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「結婚は金」の問題であり、それも「額面給料ではなく手取りの問題」

私自身も少子化に関する専門家としていろいろなメディアから取材を受けるが、最近閉口しているのは、岸田内閣の異次元の少子化対策発表以降、「俺もいっちょかみしたい」という門外漢が増えて、政府の少子化対策と同等の的外れなことを言う内容を何の疑いもなく取り上げるメディアがあることだ。

中には、「政府の家族関係支出GDP比を増やせば少子化解決(ハンガリーを見習え)」とか「今子どものいる夫婦がもうひとり産めば少子化は解決」とか「若者に壁ドンの練習をさせればいい」とか「若者の恋愛離れが原因」とか、果ては「男の育休が増えれば少子化解決」とか、いい加減を通り越してとんでも論法を言う大学教授や生保系シンクタンクの某が後をたたないのだが、

それらはことごとく論外として、何も知らない人が聞いたら一見もっともらしく聞こえることを言いふらすのもまた害悪のひとつだろう。これはテレビのコメンテーターシステムでもいえることだが。

たとえばこの記事。

まず、第一の間違いはこれ。男性の未婚率が女性より10%ポイント高い要因についての部分。

「男女の人口には大きな違いがないわけだから、再婚の男性と初婚の女性のペアが生まれることにより、男性が余る状況が生じていると考えるのが妥当だ」

とか言ってるんだが…
まず、男女の人口は同じではない。男女出生比というのがあり、これは大体どの時代も男105:女100という感じで、男の方が5%ほど多く生まれてくる。

それでも乳幼児死亡率が高かった時代(日本も1960年代まで高かった)は、男児の死亡率が高く、成人段階では男女同数程度になっていた。ちなみに、戦争などがあった時代は当然成人で比べれば男の方が少なかった。

今は乳幼児死亡はほぼない。出生段階で男の方が5%多いのだから、仮に生まれてきた女性が全員結婚しても5%の男は余る。生涯未婚率の男女差の半分は出生性比である。

もう半分は、記事にある通り、離婚男性が初婚女性と再婚を繰り返すことによる「時間差一夫多妻男」のあおりを受けて、一度も結婚できない男があぶれることになる。

さらに、生涯未婚率は45-54歳の未婚率の平均であるが、第二次ベビーブーム期くらいまでは夫年上婚が多かった。しかし、今や同年齢婚と夫1-3歳上くらいの年齢近似婚が多くなっている。その要因は伝統的なお見合いの減少なのだが、それによって、40歳を超えた未婚男性はかつてはお見合いという社会的お膳立てシステムによって拾われていたが、今やそれらは婚活の最後の砦といわれる結婚相談所でも「40歳ですか…無理っすね」と言われてしまう例も多い。

「最近は中高年向けの結婚相談所もあるぞ」と反論したい奴もいるかもしれないが、あれは対象は再婚相手を探すためのものである。40歳バツイチと40歳未婚では全然扱いが違う。

つまるところ、男の生涯未婚率が増えたのは、男児が死ななくなったことと皆婚を実現させていた社会的結婚お膳立てシステムの崩壊によるものである。
ここの本質的な要因を見誤っていたらその先も誤り続ける。


次の間違いはここ

「男性の中で所得の二分化が進んでいるため、結婚も二分化が進むということだろう。かつては多くの人が『中間層』と思える収入があったが、今はそうではない。1990年代以降の就職氷河期に社会へ出た世代が年をとるにつれ、そうした状況は進んできた」 

所得の二分化が起きているとか格差が広がっているというのはなんとなく納得しそうな話だが、実際はそうではない。結婚に関するデータで考えるならば、初婚の半分を占めているの29歳まである。平均初婚年齢が31歳を超えているからといって平均値には何の意味もない。2022年でさえ男性の初婚中央値は29歳台だ。つまりは、初婚する未婚男性の半分以上が29歳までにしている。結婚が減っているのは20代で結婚できなくなっているだ。
この前提をふまえた上で、20代の所得がどうなっているかを正確に理解すべきだが、ここでも平均所得とか額面給料には意味はない。手取り=可処分所得で見ないといけない。なぜなら1990年代と今とでは天引きされる社会保険料が段違いに違うからだ。

初婚の半分を占める20代の可処分所得分布を1996年と2022年とで比較してものが以下である。

グラフでおわかりのとおり、別に二分化されているわけではない。格差も広がっていない。そもそも20代は今も30年前も給料は安い。

しかし、問題は、1996年と比べて、可処分所得が20代のボリューム層である200-400万円台で激減していることである。要するに、額面の給料があがっていないだけではなく、天引きされる国民負担増によって手取りが減っている。これこそが問題なのです。

ちなみに、今の人達はボーナスからも当たり前に社会保険料が引かれるようになっているが、2002年度までは引かれなかった。これも大きい。

給料の問題以前に社会保障税制の問題なのだ。1996年と2022年の20代の若者が額面給料は同じでも、手取りの金額は年間50万円も減っているのである。可処分所得300万円足らずの中の50万円は大きい。手取り17%減だ。加えて消費税もあがっている。今の20代は、結婚どころじゃないほどいろいろ金もなければ心の余裕もないのだ。

国民負担率があがればあがるほど婚姻も出生も減る。この「少子化のワニの口」いうものがいかに出生を減らしているかについて、ちゃんと把握しないといけないし、メディアもいい加減な有識者や御用学者の言葉をそのまま貼り付けるべきではない。

とかく、「男が大黒柱」みたいなことを非難する人がいるか、結婚は経済生活なのてあり、金の問題なのである。実際、経済力のない男は結婚対象にはなれない(若くてイケメンなら金がなくても恋愛対象にはなるし、マッチングアプリで恋愛弱者女性をヤリモクで騙すことは可能だが、間違って恋愛感情を抱いてしまったとしてそいつと最終的に結婚はしない)。

1920年代の生涯未婚率は男1%程度しかなかったが、これは別に「昔は金がなくても結婚できた」ことを意味しない。生涯未婚率は50歳時点の未婚率だ。1920年代などは「金がない男は50歳になる前に死んでいた」から生涯未婚率の計算にすら入っていなかったのである。

1927年の読売新聞記事を紹介しよう。昨今の結婚事情について書いた記事で、結婚を希望する女性の意見が掲出されている。

「学歴などはあまり重視しない。勿論バカでは困るが(原文ママ)、財産さえあれば少々教育程度が低くても我慢する。なぜなら、結婚後はさっさと仕事をやめて主婦として家庭におさまりたいから。さらに条件はそれだけではなく、兄弟姉妹が多くないこと、容貌体格がすぐれていること」

令和の今と何も変わっちゃいない。


長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。