたのです。

このように行動と良い経験を結び付けることが習慣化の一歩目といえます。


習慣強度を強める

ハルは動因低減説という理論で行動形成を説明しています。
動因低減説とは簡単に説明すると「一般的に行動は動因・動機があるときに発生し、その動因・動機を解消できる行動の発生頻度が増える」という理論です。
例えば「腰の痛み」という動因を解消するために「ストレッチ」という行動をします。その結果、「腰の痛み」が解消されれば、今後もストレッチを行う可能性は高くなります。

またハルは行動の生じやすさ(反応ポテンシャル)は「動因の強さ」と「習慣強度」によって変化すると指摘しています。
「行動した結果、良い経験を得た回数」が増すほど習慣強度は増し、行動の発生確率が高くなります。


三日坊主の原因

このようにスキナーとハルの理論はいずれも「行動の結果として良い経験をすれば行動が継続的に再発生する(≒習慣化)」ことを示しています。
逆に言えば、良い変化が生じなければ行動は消失して習慣化に失敗します。

三日坊主のほとんどの原因は「成果(良い変化)の実感がないこと」だと言えます。語学学習やダイエットなどは三日坊主となりやすい行動の代表でしょう。その理由は成果が実感しにくい行動だからです。

語学学習する人の多くの主目的(動因)は「語学能力アップ」「試験合格」などでしょう。しかし「語学能力アップ」や「試験合格」といった成果は、試験を受けなければ実感ができない・しにくいといえます。
つまり試験を受けるまで良い経験を感じられないために、行動が消失してしまう≒三日坊主の人が多く発生しています。

またダイエットの主目的(動因)は「体重を落とすこと」になります。
体脂肪1kgを落とす場合、約7200kcalの消費が必要とされています(参考:タニタ)。運動だけで7200kcalを消費しようとしたとき、例えばフィットネスジムで1回300kcalを消費できたとしても、24回通う必要があります。
これも成果の実感には時間がかかりそうです。
(なお体重は体脂肪量だけではなく水分量によっても変化しますし、食事の影響も強いため、体重変化はもっと早く生じるケースもあります)


「なにに注目するか」が大切

このように語学学習やダイエットは早期に成果の実感がしにくいため、行動が早々に消失してしまうケースが多々あります。
それではどうすれば良いでしょうか。

ひとつの方法としては、行動量そのものを成果指標と捉えることです。
例えば語学学習や運動の時間を計測し、記録していきます。
そして累積時間と報酬を結びつけるという方法などがあります。
「2週間がんばったら自分にご褒美」とか、「毎週の目標行動量を達成したら褒めてもらう」とか、システムを設定することで行動の消失可能性を減らすことが可能です。

また、良い変化(成果)に対して敏感になるよう心掛けることも有効です。
ダイエットの場合、体重だけでなく、体脂肪量や筋肉量などもチェックすると良いですし、ウエストサイズなども測ると良いかもしれません。
もしくは毎日自分の体型を撮影して見比べると、体重は変わっていなくても体型が変化していることに気づけるかもしれません。
さらに「運動した後の気持ちよさ」や「ダイエットしてからの健康状態の改善」などの成果を感じられると、行動は継続される可能性が高まります。

以上のように、習慣化の基本は「行動したときに良い経験をすること」です。ハルの理論からも、行動して「良い経験」を何度も繰り返すことで習慣強度が高まることが指摘されています。

われわれは「思い込み」でも行動は強化されます。
迷信や都市伝説などがその代表的な現象です。

例えば「試合前にカツを食べたら良い成績を残せた」という経験をすれば、また「試合前にカツを食べる」という行動をするかもしれません。
そして同様の経験を繰り返せば、この行動は習慣化していきます。
つまり行動と経験の間に実際の因果関係が無くても習慣化が生じうるのです。
このように行動した結果「なにを感じ、なにに注目して、なにを信じるか」は習慣化の上手さに影響するといえるでしょう。


「HR情報局 スマハビRadio」にて習慣化シリーズ配信中!