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【5クマ目】吾輩は白クマである〜天命の流れるままに生きようと思いました。〜


ね・・生きてるでしょ
暖かいでしょう これが命よ!!
ー 北斗の拳(原作:武論尊、画:原哲夫)


先日、主人は命の危機に見舞われた。

少しばかり大袈裟に言っていると
思われるかもしれないが
僕にとってはこれほど怖い事は
この先そうは無いだろう。


その日は在宅で仕事を終わらせ、
夕食晩酌兼用の食事を楽しんでいた。
気づいた時には
缶ビールをロング缶で5本と
自家製梅酒を嗜んでいた。


いつから自覚あったのか分からないが
喉の痛みを僕に訴えて来たので
夜更かしをせずに早く寝るように促した。

次の日も仕事ということもあり
素直に日付が変わる前には
ベッドに入ってくれた。

築年数が高いこの住処であるが
主人の好みで
少しスマートホームにカスタムしている。
と言ってもまだ発展途上である。

起床したらスマートスピーカーに挨拶をすると
自動で点灯し、
音楽を流れるシステムになっている。


しかし、
スピーカーは反応しない。
原因は主人の声にあった。

とてもガラガラなのである。

こんな声、
年末に9日連続で忘年会が続いた時以来だ。

怠さは無い様だが、
肝心の熱は体温計がなくて測れない。

一人暮らしはそこそこ長いのに
未だに体温計を買っていない。
スマートホームを目指す前に
もっと揃えるものがあるだろう。

そんな事を思いながらも僕は黙って
主人のおでこに肉球を当て体温を確かめる。

なるほど。
熱があると言えばあるかもしれないが、
無いとも言える。

あれから晩酌した後、
そんなに気温は高くなかった為
少し窓を開けて寝て喉が乾燥したのだろう。
僕は少々寒かったのだが。

月末に差し掛かってそろそろ仕事も
繁忙期というタイミングだったので
出社はせずに在宅で仕事をする結論になった。


我が家には
加湿器というものがなかったので
濡れタオルとサーキュレーターを使い
主人お手製の加湿器で一定の湿度を保ち
喉を乾燥させない工夫をした。
また食事も
刺激が少ないうどんにして喉を労わった。


それでどうだろう。
翌日になっても喉は回復しなかった。


やはり風邪なのだろうか。
それともそこまで乾燥が酷かったのだろうか。
その日は午後半休を取った。

早く就寝する為に
いつもよりずっと早い時間に
お風呂に入ろうとした。

きっと乾燥が原因だと
その時点で主人は決めつけていたので
潤いを求めて主人は湯船に湯を張った。

最近は風邪をひいても
眠りが深くなるので
負担が掛からない程度の
入浴は推奨されてるらしい。

主人は湯船に浸かる習慣があるので
軽くにする様にアドバイスをして
通常通り風呂に入った。

そのおかげか、
一時的ではあるが喉が楽になったので
お酒一杯だけ自分で割って飲んだ。


それが後に
命を脅かす行為とは知らずに。



翌朝、いや夜中だ。夜中の3時頃。
バタバタとした振動で僕は目を覚ました。

普段主人は寝つきが良く、
滅多に寝てる最中に起きる事がない。
絶対に様子がおかしい。

そこには、
喉を押さえて、うずくまり、
声にもならない声で
苦しんでいる主人の姿があった。
口をパクパクさせて
苦悶の表情で僕に助けを求める。


息が出来ない。

必死の手振りで僕はようやく理解できた。


これはただ事ではない。
早急に救急車を呼ぶべきだ。

しかし、主人は声が出ない所か
呼吸すらまともに出来ていない。
とても救急車を呼ぶなんて
出来る状況ではないのだ。


自分が白クマという、
紛れも無い事実を
恨んでしまう程辛い状況だった。

主人がこんなにも苦しんでいるのに
僕はせいぜい
背中をさする事しか出来ないのだ。
情けないことに、
気が動転していたのは恐らく僕の方だった。


そんな微々たるフォローでも
冷静になるきっかけを作れたようで
気道を確保できる体勢を見つけて
ようやく落ち着いた。

それでもまともに呼吸出来てる訳では無い。

念の為に事前に調べておいた
近所の病院の受付時間を再度確認して
その場でじっと耐えた。

受付時間は9時。
これほど長く、
不安な時間を耐えた事なかった。

その時も僕は祈ることしか出来なかった。


地元の小さな診療所というのは、
大体受付時間には患者でいっぱいのはずだ。

それを考慮して徒歩10分以内に着く場所だが、
30分前には診療所に向かった。

着いてみると案の定、
予想を超える数の患者で溢れかえっていた。
その多くは仙人クラスのシルバー層だ。

収拾が付かなくなるからか、
すでに受付は開放されていた。

初めて受診する病院で、
勝手が分からなくおどおどしていたら
シルバー民族に割り込まれ、
だいぶ順番が伸びてしまった。
普段の主人ならお構い無く申告するが、
声が出ない為アピールする気力もなかった。

しかし、辛そうにしている主人を見て、
受付を済ませたら指定の時間に再来すれば
家で寝てていいと言ってくれた。

今はそんなオペレーションが
通常なのかもしれないが
主人にとってはすごくありがたい対応だった。

ほぼ午前の診療が終わった時間、
ようやく診療の順番が回って来た。

起き掛けに呼吸困難になってから
すでに10時間以上経っている。

結果は 急性扁桃炎。

口もまともに開けられない程
喉の両サイドが大きく腫れて
気道を塞いでいた。

医師もこんなに痛々しいのに
待たせてしまった事を詫びていた。
相当ひどいものらしい。

風邪を患ったら
喉に来てしまうのはいつもの事だが、
事態の深刻さを理解し、同時に
一人暮らしで声も発せられず、
誰にも助けを求める事出来ず
大変な思いをしたが、
ようやく治療に辿り着いた事で
安堵の気持ちでいっぱいだった。

すぐに抗体検査のため注射をし、
抗生物質と炎症止め、
栄養剤の点滴をする為に別室に通された。

血液検査の結果が15分ほどで出たのだが
白血球が尋常じゃ無い数値を叩き出していた。
それほど細菌にやられている証拠だ。

もちろん一回の抗生物質を投与した所で、
良くなる状況では無かったので、
1週間は通院して
1日一回点滴を打つことになった。

寝不足を察してくてたのか、
午後の診療まで寝てていいよと言われたので
お言葉に甘えて休ませてもらった。

それから1週間近く
点滴とゼリー生活が始まる。

それはそれは味気のない生活で、
朝昼はゼリーもしくはヨーグルト、
夜は鰹出汁にとろみを付けたものだった。

食べる事と飲む事が
生き甲斐の主人にとっては
さぞかし辛かろう。

いくら僕でも
そんな主人の隣で好物のコロッケを
食べようとは思えなかった。

とにかく辛そうだったので
再度罹ってしまった時に備えて
主人スマホを貸してもらい
急性扁桃炎について少し調べた。



なるほど。
完治するにはやはり1週間ほどかかると。
ふむふむ、細菌性が大半なので
手洗いうがいをしっかりと。

お風呂…
体力を消耗するほどの入浴を避ける…
悪化する可能性があるので
短めのシャワーを推奨。


そういえば
腫れる前日に湯船に浸かってたな。

しかも注意したのに
調子に乗ってスマホで動画観ながら
2時間ぐらいは出てこなかったよな?

忘れていたが、
少量と言えども飲酒していた。

もしかしたらこれらの行動がなければ
ここまで酷くなっていないのではないか…?



ああ。僕とした事が。不覚であった。

このポジティブ馬鹿の脳みそには
危機感という言葉は存在しないのだ。。
もっと強く、時に脅してまでも
言わないとダメだったのだ。

しかも何だ、飲んだお酒は
ドクターペッパーのウォッカ割など
どうしてそんな刺激が強い物を
喉が痛い時に飲むのだ。
少し考えれば分かるだろう。

馬鹿には付ける薬など無い
とはまさにこの事だろう。

たまたま
検索履歴が目についてしまったのだが

【喉が痛い お酒 飲んで平気か】
【乾燥に効く お酒】
【辛ラーメン 魔改造】


まぁ、調べるくらい
少しは心配していたのか。


違う、違うそうじゃない。

まったく、
どこまでも欲に忠実なのだ。
乾燥に効くお酒なんてあるか馬鹿。

辛ラーメンの魔改造だけは
絶対させてなるものか。

一刻も早く治してもらわないと
主人の会社にも迷惑がかかり、
何よりも一緒の食事で付き合っている
僕にとってもたまったもんじゃない。


それから僕は治るまでの1週間、
心を鬼して主人の食事を制限した。

時に主人の禁断症状で
一悶着あったのは容易く想像出来ると思うが

僕のスパルタ食事指導のおかげだろう、
刺激が強い食べ物は
控える様にと注意があったが
ちょうど1週間で普通の食事に戻れた。

それでもぶり返す可能性も
大いにあったので
しばらくは辛ラーメンは禁じた。

そして復帰して最初に選んだ
主人の食事のメニューは


・バーガーキングのチーズワッパー
・かつやのとんかつ
・スーパーで買って来たお寿司盛り合わせ


何だか違う意味での不安もあるが、
相当我慢していたのが分かる。

その日は僕も普通のコロッケに
カニクリームコロッケも追加した。


久しぶりのまともな食事、固形物だ。


濃い味付け、歯応え、
食べ物が喉に通る感じ、
今まで意識する事がなかった
咀嚼の動作、膨れていく腹。

この時主人と僕は食べる喜び、
いや、生きる喜びを実感したのだ。

こんなにも普通の食事が嬉しいなんて。
大袈裟でも無く涙目になった。


人間も白クマも
こういう厳しい状況になった時に最も
健康的な身体、日常のありがたみを
噛み締められる。皮肉なものだ。

僕らは生きている。
食べる事は生きる事。

そう痛感した出来事だった。

食べれば人生オールOK。
食べる事は素晴らしい。

今回はこれしか言葉が出てこない。
語彙力の無さを許して欲しい。



主人は今ではすっかり元気になり、
日本酒片手に焼く鳥を頬張っている。

たまにでいいから、
この事を思い出して欲しいものだ。


本当に生きててくれて良かった。


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