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恋愛にルックスはどのくらい重要か?─恋愛の科学 【読書感想】

恋愛は人間関係において最も特別なもの。心理学の世界で恋愛の研究もさぞ進んでいるのだろうと思いきや、実は心理学者の越智啓太氏(以下、筆者)によると恋愛は心理学の中で最も研究が遅れている分野の一つなのだそうだ。野暮という批判や、科学的に研究できるものではないという指摘があったからだ。

しかし、近年は恋愛についての研究も進みつつある。こういうのは海外が本場だが、本書は日本での再現実験の結果なども踏まえてできるだけ平易に恋愛についての研究結果を語る。

モテ度とルックスの関係をどう調べるのか

外見的魅力は恋愛においてどの程度重要なのか?

重要なテーマの一つだが、これを調べるのは難しい。方法の一つにアンケート調査が考えられるが、「あなたは恋愛において外見と中身のどちらを重視しますか?」などと聞こうものならたいていの人は正直に答えないかもしれない。

結論から言うと、実験の研究者との助手の複数名が各人の外見的魅力を判断して、結果を測定する形をとっている。「ウォルスターのブラインドデート実験」というものがある。

大学の新入生向けの出会い系パーティで、表向きは「コンピューターが最適と判断したカップル」と引き合わせた後に、2時間半ほどのパーティーを行った後で、それぞれの参加者は実験者から「引き合わされた相手にどの程度満足したか、もう一度デートしたいか」について尋ねられた。

実はこの実験の組み合わせは完全なランダムで、参加者の性格と再デートの関係性を調査したのだが、驚くことに「もう一度デートしたい性格」などと言うのは存在せず、外見の方が遥かに高い相関関係だったのだという。

これは恋愛いおいて性格よりも外見的魅力が大きな影響力を持っているということを示す結果です

越智啓太

その他、米国の出会い系サイトの研究でも、相手と会うには年収や職業、学歴よりも「顔を盛る」ことが重要だと分かっている。個人的にはウォルスターの実験で2回目のデートと性格の関係をどうやって調べたのかよくわかない点は残念だった。

本当に外見的魅力が決定的に重要なのか?

周りを見渡すと、外見は良くともモテない人や、その逆も意外といるのではないだろうか?

実はこの問題を考えるときに大事なのは恋愛のフェイズ(段階)だ。ウォルターらの実験で分かったのは恋愛の最初、入り口だけの部分で外見が重要と言うことに過ぎない。この問題に一つの答えを出したのがバーナード・マインスタインの「SVR理論」である。

・出会いの時期に必要なS(Stimulus=刺激)
→容姿やファッション、話の面白さ、ステータス初対面の相手にも分かりやすく伝わる、表面的な部分
・次の段階はV(Value=価値観)
→交際がスタートしたら、お互いが共有できる価値観があることが必要だ
・最終段階はR(Role=役割)
→相手ができないこと、苦手なことを補い合う、相補性重視の時期。人生のパートナーとしての期待

つまり外見は長く続くほど価値が下がっていく。SVR理論は「一緒にいるのは楽しいけど結婚相手とは考えづらい」という事象も、VとRでは求めるものが違うことから説明可能だ。

SVR理論のイメージ
出典:恋愛強者の道

それでも、美人やイケメンが好きな人たちはどんな人たち?

SVR理論も何のその、価値観や役割などより外見を一貫して重視するいわゆる「面食い」の人たちがいる。

では、どんな人が面食いなのか?

筆者の研究室では、「異性と付き合うなら顔を重視する」「性格より外見を重視する」「今まで隙になった人はイケメン(美女)である」「交際する人はイケメン(美女)でないと嫌だ」「異性と交際する際には顔は重視しない」などの質問から「面食い尺度」を調査。

その結果、一つの特徴として「セルフモニタリング傾向」が高い人間、つまり周りからどのようにみられるかを気にして意識する人ほど面食いであることが分かった。交際するときに「この人と付き合ってる私」はどう見えるのか?と言うことが気になるのかもしれない。

スナイダー(1985)によってこれを検証する実験も行われ、確かめられた。筆者の研究室でも再現できたそうだ。女性の方が男性より、「セルフモニタリング傾向がある人ほど面食い」傾向は強かったという。


赤いノートPCを持つだけで女性は魅力的になれる?

外見的魅力を高める方法としてメイクがある。男性でもメイクはしないよりはした方がよく、西洋人でも日本人でもナチュラルメイクが濃い目のメイクより好ましいそうだ。実際、チップも増えるらしい。

メイクと並んで外見を高める方法がファッション。最近は心理学に置いて「ロマンチックレッド」と言う現象が確認されている。男性は赤色で女性を美しく感じる現象のことだ。(逆は起きない)

同じ女性の写真で、赤い背景にするだけで魅力の評価が高まるし、赤い服を着るだけで男性は女性に「親密になろうとする」言葉を投げかけるし、距離も近くなろうとするのだという。極めつけは、台湾のリン(2014)が色違いのノートPCを持たせた女性を比べたところ、赤いノートPCを持っている女性がもっとも魅力とセックスアピールの値を高く獲得したという。

ロマンティックレッドは、動物のメスの一部が繁殖期に体の一部を赤くしてオスを誘うことがあることから、赤色が本能的に性的な行動を引き起こすのではないかと考えられている。実際魅力度だけでなく、性的魅力度も高まるのだという。

男性は性的欲求が高まると、積極的かつ短期利益を重視した行動をとることが分かっている。

例えば、ポルノアニメを見せてマスターベーションをさせた状態と、平常時で「60歳の女性とセックスすることをどの程度想像できますか?」の値を0~100で比べたところ、前者は23、後者は7だったという。

バン・デン・バーグの実験では、金銭についても、セクシーな服装をさせた女性に対して、奢ったり、性欲が高まった状態では金銭に関する意思決定で短期的な利益を重視するなどの傾向が見られたという。


読後の感想 心理学の初歩にも良い良書

恋愛のHow to本は結構気持ち悪いものが多いので、身構えていたのだが本書はそういうHow to本ではなく、恋愛についての過去の実験や研究を平易に紹
介してくれる素晴らしい本だった。

ただ、本書の問題というよりは、古い心理学の実験は「それ証明になっているのか?」「サンプル少なくない?」というものもあった。じゃあ文献見ろよという話なのだがそれは大変なので…。

本書の範囲では可能な限りだが、再現実験などをしてくれてありがたい。

コラムで”偏差値とは””ブルーの目を持つ人同氏は惹かれあう理由”といった心理学や統計の初歩的な内容の解説を挟んでくれる点もありがたい。

筆者は”美人の正体”という外見と心理学についての本でも1冊書いているそうなので、そちらも機会があれば読んでみたいものだ。




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