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「忘れてきた花束。」を売ってくれた彼女さん

4月にボランティアとして参加した「本とTシャツ蚤の市」というイベントで出会った素敵カップルがいた。

「本とTシャツ蚤の市」とは、吉祥寺パルコの屋上で開催されたフリーマーケット。約50組ほどの出店者さんがそれぞれピクニックシートを敷いて、本、ZINE、Tシャツ、雑貨なんかを販売する。私はボランティアとして、出店者さんの出欠チェックや、来場者の案内なんかをしていた。

そのイベントで出会った出店者さんの1組が、素敵カップルさんたちだった。

彼女のほうは茶髪のショートカットで、カーキのポンチョを着ていた(まだまだ肌寒い4月の日だった)。普段は書店員さんをしているそうで、でもそんなふうには見えないパワフルな感じが素敵だった。

彼氏のほうは短髪で、右足と左足の色が違うおしゃれなジーンズを履いていた。普段は洋服を作る仕事をしているそうで、ああそうだろうなと納得してしまった。ときどき彼女に悪態をつくけれど、顔がにこにこしていて素敵だった。

そんな2人は「本とTシャツ蚤の市」にぴったりの出店者さんで、2人が出店していたお店には彼女が厳選した本と、彼が制作したTシャツが並んでいた。名前通りすぎた。


そこで出会ったのが、いや、彼女さんに出会わせてもらったのが糸井重里さんの「忘れてきた花束。」という本だった。

10年以上、毎日一日も休まず、ほぼ日で更新されている糸井さんの「今日のダーリン」。その投稿を1年単位で区切って、選りすぐりの言葉や写真、イラストをまとめたのがこの本だ。そして「小さいことば」というシリーズものなのだという。

全然知らなかった。

私は、糸井さんの「今日のダーリン」を知っていたけれど、それがこんなふうに本になっていることも、それがシリーズ化して販売されていることも全く知らなかった。

「本とTシャツ蚤の市」で素敵カップルの彼女がこの本を厳選していなかったら、私はこの本と出会えなかっただろう。そう思うと、彼女さんが「これめちゃめちゃいい本で」と説明している姿がこれまた素敵で、うんうんと話を聞いた二言目には「買います」と言っていた。

「でもお姉さん、この本好きなんですよね。売りに出しちゃっていいんですか?」

彼女さんは自分が集めていたという「小さいことば」シリーズの多くを出品していた。

「うん! いい本は、やっぱりたくさんの人に読んでもらいたいし、こうして売ったお金で私はまたいい本を買うよ」

そう言って笑う彼女さんからは、本の匂いがした。本が好きだという匂いがした。

たくさん販売されていた「小さいことば」シリーズの中でも私が「忘れてきた花束。」を買った理由はただひとつ。彼女さんがおすすめしてくれたから。

読み始めて、ああ買ってよかったと思う。いい本だなあと泣きたくなる。

伝わらないことが、たくさんあって、ほんとうによかった。
伝えにくい荒野の面積が広大であることは、たぶん希望だ。

「うまく伝えるのはむつかしい」という場合は、
たいていが、とてもおもしろいことである場合が多い。

いつか彼女さんともう一度会えたときには、また本の話が私がしたい。私が「忘れてきた花束。」を買ったお金で、お姉さんがどんな本を買ったのかまた教えてもらいたい。

「お二人はほんとうに素敵なカップルですね~」と私がしみじみ言うと、彼女さんがぐっと近づいて私の耳元でこう囁いた。

「実はね、私たちの出会いってティンダーなんだよ! だから、たなべちゃんもやってみてね」

え! とびっくりした私に向かってウインクした彼女さんは、やっぱりたまらなく素敵だった。

”終わりよければすべてよし” になれましたか?もし、そうだったら嬉しいなあ。あなたの1日を彩れたサポートは、私の1日を鮮やかにできるよう、大好きな本に使わせていただければと思います。