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Cleo Laine - He Was Beautiful (Cavatina) / ディア・ハンター - 1978

ジェイムス・ブラントの
「ユア・ビューティフル(君は素晴らしい)」繋がりで、
「ヒー・ワズ・ビューティフル(彼は素晴らしかった)」に、行ってみた。

この曲はもともと「カヴァティーナ」というタイトルで、スタンリー・マイヤーズというイギリスの作曲家が作り、
後に自らギター演奏曲として編曲したもの<1970

Stanley Myers

「Cavatina / カバティーナ」1970

演奏は、世界的にも有名な日本人女性ギタリスト、村治佳織さん。素晴らしいっすね。

その後、イギリスの歌手クレオ・レーンが歌詞をつけて歌ったのですね。

で…1979年に映画「ディア・ハンター」のメイン・テーマに使われたと。

Cleo Laine & John Williams「He Was Beautiful」1973

編曲にも関わった、
ジョン・ウィリウムス自身が演奏してます。

Iris Williams 1979 カバー

色んな人がカバーしているんですが、
私が初めて聞いたのはこの人のだったかな…忘れた。

Paul Potts「Cavatina」

ポール・ポッツはタイトルが
カヴァティーナのまんまで歌ってますが

私たちの世代以前の人たちだと、この曲というと、
「ディア・ハンター」だなって…なるんですけども。

日本で昼ドラ「真珠夫人」に使われてしまったことから、
そっちをイメージする人も多いみたいっっ苦笑

いやさ真珠夫人、面白かったし、見てましたけどっっ

「真珠夫人」2002

真珠夫人と言っても、
小沢真珠さんというワケでわないです。
あっちは「牡丹と薔薇」

たわしコロッケもいっときます。


さてさて…
アコースティック・ギターのメロディが物悲しい、
とても美しい曲なんですが…

映画「ディア・ハンター」の内容を思うとき、その物悲しさがいっそう際立つんですよね。

ベトナム戦争に迫ったドキュメンタリー!映画『ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実』予告編

ちなみに「ディア・ハンター」
意味はまんま鹿狩りという意味ですが…

このタイトルは、
映画の中でのまだ平和だった時代を象徴する、鹿狩りのシーンのことでもあると同時に、ベトナムの戦場での戦いそのものを表していたりもする。

狩るか狩られるか…戦場ってまさにそのようなところで。
とくにアメリカ側の兵士にとって、ベトコンとの戦いというのは、土地勘のない密林での…ホームグラウンドで自由に動き回る、彼らに狩られる鹿の心境だったのですから。

まさにベトナム戦争そのものを象徴しているわけです。

そういう意味で「ディア・ハンター」という映画は、アメリカ人のベトナム症候群(シンドローム)の象徴たる映画です。 

「ウィンター・ソルジャー ベトナム帰還兵の告白」 予告編1971


他に同年に撮られた「地獄の黙示録」とか、

「Apocalypse Now / 地獄の黙示録」1979

(この映画ではワーグナーの「ワルキューレの騎行」が効果的に使われてて、とても印象的でした。)

後に作られた「プラトーン」や…

「Platoon / プラトーン」1986

(この映画のサントラがまた良かった。して、ウィレム・デフォーの出世作です。)

「7月4日に生まれて」の先駆けとも言える作品ですかね。

「Born on the Fourth of July / 7月4日に生まれて」1989

「Good Morning Vietnam / グッドモーニング, ベトナム」1988

(この映画は異色でしたね。)

「地雷を踏んだらサヨウナラ」1999

そして「鹿狩り」というのは、
「人間狩り」のことでもあります。

戦争は人間を狩る行為でもあるという暗示。
しかも、敵同士で「人間狩り」をするというだけでなく、
自らの人間としての器や精神をも追い詰めて、
理性をかなぐり捨てて、野生の本能を剥き出しにして、
「生きのびる」ためという大義名分のために
人間であることを捨てさせ、畜生以下に退化させて…
あらゆるものを「狩らせてしまう」行為でもある。

アメリカ兵にとっての敵側、
ベトコンに狩られるというだけでなく…
戦争という極限下において、
人間としての尊厳をどう保てるのか…

自分のアイデンティティを、
人としての矜持・プライドをどこまで保持できるのか…
人とのしての良心を食うか食われるか…

戦争っていうのは、
そんなふうに自然を破壊し、
社会の規範を崩壊させていくだけでなく、
人間を、人間そのものを…
善なる心を悪心によって食い尽され、
魂を荒廃させ、尊厳を破壊していくものだと…

まぁ、実に深い…深い映画です。

やるせない、病み映画ですけどね。

アメリカの汚点であり、痛み。
ベトナム後遺症を如実に表した時代の名作です。 

「The Deer Hunter / ディア・ハンター」予告 1978

曲は映画の前に存在していたから、この映画のために作られたわけではないんだけど、なんていうかピッタリ合ってしまうのですよね。なーんて…音楽を担当したマイルズが、自分の過去作品を使用したってだけだけども。


仲間を助ける生き方をしながらも、心を失い壊れていく…
歌の歌詞が登場人物の生き方や物語に、どうしても重なってしまいますね。

「彼は美しかった そう 本当に素晴らしい人だった」

戦争という、人間の良心がもっとも問われる緊急非常事態において…戦場という、1秒先は骸になるかもしれないという、死期に追い詰められたとき…

平和で穏やかに満たされた生活をしていた時には、
どんなに高潔で美しく、素晴らしかった人も…
気高く、誰からも愛され、
輝きに満ちた人生を送っていた人であった人でも…

生と死の狭間の中で、己が欲望を剥き出しにさせられて、
プライドも堕落して…
醜く変わっていってしまう可能性がある。

強い恐怖と戦慄的な刹那の忘我状態の中、
心を破壊され、精神を荒廃させ、
人の姿だけを残した、
実態のない影ばかりの存在へとなり得てしまう。

「人間ではないことをした」:94歳、元日本兵の証言

戦争とはそういうものだと…

殺し合いとは、
人から人間としての尊厳や素晴らしさや美徳など、
すべてを奪ってしまうものだと…

この映画はそんなことを教えてくれる映画です。

PTSDを抱えた元女性兵士の生と死の闘いを描く 映画『戦争と女の顔』予告編 2019


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「My Favorites〜音楽のある風景」
 2020/11/13 掲載記事より転載


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