【2クマ目】吾輩は白クマである〜つまり、ひっちゃかめっちゃか〜
最初に一言、笑いと叫びはよく似ている。
ー ヘルタースケルター(作:岡崎京子)より
暑い夏が近づいてくると我々は多方面から煽られる。
夏のボーナス
海外旅行の早期割引
速乾性のある肌着
脱毛
某テーマパークの水のイベント
夏を予感させるアップテンポの音楽
最近のYouTubeの広告はそれらばかりだ。
僕の主人もまんまとその煽りに乗せられかけている。
それは痩身。そう、エステである。
主人はどちらかというと細身ではあるが
代謝が下がってきたのか痩せづらい体質にはなっているようだ。
確かに何年か前の写真と比べると劇的に変わった訳ではないが
なんとなく輪郭がぼやけているように見える。
努力をしないで痩せたいー。
前世の煩悩も繰り越された様な人間だ。
上手い広告に踊らされる主人の姿なんて簡単に想像がつく。
無い袖は振れないのが不幸中の幸いだが、
たまに奇行を働くから注意が必要だ。
先日主人が僕に報告してきた。
『コロナ全盛期の体重を超えてしまった。』
これは驚いた。
コロナ全盛期、どれだけ自堕落な生活を送ってきたか目の当たりしているからだ。
普段の日常が戻ってきた現在で、
それを上回る数値を叩き出すのは異常事態に違いない。
僕はその場でダイエットを勧めた。
まず、18時以降食べないダイエットを決行。
在宅の時は昼には夕食を作り、17時ごろに食べる。
出社の時は可能な範囲で。
そして、家飲みをノンアルコールに変える。
今のライフスタイルには取り入れやすく制限が少ないのでやり易いだろう。
主人はこう見えて、
普段からヨガに通い、整体でメンテナンスするなど
主人なりに健康や美容には投資している方だ。
何よりも昨年末にフルマラソンを完走している。
それらの話はいつかするが、とりあえずは食事改善さえすれば
痩せるポテンシャルは持っているということだ。
そう、食事改善さえ…すればだ。
勝手にトレーナー気取っているのは僕の方だが、
その食事改善の概念を主人に叩き込むのが骨を折るのだ。
主人は決して大食いな方ではない。
しかし、恐ろしい程の食い意地が主人には常にあるのだ。
目の前にある食べ物はとりあえず食べてみないと気が済まない。
幼き頃、ファミレスに行くと
主人の兄と同じ分だけ、いや違う。
自分が食べたい物と追加で兄と同じものを食べようとするのだ。
もちろん周りから止められるのだが、
食べると決めた主人の食に対しての欲望は大人でも止められるもので無かった。
子供が実質二人分の食事を食べようとするのだから
案の定、半分は残してしまう。
残飯処理をする家族からはブーイングの嵐である。
兄が少し強めに責めようとするならば、
謝りもせず泣いて被害者ズラしやがるのだから本当に厄介極まりない。
そんな食べ物前ではチンパンジー以下の判断能力しか無い主人の
食欲をコントロールがダイエットにおいて一番の課題となった。
朝食はしっかりと摂り、昼食はボリュームが多いものを食べる。
そして夜は控えめに。そのよくある食事方法も取り入れた訳なのだが、
僕は目を疑った。
朝昼は制限はないと言った。ああ、確かに言った。
しかしダイエットを宣言している人間がこんな斜め上の判断するだろうか。
主人は朝からチキン南蛮を食べている。
朝にがっつり揚げ物なんてわんぱくが過ぎる。
朝早く起きてちゃんと自分で作っているところは褒めるポイントなのか…
いや、そこまでしてチキン南蛮を食べたいのか。
というより、ダイエット以外にも支障が出そうなものだが。
きっとこの主人は
じゃがりこを食べてサラダを食べてるとぬかすタイプの人間なのだろう。
ダイエットすることによって
食生活がひっちゃかめっちゃかになりそうな不安で
僕の方が食欲を無くしてしまいそうだ。
少し苛つきさえも覚える。
しかし始まったばっかりだ。抑えろ僕。
今ここで指摘をして主人のやる気を削ぐことはやってはならない。
とりあえず、しばらくは様子を見よう。
そして度が過ぎた場合は容赦なく指摘しようと思う。
もう主人とは何十年の付き合いだ。
主人と白クマという関係ではあるが、
お互いになくてはならない存在にはなっていると僕は思っている。
食生活が祟って病気で寿命が短かくなってしまうなどのつまらない事は避けたい。
いつまでも元気で若々しい主人でいて欲しいと思う。
その為に広い心であろうと決心し、温かく見守る覚悟を決めた僕の横で
主人は満遍の笑みでカツカレーを頬張る。
叫びたい衝動を抑えてる僕の気も知らずに。
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