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【1分で読了。即興小説】タンカー船から突き落とされたときの話

【お題】


タンカー船


【本文】



真夜中の勤務中、私はタンカー船から何者かによって突き落とされた。
それまでの記憶はほとんどないが、なぜだか意識が朦朧としていて、気づいたら甲板にいたことだけは覚えている。
きっと誰かの恨みを買っていたに違いない。

冷たい海に飛び込んだところからははっきりと覚えている。
巨大なタンカー船の側面がすぐ側にあり、唸りをあげていた。波はどす黒く何も見えない。
私は船乗りであるが、いつも真夜中の海に飛び込むことを想像して恐怖している。それが今、現実となっている。
海の中には何がいるのだろう。
自分のすぐ近くを未知の生き物がうごめいていると思うとゾッとする。
イルカ、かわいい?クジラかわいい?
とんでもない!あんな異形のもの、気味が悪い。あんな生き物が近づいてきたのならすぐさま逃げるか、武器があれば真っ先にぶち殺すと思う。
イルカ、クジラとイカとタコ、私にとっては全て同じような存在である。気持ちが悪い。

とにかく全てが恐怖でしかない。この状況。
生きた心地がしなかった。
私は必死で大声で助けを呼んだ。
しかし、誰も来ず、とうとう私は力尽き、海の底へと沈んでしまったのだ。

それから私の体は海の底で徐々に腐敗が進み、
いまやグソクムシの格好の餌食だ。
私の体にはびっしりとグソクムシ。

この時にはすっかり海に対する恐怖は消え、私を必要としてくれているグソクムシがただただ愛おしかった。

イルカ、クジラ、気持ち悪い。
グソクムシはカワイイ。






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