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真夜中が寂しくてよかった

 駅前のタリーズにいる。オープンテラス型で、大通りを歩く人らを眺めながら何かしらのラテを飲んでいる。目の前には成城石井がある。おばさま方が惣菜を買う。女子大生はミスドに並ぶ。私は何とかラテを飲む。



 去年から突然全身の脱毛症になった。激務故のストレスかもしれなかった。そして私は双極性障害になり、先月から休職した。怒涛の勢いで迫り来る三重苦。背負うには余りにも重すぎる。


 いや余り重くないのかもしれない。実のところよく分からない。夜になるとものすごく悲しくなるし、朝が来ると大方忘れている。悩み事は夜ではなく朝にした方がずっと良いらしいが、それでも夜に深く沈んでしまうのは無理もないのかもしれない。夜は人を助けもするしダメにもする。



 脱毛症だと言うと大抵の人は「かわいそう」だと言う。かわいそう、分けてあげたい、ストレス?仕事に支障ないの?その他諸々、絶句する人もいれば頭を直視できない人もいる。


 そういう時、決まって思うのは「うるせえな」という一言に尽きる。私は一度も自分をかわいそうだと思ったことはない。中々トリッキーな病気なのでそう思われるのは仕方ないのかもしれない。しかし自分の価値観を押し付けられるのは控えめに言っても鬱陶しいものである。髪がないのはかわいそうな事なのか?

 夜、寝る前にはウィッグを取り、生身の自分を直視せざるを得なくなる。何ともヘビーでトリッキーな自分。かわいそうだと思われている自分。眉毛しかない異様な姿の自分。これを見て切なくならない自分がいるだろうか?まあ、朝になったらいるのだが、夜にはいない。私を助けるのは私しかいない。真夜中が寂しくてよかった。



 駅前のタリーズには様々な人がいる訳で、休憩中らしいOLもいれば、野球名鑑を凝視するおじさんもいる。大学生もいればサラリーマンもいる。この中に1人脱毛症の女もいる。そんな事実にいったい誰が気付けるだろうか。どこにでもあるタリーズに1人、脱毛症で双極性障害で休職中の女がいる。

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