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変わる、変える、女性の起業。 ―女性の起業支援エコシステムと地方経済ー



※本記事は、宣伝会議第43期 編集・ライター養成講座の卒業制作として作成しています。


周りの人を笑顔にするため、自分らしく生きるため、働き方もカスタマイズする。その選択肢のひとつが「起業」だ。特に女性の起業は個人的な目的だけでなく、地域の社会問題解決にもつながるケースが少なくない。


ただ、女性起業家が知識や横のつながりを得る場はまだまだ少ない。そこで女性起業支援エコシステムづくりに尽力する女性企業家・リーダー、また利用者である女性企業家・起業家4人の活動を追った。


シカゴが女性起業家率世界一位である理由

Startup Genome社がまとめた「女性起業家が多いエコシステム・ランキング」2019年版によれば、スタートアップに占める女性起業家の割合が世界平均14.1%の中、シカゴは26%と世界第一位を誇る。背景には、女性起業家をサポートするエコシステムの存在が大きく影響している。

https://www.jetro.go.jp/world/reports/2020/02/d424aa0de448ed5b.html


シカゴにはいくつものエコシステムがあるが、Ms.Techもそのひとつ。会員制組織で、テック業界の女性たちが集う。そこでは会員同士の情報共有をはじめ、ピッチトレーニングや講演会などの各種イベント、メンバー同士の交流イベントを開催。それぞれが成長できる仕組みがつくられている。

また、シカゴはスタートアップへの投資収益率が非常に高いことでも知られる。この一因とされるのが、女性起業家率世界一なのだ。

日本でも2016年より、経済産業省が「女性起業家等支援ネットワーク」を全国10カ所に設立。地方の女性起業支援にも着手した。

https://www.gender.go.jp/kaigi/renkei/team/WEPs/pdf/economic01_08.pdf


女性起業家プロジェクトiGC代表:宮脇恵理さん(大分県)



「女性起業家向けのイベントを通じていろんな人と知り合っていくうちに、地域経済を回している企業・経営者と女性起業家との接点がないように感じたんです。その接点を作るためのハブになりたいと思ったのがきっかけでした」。

宮脇恵理さんは、友人であるTeam&AMA RE代表の大山直美さんと共に活動をはじめた。2013年当初はそれぞれが友人を2、3人ずつ呼び、10人弱からスタート。自分たちが学びたいこと、例えば当時ならカフェでiPadを学ぶイベントなどを開催していたという。


「堅い内容のセミナーよりも、少し気分が上がるような場所・内容でイベントを始めました。定期的に幅広いテーマで開催し、1年経つ頃には情報共有者が100人程まで増加。その後、2015年に合同会社アイ.ジー.シーを立ち上げました」。


女性起業家の多くは、情報や戦略に限りがあると考えられる。例えば商工会議所や自治体が創業セミナーを実施していても、敷居の高さから参加を躊躇する人もいるだろう。何となく気構えし、実際に女性起業家たちまでリーチしないといったことは各地でもあろうかと推察される。

「起業したい女性の多くは、「稼ぎたい」「経営したい」わけではなく、目の前にいる人たちの笑顔を見たい、自分の得意なことを仕事にしたいと思う人が多い。今まで趣味でやってきたことが、パートぐらいの収入になったらいいなという、気軽な気持ちで始める人が大半なんですよね。そういった方向けのワークショップやセミナーの数はまだまだ少ないなと感じました」。

日本政策金融公庫総合研究所がまとめた「2020年度起業と起業意識に関する調査 」によると、週35時間以上の「企業家」の場合は女性の割合が26.3%(事前調査の数値)である一方、勤務時間が週35時間未満の「パートタイム企業家」は女性の割合が45.8%だ。実際の調査でも、短時間勤務の形で起業する女性が多いことがわかる。


宮脇さんは、女性の「やりたいことを応援する仕組みが必要だと話す。

「女性起業家に仕事を依頼する時、どんな接点から、どんなことを依頼できるのか。そこを解決しないと、自分の得意を生かして仕事をしたいと思ったときに、事業成長につながりません。また、パートくらいの収入でいいという段階で、人は満足しないと思います。地域とつながりを深める中で、やりたいことも大きくなっていく。そのやりたいことを大きくしていける仕組みづくりが必要だと思います」。


オンラインサービス「SUITS」を構築した背景


SUITSを使った、女性起業家プロジェクトiGCトップページ画面

宮脇恵理さんは、2002年に家業から独立分社化したミヤシステム株式会社の常務取締役を務めており、経営者とのつながりも多かった。そこで知り合いの経営者へ女性起業家の情報を共有、紹介などを始めたという。


「はじめは本業以外のプライベートの時間を使って活動していました。私が単純に、女性起業家とつながることが楽しかったから。今まで出会わなかったような人たちがたくさんいて、「こんなイベントをやったら喜んでくれるかな」と思って活動していたんです。

ただ、そのメンバーも100人を超え、セミナーなどの内容や連絡など事務局作業も膨大になり、私が企業へ紹介する情報も一過性のもの。そこで2016年にコミュニティ マネジメントサービス『SUITS』をスタートしました」。


SUITSは、そのコミュニティで活躍する人々がどんな思いで活動しているのか、スキル、人物像などの情報を可視化し、コミュニティ通過によって繋がりを深めるためのシステムだ。大分県以外にも各地の女性起業家グループや助産師コミュニティなどが登録しており、その数も増えつつある。


「数の多さは力になります。数が集まれば興味を持ってくださる人も増え、社会に影響を与えるチームになるのではという仮説のもと、システムを構築し、可視化したのがSUITSです。そこに地域の企業や経営者が興味を持ってくださり、コミュニケーションが広がっていきました」。


SUITSは、メンバーそれぞれが、自分のページを最新の情報に更新していける仕組み、いわば自動で動くシステムだ。宮脇さん自身のシステム会社経営のキャリアからの発想がSUITS構築のきっかけだった。そこから一気に、コミュニティ拡大のスピードが加速していったという。

当初は大分市を中心とした女性起業家を見える化したタイミングで、大分県が女性の特性や視点を活かした起業を選択肢にすることを目的に、2017年から「大分県女性起業家創出促進事業」が始まり、受託して5年目の企画運営を行っている。

大分県女性起業家創出促進事業「Oita Starring Woman」


「1年かけて起業したい女性たちを掘り起こし、寄り添い、成長を促す講座を開き、年度の集大成のイベントとしてビジネスプラン発表会を行います。その発表会に審査を通過したファイナリストとしてプレゼンテーションした方は、「想いをカタチに」していくロールモデルとなり、翌年以降はちょっと先いく先輩として次代の女性起業家を育てていく流れ。

ファイナリストには、セミナー講師やストーリー発表の機会など活躍できるポジションを作っていきます。いきなりピッチコンテストでは上手くいきませんから、その想いを醸成し、学び育てていくことが必要です」。

また県内の全市町村やサポ―ター企業と一緒になり、地域全体で応援し活性化する、継続的に事業を推進する仕組みが必要だ。ビジネスプラン発表会は、優劣を競うものではない。共感した企業とマッチングし、その企業の場所・時間・リソース・人脈などを提供してもらいながら、女性たちの「好き」や「得意」を活かした本当に身近な社会の問題解決や社会のニーズを実現していく。

「女性の暮らしの中で感じる「不」には企業につながるヒントが落ちています。最近では社会解決型ビジネスに注目する女性も多いのですが、ビジネスモデルを整えなければ、マネタイズが難しく企業も継続が困難。そのためには、机上の理論ではなく、知識と経験を実践している先輩起業家(メンター)の存在や、スキル・人脈を持つ地元企業とのマッチングは必要不可欠です」。

持続可能な事業とは、アイデアがあっても自分一人ではなかなか解決できないことを、学びと交流で多くの人や機関を巻き込みながら、エコシステムの中で解決につなげるイメージだ。


三重県女性起業家・企業家プラットフォームwiz:共同代表:一尾香さん


三重県女性起業家・企業家プラットフォームwiz:共同代表:一尾香さん


三重県でも、大分県の宮脇さんのようにエコシステム構築に注力する女性がいる。三重県女性起業家・企業家プラットフォームwiz:共同代表である一尾香さんもその一人だ。2017年に賛同者と共にMie女性起業支援室を立ち上げ、活動の幅を広げるべく株式会社Eプレゼンス代表取締役の川北睦子さんと共にwiz:を設立した。


一尾さん自身はサイバー・ネット・コミュニケーションズ 株式会社の社員であり、wiz:設立前から起業家支援に携わってきた。2012年には同社が運営するビズスクエアよっかいちの担当となり、サイトの拡充やインキュベーションマネージャーの資格を取得。

「女性には女性のための、性別を分けた起業支援が必要」と感じたきっかけは、三重県からの受託事業「スタートアップ予備軍発掘・ネットワーク化業務調査」で行った意識調査にあった。

https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000718616.pdf


「それまで支援の仕方は性別に関係ないと思っていたのですが、調査結果を見ると、 目指す規模や起業の理由、かける費用など、性別で全く違っていたんです。これだけ違うのだから、支援の仕方そのものも分けたほうがいいんじゃないかと気づいて。そこからまわりに話を聞いていき、同じように考える人が集まって、Mie女性起業支援室を設立しました」。


Mie女性起業支援室では、ミニセミナーやランチ交流会などを実施。2018年にはテストマーケティングの機会として「Brilliant Women EXPO 2018」を開催した。 一方で、なかなかコミュニティが広がらないとも感じたそう。


「地域的にも、数的にも、コミュニティが拡がるきっかけはないかと。そこで、経済産業省の事業である『女性起業支援ネットワーク』を通じて大分県の宮脇さんの取り組みも参考にプラットフォームをつくり、wiz:設立へとつながりました」。

 
女性起業等支援ネットワークでは、関西、大分、東海、東北など全国を10の地域に分けてそれぞれの地域ごとに活動されており、 情報を共有する場もあった。「目指すところはみんな同じだよね」と、 良い運営例を見聞きしながら三重県でも取り入れていった。

女性起業支援エコシステムについて、一尾さんはこう話す。

「起業が働き方や生き方の一つの選択肢として当たり前になってもいいなと思います。人が働くとき、『就職』と同列で『起業』を自分で選べるようになる。エコシステムとして常に身近なロールモデルや仲間がいたり、応援する体制があったりすることで、 『起業』へのハードルはぐっと下がるのではないでしょうか。

常に自分の少し前を歩く人がいて、その時に選べる「やり方」が見つかれば、失敗の確率も減るでしょうし、どんどん改善していくはず。先達の歴史を学んで選択ができることには大きな意味があります」。

wiz:に参加する多彩なメンバー:古田理江さん・西畑敦子さん


「Flower Market 花子さん」:古田理江さん

「女性の起業は、その着眼点が『自分の生活に密着したもの』も多いんです。『やってみたら当たりました!』なんて人もいますよ!」。

そう話すのは、三重県四日市市にて、夫婦で生花店「Flower Market 花子さん」を営む古田理江さん。本業以外にもマルシェや各種イベントなど、自身が出店するほかにもプロデューサーの立場で女性起業家をサポートする。
三重県女性起業家・企業家プラットフォームwiz:の中では、先輩女性起業家のポジションだ。

https://www.instagram.com/hanakosan/


「男性と比較して女性は起業に対するハードルが低いように感じます。女性の力をうまく転がすことが、地方経済の活性化にもつながるのではないでしょうか」。

女性の起業は副業的な感覚で、キャリアにとらわれない起業も増えている。また、新規ビジネスの起爆剤としても期待できそうだという。例えば主婦が起業し、そののちに夫が退職して共に働く、というケースも見られる。

マルシェ出店時のブースでは、生花・ドライフラワーなどが並ぶ。

「母親が働くことで、視野は外へと向きます。母親の視野が広がって気持ちも明るくなり、家庭内も子どもも明るくなるでしょう。一方で、近年では共働きはもはや当たり前となる中、経済面での負担は深刻さを増しています。例えば大学授業料は年々上昇する一方。起業によって、世帯収入アップにもつながるのではないでしょうか」。


古田さん以外にも、三重県女性起業家・企業家プラットフォームwiz:にはさまざまなジャンルのメンバーが集まる。三重県伊賀市出身で、現在は東京都在住のパーソナルスタイリストである西畑敦子さんもその一人だ。

A-Personal Styling・パーソナルスタイリスト:西畑敦子さん


西畑さん自身は、2020年11月にフリーランスへ転身したばかり。wiz:は三重県の女性起業家とつながれる貴重な場であり、多彩なジャンルの女性起業家とフラットに話せるのは楽しいと話す。


「新型コロナの感染拡大前、つまりフリーランスになる前は、お客様のショッピング同行や自宅へのワードローブチェックなど、リアル対応が基本でした。それが今ではオンラインでのアドバイスなど、サービスの提供スタイルも大きく変わっています。

今は少しずつリアル対応に戻りつつありますが、仕事終わりの夜間でも気軽にご相談、ご提案できるオンラインはこれからも使っていくでしょうし、地域にとらわれない対応ができるのは利点です」。

西畑さんは「女性の起業が地方経済の活性化につながるか?」の問いに対し、既存のルールを変える必要があると話す。

「女性の起業が新しい価値観として根付くには、例えばこれまでの『会社に勤めてお金を稼ぐ』ことを良しとするルールが成り立たなくなります。それが変わっていくには、女性の起業家が成功して活躍し、認められていくことはとても大事。

また『その活躍の定義とは何?』というのもルール変革のひとつです。それらを多くの人が納得したうえで認めてもらうには、既存の価値観に則った結果も出す必要があるでしょう」。

世界でも注目を集めるエコシステム。その先にあるのは…

政府の推進する「働き方改革」の影響もあり、多様な働き方を推奨する中で在宅ワークにも注目が集まるようになった。折しも近年の社会情勢に伴い、一般企業の在宅勤務者が増加。出勤せずとも自宅やサテライトオフィスなどで「仕事ができる」、さらには「企業勤め以外で働く方法は意外と簡単に見つかる」ことを知った人は多いのではないだろうか。


「女性の起業」という言葉そのものは社会に浸透しつつある一方、女性起業家が学び、成長できる場づくりはまだまだ発展途上だ。女性起業支援エコシステムの構築によって学びの場が一つの輪のように巡り、それぞれが多彩な成長を続けそのスピードも加速する。これらがさらなる経済の活性化にもつながるはずだ。

国内でも女性起業家支援のためのエコシステムづくりを目指し、各地で尽力する人がいる。地域のため、自らが学んで得た知恵を共有するため、その歩みを止めることはない。

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