経営危機からV字回復を果たした自分が考える経営の本質
今回は、あなたと一緒に旅がしたいと思っている。
「正しい経営の在り方」を探究する旅だ。
これは、スタートアップ・ベンチャー企業の経営の物語だ。
大企業だと、事情も異なるだろうから。
私は、12期目のベンチャー企業を経営している。
「スタークス」という会社だ。
コマースに特化したDX支援をしていて、60名くらいの社員がいる。
順風満帆とは行かなかった。
今でこそ好調だが、苦しくて苦しくてどうにもならなかった時期もあった。
経営とはそういうものだ。
このnoteは、「スタートアップ・ベンチャー企業の経営」に興味がある人に、「経営のリアル」を少しでも知ってもらいたくて、書いている。
だからこの旅路では、「私の経営人生と経営の真実」を余すことなく書き記した。ぜひ自社や、お客様の会社、自分の考えと照らし合わせながら読んで欲しい。
長丁場にもなるから、ゆとりのある時にでも。
その過程で、私やスタークスについても知ってくれればこの上なく幸せだ。
1期目~3期目「死ぬ気で仕事をして、4年で日本一になった」
1期目~3期目は、とにかく売上を作ることに集中していたように思う。
特に創業期は、何をするにもお金が無くては話にならない。
起業するときに、EC×サブスク型のビジネスで1番になろうと決めていた。
敬愛している孫さんが「No.1になれる領域×情熱を傾けることが出来る領域」でビジネスを展開することを推奨していたからだ。
(今でもその講演を記録したCDは大切に保管している)
でも自社開発する余裕はなかったから、
他社が開発したシステムの独占販売権を獲得することにした。
目を付けたのは、「たまごリピート」というプロダクトだ。
今はプライム市場に上場しているが、当時は10名程度で、
マンションの一室で仕事をしていた。
「3年で1000社取ろう。そうすれば日本一を取れる」
たまごリピートの社長と話し、独占販売権を獲得した。
そして、死ぬ気でやった。まずは1000社獲得しないと、次のステージにいけないからだ。
結果としては、4年で1000社を達成することができた。
ちなみにこの時期に入社をしてくれたメンバーは、
今スタークスの中核として活躍してくれている。
4期目~6期目「全てが絶好調だった」
4期目~5期目は、まさに絶好調と言うに相応しい時期だった。
たまごリピートの堅調な売り上げに加えて、物流業界向けの新規事業が大当たり。会社を急拡大することができた。
オフィスは五反田で、広さが3倍以上に(30名⇒150名規模のオフィスへ)
中途採用でも良い人が入社してくれるように(大企業、メガベンチャー企業出身者など)
VCからも出資のお声がけをいただく
6期目にCFOとCTOを採用
絶好調だった。今では、懐かしく思う。約6年前の話だ。
この頃はまだ、組織の悩みが理解できていなかった。
「社長の孤独」を感じることもなく、ただ楽しかった。
今振り返ると「慢心があったな」と思う。
ここから私の経営人生は、奈落へと落ちていくのだ。
6期目「自分が危機に陥るなんて…」
経営は、何があるか分からない。忘れもしない。
事があったのは、9月24日。よりによって、私の誕生日の前日だった。
1本の、電話が来た。役員からだった。
「上ノ山さん、大変です」
物流事業を支えてくれていたパートナー企業から当社との取引停止を辞めたいという連絡が入った。これにより、見込んでいた年間売上の多くが吹き飛んだ。当然、会社は大ピンチ。
トラブル発生月は、単月で数千万もの赤字を計上した。
すぐにキャッシュフローも見直したが、かなりマズいことになっていた。
「倒産」の二文字が、私の脳裏をかすめた。
「上場を目指そう」と社内で盛り上がっていた、約半年後の出来事なのだ。
相当応えたし、迷った。もちろん私なりに、色々ともがいた。
でも結果は期末の時点で億単位の赤字を計上してしまった。
絶好調な状態でも、たった1本の電話で奈落へと突き落とされる。
それは徐々にではない。何の前触れもなく急にやってくることもあるのだ。
これもまた、経営の真実だろう。
あなたなら、こんな時どうするだろうか?
7期目~9期目「絶対に倒産させない」
私が選んだ道は、「社員をリストラしない」という道だった。
そのためなら、ビジネスモデルや事業領域は変わっても良いと思っていた。
この時期は大変だったが、意外と辛くはなかった。
正確に言うと、辛さを感じる暇もないのだ。
「もしかしたら50名以上の社員を路頭に迷わせることになるかもしれない」
そんな極限状態にいれば、自然とそうなる。
私は赤字解消のために、できることは何でもした。
物流事業は最小限のリソースで立て直し
次の収益の柱、新規事業づくりにエース人材を集中投下
役員報酬のカット
人件費以外の徹底したコスト見直し・削減
オフィスの縮小移転
おかげで、会社の業績は徐々に回復していった。
でも悲しいかな。
中途・新卒問わず、社員はポロポロと辞めていった。
「意外と辛くない」と上述したが、あれは嘘だ。退職だけは、別物だ。
辛かった。
退職の際、その手続きをしている人事メンバーから言われることがある。「上ノ山さん、辞める最後の日だけ、メンバーと話して欲しい」
言っていることは、正しい。至極真っ当だ。
ただ私の当時の感情はこうだった。
「申し訳ない。合わせる顔がない。会いたくない。辛い。」
自分が経営に失敗して、そのせいで社員が辞めていく。
この辛さは、経営者にしか分からないのではないだろうか。
「上ノ山さん、スタークスを上場させましょう!!全力でやり切ります!!!」
酒を飲み交わし同じ夢を語ったはずの仲間が、自分に、会社に、見切りをつけていく。どんな顔をすればいいのか、本当に分からなかったのだ。
またCFOの小松には、「上場企業のCFOになろう」と口説いて、来てもらった。その結果がこれだった。上場どころか、立て直しの手伝いをしてもらっている。
CFOの小松は「上ノ山さん大丈夫です。スタークスは復活できます。私は上ノ山さんを信じています」と言ってくれて、今でも私を支えてくれている。
でも、当時の私の感情は、申し訳なさでいっぱいだった。
さて、社長とは、何者なのだろうか?
強者か?金持ちか?成功者か?
どれも合っているようで、どれも違う。
社長とは、感情を持った、たった一人の人間だ。
9期目~11期目「感情という狂犬」
その後、私は必死に経営して、何とか業績を回復することができた。
しかし、大きな夢を語り、前へ進み続けた起業家の姿は無くなっていた。
経営者という仮面を被った、陰鬱とした一人の人間がいるのみだった。
私の経営史上、最も苦悩した時期だ。
「もう一度、人生をかけて経営する勇気を、自分は持てるだろうか」
答えの出ない問いを、自問していた。
今まではリスクをとって、大きなリターンを狙う経営をしてきた。
自分には決断力があると思っていたし、リスクをとることが好きですらあった。
でも、リスクが取れなくなっていた。
「経営が、怖い」
当たり前な感情が、初めて溢れ出てきた。
経営者の孤独も理解した。
「社員は辞められる。でも社長は辞められない」
当たり前な事実が、初めて意味を持って私を突き刺した。
自信を喪失した。
「自分には才能がないのかもしれない」
認めたくない事実が、眼前に横たわっていた。
苦しかった。
売上・利益が上がっても、感情はマイナスだった。楽しくなかった。
社員から個別に連絡がくる事がほんとうに嫌だった。
「ちょっと話がしたいのですが、いいでしょうか?」
「上ノ山さん、今度飲みに行きませんか?」
大抵、退職の話だ。もう、嫌というほど聞いてきた。
社員と顔を合わせることすら怖かった。
出社をしてもオフィスに行かず、
カフェで朝から夜まで仕事をすることも珍しくなかった。
色々な感情が渦巻いていた3年間だったなと思う。
当時の感情は、今でも鮮明に覚えている。
でも一番強く考えていたのは、
「誰を恨めばいいのか?」という問いだった。
そればかり考えていた。犯人捜しをしていたのだ。
こんな状況になってしまったのは、いったい誰のせいなのか。
誰を恨めばいいのだろうか?
社長である自分が悪いのか。
急に取引停止を通達したパートナーが悪いのか。
「犯人捜しをしても、意味はない」
そんな声が、聞こえてきそうだ。
そんなこと分かっている。
でも感情がそう動いてしまうほどのハードシングスが、社長にはあるのだ。
もちろん感情的に激昂することはない。
ただ感情が向かう先をコントロールできないのだ。
”社長”にとって、感情とは、狂犬だ。
12期目~現在「誰かのためのミッション・ビジョンを、辞めた」
私の経営史上、最もエネルギーに満ちているのが今だ。
本物の”信念”に出会うことができた。
もちろん犯人捜しもやめた。
今では「誰も悪くなかった」と、心の底から思っている。
そう思うことができたのは、孫さんのCDのおかげだ。
孫さんは、この3つの条件を満たす事業をやるべきだと言っている。
成長市場であること
自分がNo.1のなれる領域であること
社長が情熱を持てる領域であること
何度も聞いた話なのに、
当時は「なるほど、孫さん。そういうことか。」と思った。
社長として本物の”情熱”を持っていないと、本来経営なんて出来ないのだ。
私はビジネスモデルを作るとか、戦略を練るとか、そういうことが好きだった。でも、そこだけに自分のモチベーションを預けると、上手くいかない。
だから、失敗したんだ。
だったら、
「自分の情熱って何だろう?」
改めて考えてみた。
出てきた答えが、
「新しい三方良しを作り続けて、”不”を失くすこと」だった。
世の中は変化し続け、人は豊かさを求め続ける。
これまで人を幸せにしていたビジネスもいつか終わりがくる。
令和時代の新しい三方良しを作らないと、誰かが不幸になってしまう。
世のビジネスは、誰かが得をする代わりに、誰かが損をするものが多すぎるのだ。この”不”が全く生じないビジネスを、私は作り続けたい。
不を被るのは、人かもしれないし、環境かもしれないし、次世代かもしれない。不を押し付けあうビジネスに、未来はない。
そう思うと、またエネルギーが湧き出てきた。
経営をやりたいと、思えてきた。
三方良しとなるビジネスを作り続けたい。
これが自分の本当にやりたいことなんだとわかった。
すると、今までとはまるで違う景色が広がっていた。
前は認められたいとか、凄いと思われたいとか、負けたくないとか、
そんな想いが少なからずあった。
でも今は、自分が持っているものを素直にビジネスで表現したいと思っている。もちろん理念体現の為にも、売上は必要。
「常に新しい三方良しを作り続ける」という理念を追い求めていった結果、
どこまで売上を拡大できるか、どんな世界を作ることが出来るのかには、とてもワクワクしてる。
経営理念についてもそうだ。
今までは少なからず売上を上げるため、共感してもらうため、納得してもらうために経営理念があったと思う。
でも今は違う。本当に自分が実現したいことがあって、それが経営理念になった。
「経営理念を実現する」ために売上利益を本気で上げに行きたいと思うことができた。売上を上げるために経営理念があるのではなく、経営理念を実現するため売上が必要になった。
そして私がここまで情熱や経営理念を大事にしているのは、「誰かのためだけ」の経営にならないためでもある。
経営はお客様や社員やパートナーなど様々な点を考慮して行う必要がある。
しかしそればかり考えていると、経営者が飲み込まれてしまうのだ。
他の人のためだけに経営を行い、経営者自身は蔑ろにされていく。
するとその経営は、社長のエネルギーを失い、経営の軸を失い、結果売上も失うと思う。
だからある意味経営は、社長が自分のためにする必要がある。
もちろん自分のためだけの経営になるのも良くない。バランスが大事だ。
まずは社長が情熱を燃やし、その情熱を経営理念で表現し、その経営理念に共感して集まってきてくれた人と一緒に経営をしていくのが良いのだと思う。
だから私は経営者の数だけ経営の形があることは承知の上で、
「社長が本当に情熱を捧げることのできている経営」
こそが正しい経営の在り方だと考えている。
私は、私のやりたいことを、最高な仲間と実現するために、これからも経営者であり続けたい。
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