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金が無いから結婚できないって本当か?

週刊東洋経済5月14日号(9日発売)の表紙がでかでかと『生涯未婚』の文字になっていて、まがりなりにも、独身・未婚を男女ともに研究している身として興味があり読んでみた。

表紙に「男性の3人に1人が生涯未婚に」とあるが、それを見て勘違いしている人たちのツイッターを数多く見た。「3人に1人」というのは、あくまで2035年の推計だ。2010年の確定値では男性20%、女性10%である。

生涯未婚者が増える未来とはソロ生活者が増える未来である。拙著「結婚しない男たち」の中にも書いたが、日本の単身世帯数は中国・アメリカに次いで世界3位である。少子高齢化もそうだが、日本は世界に先駆けてソロ社会化に向けた対応を迫られている。

今回の東洋経済の特集も、そういったソロの国ニッポンに対する経済的観点からの提言かと思って大いに期待したのたが、どうやら違ったようだ。

簡単にまとめてしまうと、「結婚できない男たちが増えたのは、若年層の低賃金による貧困化が原因であり、結婚が贅沢品あつかいとなって遠のいている」ということが言いたいようだ。

う~む・・・。

まず、未婚率があがった理由について私見を述べたい。

そもそも生涯未婚率というのは、46~55歳の未婚率の平均であって、いわば中高年未婚率の指標だ。若年の未婚率とは別物である。要は今のアラフィフの平均未婚率を生涯未婚率と呼んでいる。

今50歳あたりの人たちが社会に出た時と言えば、80年代後半である。その時代何かあったかが重要。ひとつには男女雇用機会均等法が施行された。

実は、生涯未婚率の急激な上昇は、女性の社会進出と終身雇用制の崩壊のふたつが要因だと考える。もっと簡単に言えば、女性が働きだして、女性の腰かけ入社組が減ったことで、会社の中の日本型お見合いシステムが崩壊したからです。今40~60歳のおっちゃんたち、「俺たちは恋愛結婚だ」と胸を張りたいかもしれないが、あなたがどう思おうと勝手ですが、職場結婚というのは大いなる社会的お見合いシステムだったんですよ。

とにかく政府の言う「女性が輝く社会」を推し進めて行くと、必然男の生涯未婚率があがる社会になるのだ。だから、この未婚率の上昇はとまらない。まずそれを前提に考えないといけない。

記事では、若者が結婚できない理由についてを以下のように記している。

2012年度の就業構造基本調査を基に大卒男性の未婚率を雇用形態別にまとめると、20~24歳の時点では雇用形態にかかわらず95%超が未婚だ。だがこれが35~39歳になると、正社員をはじめとする正規雇用者は25.3%に減少しているのに、派遣・契約社員は67.2%、パート・アルバイトは85.8%が未婚のままとなっている。

要するに何が言いたいかというと、30代後半になっても未婚のままの男は非正規雇用とアルバイトが多いということ。だから、「金がないから結婚できない」という理屈に持っていこうとしている。

これは一部は正しい。年収が低いから結婚できないという意見もあるでしょう。事実、私が調査したところでも「結婚できない理由は金が無いから」と答えた人もある程度いた。

いたけれども、深く掘り下げるとこれって言い訳に過ぎないんだよね。勿論、金がなければ生きるのに精いっぱい。生きるということは食うことだ。だから食費にお金を使う。それが満たされてはじめて「性欲=生殖本能」が湧きおこるものだ。だから、金がなくて食うのにやっとなら、恋愛動機すら湧きおこらないというのはあると思う。だけど、食うのにやっとの超貧困層の話とこれとを一緒にされちゃかなわない。食うのに困る超貧困層は昔から存在したし、彼らは結婚どころではないのだから。

2012年の就業構造調査から、各年代別・年収別の分布をグラフにしてみた。

20代は低年収の未婚者だらけのように見えるが、そもそも平均初婚30歳超えの時代。男は20代での結婚はしない。そもそも20代の頃は今も昔もみんな低年収だった。

30代をみていただきたい。300万円台で一気に既婚者の数値が跳ね上がる。40代でも同じだ。結婚する男は、300万円台を中心に結婚していることがわかる。

一方、200万円台でも未婚者と既婚者の数はそれほど変わらない。200万円台以下の年収でも、20代で98万人、30代では103万人が既婚者だ。

年収別の分布に関しても、未婚者も既婚者もバラつきに大差はない。結婚するやつは年収関係なくする。できない奴は、自分ができないことを自分のせいにしたしないから年収のせいにするのである。

インタビューで深く問い詰めると大体そうだった。言い訳なんである。もっと言うと「自分のために金を使いたいから結婚しない」。これが本音なのだ。

すると「結婚が当然」と考えるガラパゴスな人は、「でも、年収があがったら結婚したいでしょ?」と言い寄る。決してそんな簡単な話じゃないんだよな。つか、本末転倒。

金がないから結婚できない=だから、結婚は贅沢品だ、という短絡的な決め付けは幼稚すぎる。

非婚化について、僕はよく「クルマ離れ現象」をたとえ話として出す。

クルマ離れといっても地方在住者のようにクルマが生活必需品ならどんなに金がなくても買う。必要だからだ。ただ、都会に住む者にとっては、クルマがなくても生活できるし、ムダだと判断したから買わない。昔のようにみんながクルマを所有していた時代でもないから肩身も狭くない。いいクルマに乗っていたらモテるという時代でもない。

クルマが買えるお金があってもクルマに魅力を感じないから買わないのだ。結婚もそれと同じではないでしょうか。


記事では、さらに、非正規雇用の未婚男性には悲惨な末路が待っている、と脅している。

非正規社員の賃金は、正規の6割程度しかなく、現役世代から経済的に厳しい。特に老後は、退職金と年金により経済的格差が歴然としてくる。社会保障に詳しいみずほ情報総研の藤森克彦主席研究員によると、男性高齢者全体の相対的貧困率は18.4%だが、これを未婚者に限ると40%に跳ね上がる。

これも随分と恣意的な話だ。ソースによればあくまで65歳以上の高齢単身者の話なのだ。「未婚者に限る」と書いてあるが、未婚のデータは見当たらない。未婚ではなく、単身(独身)高齢者の話なのだろう。だとすれば、結婚して死別・離別して独身となった単身者も含む。ソースのグラフでは、男性より単身女性の方の貧困率の方が悲惨である。

未婚者だけがソロ生活するわけではない。現状でも1000万人の「夫と死に別れた独身高齢女性」が存在する。貧困高齢者の話をもってくるならば、それは高齢者全体としての話にすべきで、未婚とか既婚とかを分けることに意味はない。

結婚は個人の意思決定に基づく自由な選択であり、非正規・低収入でも結婚している人は存在する。だが高まる生涯未婚率と、未婚者の属性をつぶさにみると、これらの数字が未婚者の能動的で賢明な選択の結果だ、と受け止めるのもあまりに単純すぎるのではないか。

いやいや、「結婚は自由」といいながら、もうこの言葉自体が、「結婚するのが正義」という考え方ありきに聞こえる。

未婚者の選択の何を知っているというのだろう?

そもそも生涯未婚率が高まることが一体何の問題があるというのか?

個人の選択の問題になんで介入したいのかわからない。

…こういうこと書くと、「国が滅びる」とか「未来の子どもたちに対して何も貢献していない」とかお説教されますが…。

ちなみに、この記事制作に当たって行った調査データが冒頭に掲載されている。対象は、35歳以上の未婚者本人とその家族。有効回答数932件のうち、52.6%にあたる491件が自身や家族が未婚であることに「不安を感じる」と回答。「不安を感じていない」と回答した283件(30.3%)を大きく上回っている。とのこと。

言葉は使いようだなあ。

30%が不安を感じていないと回答したわけだから、3割の人間は「ほっとけよ」と思っているということだ。3人んに1人が生涯未婚の時代だとしたら、30%。

合致してるじゃん。何の問題もないじゃん。


僕は決して「結婚を否定」しているわけではない。そこは誤解のないように。結婚して子育てをしている人たちが幸せなら、それはそれでいいことです。どんなに非婚化が進もうとも、結婚する人はするでしょう。それに対して何も言うことはありません。

とはいえ、今後ますます未婚者は増大する。みんなあまり知らないんだけど、男性は女性より300万人も余っているんですから。女性が全員結婚しても300万人は余るんです。

考えるべきことは、結婚する数を増やすことじゃない。

よ~く考えてほしい。婚姻率95%の時代が異常だったんです。それに戻ることはあり得ません。

それを無理やり元に戻そうとして、その軸を政府や社会制度に求めようとするのもいいんですが、あまりにも受け身すぎじゃないでしょうか。

むしろ未婚高齢単身者(高齢ソロ男)の増加にあわせて、高齢者労働環境含めて流通や金融、暮らしサービスの転換を図る時期にきていると見るべき。ビジネスチャンスだってそこには転がっている。

ソロ男含む独身生活者の消費意欲がなぜ旺盛なのか?それについては詳しく拙著に書いてありますのでぜひご一読ください。今後、人口の半分が独身者となる時代が来るわけで、優良顧客のなりえるソロ男やソロ女をどれだけ抱え込むかが争点となるはずです。


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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。