地方から地方へ。小さなフライトならではのやりがいと難しさと
Jリーグの2019シーズンもあとわずかとなりました。J2はすでにJ1参入プレーオフを残してリーグ戦全日程を終了。今季J2は田坂和昭監督の栃木と、シーズン途中から就任した北野誠監督の岐阜と、拙著『監督の異常な愛情』で描かせていただいたふたりの指揮官が、凄絶な残留争いの渦中にあって気が気でなかった。もとより“そういうチーム”の監督を引き受けたり火中の栗を拾ったりすることの多い人たちだからこそ、この本で取材させていただいたわけですが、それにしても今季はしんどかったと思います。
結果、夏以降に思い切った路線変更に踏み切った田坂監督は背水の陣を敷いた最終節に大逆転残留。北野監督は崩壊していたチームを立て直せずJ3降格となりました。毎試合、戦術的に工夫を凝らしている様子も見えたのですが、結果につながらなくて残念です。
わたしが密着して取材している大分は、開幕当初の目標であったJ1残留を果たしました。残り2節にして7位。一桁順位フィニッシュも狙える、予想外の好成績でシーズン終盤を迎えています。あらためて片野坂知宏監督の有能さには唸るばかり。
11月22日。翌日のJ1第32節・アウェイ清水戦取材のために前乗りで静岡入りしました。福岡空港から富士山静岡空港までFDA機でひとっ飛び。福岡空港で出発を待っていた時点で「悪天候のため小牧空港に着陸する可能性があります」という条件付き運行になったものの、「まあ小牧なら…福岡に引き返されるよりずっといいよね…前日入りしておいてよかった!」と余裕をブッこきながら機上で爆睡していたのですが。
あと20分くらいで着くかなーという頃。いきなり大きく揺さぶられて窓にしこたま頭をぶつけ、その衝撃で目が覚めました。なんだ乱気流か…とぼんやりしているところへ、機長のアナウンスが流れます。
「このあと富士山静岡空港に着陸するよ。本当は着陸できないくらい視界が悪いんだけど、たまに着陸できそうな時間帯があるからチャレンジしてみるよ。でもチャレンジしてみてやっぱりダメだったときはもう一回浮上して駿河湾上空で天気の回復を待つことになると思うの。そのときは一旦降下した機首がまた急激に上向きになるけどびっくりしないでね。もろもろ安全だし大丈夫だから!」(正確には覚えていないので超意訳)
基本的にクルーも航空会社も信用しているし、乗ってしまってる以上はすべてお任せするしかないわけですが、このアナウンスを聞きながら、機長はいまどんな気持ちなのかなーと考えました。乗客の命とか、命までは行かなくても大事な仕事のスケジュールとかを背負って手に汗握っている状態でいるのか、あるいはちょっと難易度高めな機体コントロールにパイロットとしての腕が鳴っているのか。わたしだったらどんな気持ちになるだろうと。
友人の娘さんが音痴なのに車の中で大声で歌っているのを友人に指摘されたとき、その娘さんが「自分を信じて歌わんとな!」とカケラほども悪びれずに答えた、というエピソードがわたしは大好きなのですが、人間、信じて迷わずにいれば大概のことは何とかなるという気がします。
まあその後も機体は揺れに揺れ、いつまでも真っ白な雲の中にいると思っていたら突然すぐ下に地面が見えて驚き、そんな状況でも危なげなく着陸。当然なのでしょうが、機長さんは流石です。何が流石って、アットホームな感じの緩いトーンながらきちんと過不足なく状況を乗客に説明し、不安を与えず、完璧に着陸ミッションをこなすところが。ちょっとベテランぽい声だったけど、経験豊富なパイロットなんでしょうね。仕事人として惚れそうになった。顔も知らないけど。
減速する窓から見た滑走路には、3台の大きな消防車が回転灯を回しながら待機していました。嵐の中おつかれさまです…。
Jリーグのチームは全国各地にあり、アウェイ取材の際には地方から地方への移動も少なくありません。中には「こんなんで採算取れるのか…」と余計な心配をしたくなるような小さな空港同士を結ぶ航路もあるのですが、おかげさまで効率よく快適に出張することが出来ています。FDAさんもそういうニーズに応えてくださる一社。本当にありがたいですね。
サッカーの監督もパイロットも、いろんな人の人生や思いを背負う仕事。ビッグクラブではなく地方弱小クラブならではのやりがいと難しさとがあるように、華々しい国際線ではなく小さなフライトだからこそという側面もあるのでしょう。
今週末、大分はアウェイ仙台戦。今季最後のアウェイ出張になります。J1は最終局面、上位も下位も混戦のクライマックス。是非ともスタジアムで観戦してほしいけど、行けない人はお茶の間DAZNでの複数会場同時観戦も盛り上がりますよ。
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