Top_ハチの一刺し_002

持っている人

ーハチの一刺し(下)

運が良い人のことを世間では"持っている人"という。その一番身近にいる例は、わが奥さんと言いたい。三畳強(約6平方m)の広さしかない風呂場に9匹ものスズメバチがいたにもかかわらず、どこを刺されることなく入浴を満喫した。入って1分と立たないうちに、足の裏を刺されて飛び上がって風呂から出てきた自分と比べると、あまりの違いに理不尽とさえ思う。持っている人と持たざる人の差をまざまざと見せつけられた気がする。

前回の話:「明日はどっちだ

"神がかり"

奥さんの"持っている"ぶりは、これにとどまらない。風呂場の窓のロックの隙間に入り込んだスズメバチに気付かず直に触れてしまうも、その感触に驚いた奥さんが悲鳴を上げただけで、まったく刺されなかった。

これには奥さんも「護られている気がする」と、その運の良さを実感したようだ。足の裏の応急処置を終え、スズメバチを駆除すべく、夫婦揃ってあらためて風呂場に乗り込んだときのことだ。

思い返すと、懸賞好きの奥さん。日ごろからいろんな雑誌やミニコミ誌などの懸賞に繁く応募し、その当選率は抜群に高い。わが両親をして「え!?また当たったの」と目を見開いて驚くほどだ。

それを敢えて斜に見て、運の良し悪しで人生は決まらないとうそぶいてきた。その一方で、奥さんのツキ具合に感心し、それを祝福していたところでもある。ただ、ここまで来ると、"神がかり"と言いたくもなる。

懸賞006

仲間

風呂場をくまなく探すと、スズメバチは9匹おり、その数の多さに驚いた。ただ、どれも冬ごもり中で動くのが億劫なのか、飛んで攻撃して来ることはおろか、ほぼじっとしたままでいた。

そんなところに水攻め、お湯ぜめ、洗顔フォーム攻めなど、多彩な攻撃を繰り出して殲滅。どこか近くに巣があるのだろうか。少なくとも風呂場では見つからず、今後警戒を強める必要がありそうだ。

9匹がいつ頃、侵入したのかは分からないが、スズメバチにとっても安息の地を見つけたと思いきや、こんな結末を迎えて気の毒ではある。暖かな春が訪れるまで、きっと穏やかな日々を過ごせると思っていただろう。

他方、スズメバチに刺されたことで、死に至る恐れもあるアレルギー症「アナフィラキシーショック」のリスクを高めた自分も、言うまでもなく気の毒だ。現在と未来に予期せぬ"痛み"を背負い込むことになった。

奥さんに何事もなかったことは幸いだ。ただ、見方によると、一人だけ仲間外れにすることになり、それも寂しかろう。そこで敢えてこんな言葉を用意した:「別の世界線では、きっと不運に泣く奥さんがいる」

持っている人への「ハチの一刺し」のつもりだ。

(写真〈上から順に〉:ハチの一刺し=写真ACの素材を基にりす作成、わが家の"懸賞女王"奥さん=イラストACの素材などを基にりす作成)

関連リンク(前回の話):


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