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ガンダム40周年と失格ファン(番外編)

ー"皆殺し3人衆"

テレビアニメ「機動戦士ガンダム」が40周年を迎えたのを機に、ガンダムシリーズの生みの親であるアニメ監督・富野由悠季について調べ、作中の登場人物を次々に殺す"皆殺しの富野"という異名があることを知って驚いた。ただ、それは富野の専売特許ではない。「銀河英雄伝説」「アルスラーン戦記」で知られる小説家・田中芳樹、「スケバン刑事」の原作者である漫画家・和田慎二も、それぞれ"皆殺しの田中""皆殺しの和田"として知られているという。こうして"皆殺し展開"が大得意な3人を集めれば、話の小ネタになるだろうか。

これまでのお話:「失格ファンのガンダム40周年(上)」「失格ファンのガンダム40周年(下)

容赦なし

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3人の作品については、いずれも"非リアルタイム"で見たり読んだりしたが、代表作に限っての話になる。それぞれ"皆殺し"の異名に恥じぬ登場人物の死なせぶりだ。主要なキャラクターはもちろん、主人公も死なせる、あるいは廃人にする。実に容赦ない。

ただ、そうした理由は三者三様のようだ。インターネットメディアのピクシブ百科事典によると、富野は「キャラを全員殺した方が、きれいさっぱり何も残らずにまとまる」と語ったという。制作者・視聴者ともに、未練を残さずに作品から離れられる最も理想的な表現法としている。

「歴史を見ていくと、悲劇的な人物の方が惜しまれて人々の記憶に残るようなこともあるだろう」とは田中の言葉だ。「名将とヒーローの条件が一致するようなところには、悲劇性が出てくるように思う」と、死がもたらす効果をうまく作品に取り込もうとしていることをうかがわせる。

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和田は「広げた物語の風呂敷を畳む際に『キャラのリストラ』を多用して伏線を切る」(ピクシブ百科事典)。予想外のキャラ人気で、ストーリーがあらぬ方向に振り回されることを恐れた事情もあるようだ。死なせる結果は同じでも、それぞれ事情が違うところが興味深い。

今年で富野は78歳、田中は67歳、和田はすでに亡くなった(享年61歳)。このうち、富田は「皆殺しは本来タブー。作家としての禁じ手」とし、決して好きでキャラを殺す展開を盛り込んでいるわけではないといった趣旨の発言をしたそうだ。今後、これまでの"皆殺し道"を走り続けるかは微妙だ。

割れる評価

富野、田中、和田の"皆殺し3人衆"のうち、"皆殺し"の印象が最も強いのは、個人的に田中だろう。「銀河英雄伝説」では、主人公の"ツートップ"であるラインハルト・フォン・ローエングラム(病死)、ヤン・ウェンリー(戦死)をともに退場させ、さすがにこれには胸に穴が空いた気持ちにさせられた。そして、それは良い意味で、今も尾を引いている。

逆に「アルスラーン戦記」は悪い意味でそうだ。2017年12月に発売した最終16巻で、主人公を含む主要キャラクターを一気に死なせたのだが、その描写は実に荒い。田中は遅筆・未完が多いことでも知られており、初巻から31年かけてようやくの完結にファンは湧いたが、その一方で「終わらせるために仕方なく書いている感が強い」と、一部に厳しい言葉が相次ぐ。

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同じ作者の同じ"皆殺し"展開だが、作品によって評価が両極端に割れたところが面白い。ファンの個人ブログなどを見ると、最終巻までの31年の中で、この作品に対する田中の情熱が薄れたのだろうとの感想が目立つ。31年のうち、5年以上次巻が出ない空白期間も2回あったらしい。ファンの見立ては案外、的を射ているかもしれない。

そして、この先の"皆殺し道"の行方は情報を得ていない。(敬称略)

(写真〈上から順に〉:"皆殺し3人衆"の富野由悠季〈右〉、田中芳樹〈左〉、和田慎二〈故人、左隅下〉=AV Watch、Nintendo DREAM WEB、昭和ガイドの画像を基にりす作成/富野由悠季監督「機動戦士Zガンダム」〈上〉、田中芳樹著「アルスラーン戦記」〈左下〉、和田慎二作「スケバン刑事」〈右下〉/実写版「スケバン刑事」の主人公・麻宮サキを演じた松浦亜弥。原作者の和田慎二は主人公も容赦なく死なす=U-NEXTとアマゾンの画像を基にりす作成/「アルスラーン戦記」最終巻と作者に抹殺される主人公・アルスラーンを含む主要登場人物16人=Qoo10とInstagram Country Rankingの画像を基にりす作成)

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