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たとえば田中達也問題。「どう書くか」は書き手の生きざまそのものだ

7月10日にガンバ大阪から田中達也選手が完全移籍加入することが正式発表され、11日にチームに合流しました。大分トリニータオフィシャルコンテンツ「トリテン」では、恒例の新戦力紹介記事を無料で公開しています。

今回はこの記事制作の裏側について書いてみたいと思います。

大分へやってきたのは3分の1田中達也

もとより現在はアルビレックス新潟所属、アテネ五輪世代の田中達也選手と同姓同名であることで話題を呼びがちだった田中達也選手。ロアッソ熊本に所属していた2018年4月1日、J2第2節・新潟戦で田中達也選手とついに“田中達也ダービー”に臨み、試合後にこんな2ショットも披露していました。

このツイートを田中達也選手がリツイートし、さらにそれをミニチュア写真家の田中達也氏がツイートして、田中達也トライアングルが! 田中達也氏(ミニチュア写真家)の作品展に田中達也選手(新潟)が花を贈っていたり田中達也選手(当時熊本)が田中達也氏(ミニチュア写真家)のカレンダーを使用していることをツイートしたりこちらも作品展に訪れたりと、田中達也の絆で結ばれた田中達也トライアングルの結束はなかなかのものであることが窺われます。

怒りのガンバサポ。気持ちは十分にわかる

そんなふうに話題を呼んでいた田中達也選手ですが、このたびシーズン中の同カテゴリーチームへの完全移籍によって、またもJリーグファン周辺で話題を沸騰させました。発端はガンバ大阪・宮本恒靖監督の試合後監督会見。いろいろと憶測を呼んだこのコメントに飛びついたスポーツ紙2社が先駆けて大分への移籍を報じ、その翌日夕刻に公式発表に至った流れです。

まあガンバサポとしては簡単に納得するわけにはいかないですよね。今季熊本から完全移籍加入してわずか半年。しかもちょっと試合に絡みはじめて好感触だった矢先なので。ビッグクラブのサポーターさんたちはビッグクラブにふさわしいプライドも持っています。めちゃめちゃ激怒した人多数。ガンバサポ周辺のSNSは罵声であふれ、それに応戦するトリサポと高みの見物的な他サポが入り乱れる修羅場に。

移籍するにあたりここまで罵倒されるのは戦力として期待されていた証拠なのですが、恒例の新戦力紹介記事を書くオフィシャル担当記者としてはなかなかに気を遣わねばならない状況です。下手に触ればさらに炎上させて田中達也選手が真っ黒焦げになってしまう恐れもある。きゃー。

動機はあまりにシンプルでピュアだった

どうしたもんかなと思いつつ囲み取材に臨みましたが、そのときの田中達也選手の言葉や態度や表情を確かめて、これはもう率直に書くのがいちばんいいという決断に至りました。

多分、宮本監督の「プレー面以外の問題」という言葉が一人歩きして一部で「プライベート面」という報じられ方をされたと思うのですが、確認してみれば移籍の理由はプライベート面では全くなかった。「サッカーが好き」という実にシンプルでピュアな気持ちの高まりを抑えられなくなったから、というふうに、田中達也選手の話を聴きながら、わたしは理解しました。

いやーでもこれをダイレクトに書いても叩かれるよなー。卑近なたとえで恐縮ですが、もしわたしの理解が正しいならば、これはほかにどうしても好きな女性が出来たから別れてもらえますかと恋人に言うようなもので、告げられた恋人の心が略奪された感とか比べられて負けた感とかで荒れるのは目に見えています。

でも、決して比較して優劣をつけたわけじゃないんですよね。というのは、ガンバとトリニータのサッカースタイルはまったく違うものなので。トリニータは現在、ポジショナルプレーの概念を色濃く取り入れたスタイルで戦っています。田中達也選手はこのポジショナルサッカーについて熊本時代に見識を深め、それに深く惹かれたと明かしてくれました。詳細は記事を参照してください。

どうやってもバッドエンドを回避することができない?

それなら最初からガンバに行くなよという指摘はごもっともです。そしてそのことはいま、田中達也選手自身が最も理解していると思います。

ポジショナルサッカーへのとめどなく深まる興味について語りながら「でも何を言ってもガンバと比較しているように受け取られてしまう…」と、どう表現すればいいかを逡巡しつつ、「いまは何を言っても叩かれるので」と話す表情からは、状況を受け入れる覚悟が感じられました。やっぱり男女関係の修羅場っぽいじゃないか。

記事制作にあたり方向性の選択肢は3つありました。

1)全部正直にぶっちゃけてしまう。
2)巧妙に核心を避けて無難に仕上げる。
3)むしろ炎上商法を狙いにいく。

わたし的には(3)は絶対にありえないので2択です。多分(1)を選択すれば「ガンバのサッカーがダメだって言ってんのかゴルァ」になります。ですが(2)でも「適当にごまかしてキレイごと言ってんじゃねーよ裏切り者がゴルァ」になるのは目に見えています。まさに気分は『俺、ひぐらしひなつ。選手の田中達也を救うために何度も記者人生をループしているが、どうやってもバッドエンドを回避することができない』であります。

「書かれる対象の力を信じる」という選択

そもそも「トリテン」は主にはトリサポ向けメディアなのでガンバサポのご機嫌伺いをする必要はないのですが、これだけ世間の耳目を集めると、有料コンテンツとして一部の人しか読めない状態にすることはかえって無駄な憶測を呼ぶ。それなら無料記事にさせてもらって広く読んでいただけるものにしたほうがいい。まずはその決断がありました。許可してくれるクラブと運営会社に感謝です。

その上で、(1)を選択することに決めました。無難に収めようとすることは、この件について、大分側からもネガティブなイメージをかぶせることにつながりかねないと考えたからです。それが本人にとってリスクを負った上での前向きな決断であったことをしっかり開示しなくては、どっちつかずになってしまう。本人も叩かれる状況は受け入れています。囲み取材の中ではガンバサポへの真摯な謝罪の言葉もありました。

それなら(1)しかないでしょう。その選択は、田中達也選手の「力」を信じた上での判断です。たとえ叩かれてもあなたは自分の信じる道を行くってことですね、という確認。人がいちばん強くなれるのは、後悔しない道を選ぶときだと思います。だから叩かれても乗り越えていけるでしょうと。

もっと言えば、わたし自身もガンバのサッカーを否定していないということが前提にあります。むしろガンバのサッカーは昔から好きな部類。クレバーなディフェンスリーダーを愛するわたしが宮本監督の現役時代にファンだったことはここだけの公然の秘密です。それに現時点では結果が出ていなくても、ガンバなら放っておいても上がってくるでしょとも思ってるし。

そうやって書いたのが、田中達也選手の新戦力紹介記事でした。記事を「どう書くか」には、書き手の価値観が反映されます。どう書くかはどう生きるかということ。誰にも媚びない、品格ある記事を書き続けていきたいと思っています。

…省みはしますけど。

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物書き。サッカーと短歌を主軸にいろいろ書いてます。 サッカー専門新聞「EL GOLAZO」、大分トリニータ公式サイト「トリテン」などに執筆。著書『大分から世界へ』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情』『救世主監督 片野坂知宏』、歌集『きりんのうた。』。
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