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文章のみがき方(辰濃和男:著)②【ブックレビュー】

書き留めておきたい見出しが多く、長くなってしまったので、記事を二つに分けて紹介したい。

①はこちらから。


本書は、『朝日新聞』のコラム「天声人語」の元筆者である、辰濃和男氏による

文章のみがき方

出版社: 岩波新書
発売日: 2007/10/19(第一刷)

すでにブックレビューを書いた「文章の書き方」の姉妹編でもある。


①の記事では、目次にあるⅠ「基本的な事を、いくつか」、Ⅱ「さあ、書こう」の中からいくつかピックアップして紹介した。

本記事②では、目次にあるⅢ「推敲する」、Ⅳ「文章修業のために」からピックアップして紹介していく。



書き直す

いったん下書きしたものを、あれこれ手を入れて磨き上げて行くことは、非常に大事なことだ。私自身は、頭の中に分が出来上がるまで筆をとらないほうなので、頭の中での書き直しが多いのだが、それでもノートに粗原稿を書いて読み直し書き直しをすることも少なくない

板坂 元

「考える技術・書く技術」の著者である板坂氏は、文章の書き直しをする際に「視覚的なイメージ」を大切にするようにと説いている。

たとえば、「コートを着た女性」と、「鮮やかな赤いコートを着た女性」だと、印象に残るのは後者ではなかろうか。

書き直す際にも、文章や構成などをよくよく見直し、書き直しては磨きをかけてゆく。

筆者が、文章を推敲する際に注意している点について書いているが、その中でもこの2点については特に心しておきたいと思う。

「一読して、主題(あなたが伝えたいと思っていること)がはっきりと浮かび上がっているかどうか」
「引き込まれて読む、という面白さがあるかどうか」

また、「孫引きは危ない。原典にあたること」というのは、昨今のWeb社会にも通ずるところだ。肝に銘じたい。

削る

文章の中の、ここの箇所は切り捨てたらよいものか、それとも、このままのはうがよいものか、途方にくれた場合には、必ずその箇所を切り捨てなければいけない。いはんや、その箇所に何か書き加へるなど、もつてのほかといふべきであらう

太宰 治

気持ちが乗って、どんどん書き進める。

そのときはいい。
けれど、後になって読み返すと、かなり主観的・独善的だったり、同じ言葉の繰り返しが多かったり。

一度書いたものを削るのはつらい作業だけれど、削ることこそライターの仕事なのではないか、とすら、最近はそう思う。

彫刻のように、削るほど、研ぎ澄まされて、輝きを増す。

比喩の工夫をする

比喩には大きく3つのものがある。

直喩。
比喩の一つ。あるものを他のものに直接たとえる表現法。「雪のようなはだ」「動かざること山のごとし」など・

角川必携国語辞典

隠喩。
比喩の一つ。「…のようだ」「…のごとし」などの形を用いず、そのものの特徴を直接他のもので表現する方法。「花のかんばせ」「金は力なり」の類。

大辞泉

活喩(擬人法)。
修辞法の一つ。人でないものを人に見立てて表現する技法。「海は招く」の類。

広辞苑

比喩は上手く活用したい。生き生きとした文章になる。
けれど、なんでもかんでも使えばいいものではない。

文章の流れ、気分に沿ったものがいい。
誰かが使ったからと言って、そのまま真似してはいけない、と筆者。

自分の心からの言葉を紡ぎ出して。

流れを大切にする

文章のなかに一貫したリズムが流れることも、私にとってどうしても捨てられない要求であります

三島 由紀夫

流れのいい文章において大切なのは4つあると筆者。
①平明、そして明晰であること。
②こころよいリズムがあること。
③いきいきとしていること。
④主題がはっきりしていること。

風光明媚な山々に流れる、美しき川。
ゴロゴロと岩があっても、ときに激流となり、ときに緩やかな水面となり、雄大な河川へ流れゆく。
文章も、同じように、流れよく。

土地の言葉を大切にする

多分私は、このところ少々標準語にあきているのだろうと思う。というよりも、標準語を支えているステレオタイプの文化に食傷して、方言と、その背後にあっていまだ十分に活性を残しているはずの、個性的な文化に心惹かれるということかもしれない

藤沢 周平

たとえば標準語で「君を愛している」といったとしよう。もしそれが方言で「おめどご、好きだ」(東北弁)といったとしたら?
その言葉の力強さ、迫力さはまったく異なるのではないだろうか。

方言には、長い時間をかけてつくりだされてきた文化の蓄積があるという。

何となく懐かしく、心地よい言葉。
方言には、あたたかさがある。

「概念」を壊す

言語と云ふものは案外不自由なものでもあります。のみならず、思想に纏まりをつけると云ふ働きがある一面に、思想を一定の型に入れてしまふと云ふ欠点があります

谷崎 潤一郎

たとえば、赤い花がある。
その赤は、どんな赤?
みんながみんな、赤いと思うか?
もしかしたら、赤ではないのかもしれない。

「赤い」と書いてしまうことで、他の人が持つ感覚を奪ってしまうのかもしれない。
言葉がなければそれは伝えられないことになるだけだが、言葉あることで、思わぬ枠をつくってしまうのかもしれない。

言葉は便利であり、不自由でもある。

低い視線で書く

ものごとを上からばかり見ないで、ときには這いつくばって見る。かっこう悪くても視線を低くすると、別の世界が見えてくるんです

皆越ようせい

皆越ようせい氏とは、ミミズやダンゴムシ、トビムシなどの土壌動物を撮る写真家である。

地球の生態系の基本を支えているのは、落ち葉の下の土壌動物たち。
視線を変えることで、見えてくるものが変わる。
地面に顔を近づけて、汚いわけではない。
むしろ、汚いものを浄化してくれている存在が、そこにある。

「何でも見てやろう」
小田実氏の言葉を胸に、見たもの、聞いたものを言葉に綴ってみる。

自分と向き合う

私はこうして文章を書いていますが、去年書いた文章はすべて不満であり、いま書いている文章も、また来年見れば不満でありましょう

三島 由紀夫

いつしか書いた文章。
読み返してみると、恥ずかしくてたまらない。

そのときはそれでよかったのだろうけれど、
今の自分にとっては不満足。

でも、大切なのはいま。
これから書く文章。

自分と向き合い、伝えたい思いが伝わるように書く。

渾身の力で取り組む

文章はいつも、水をかぶって、坐りなおしてはじめる覚悟でいたい

串田 孫一

いくつになっても、素晴らしい文章を書き続ける作家はいる。

もっともっと向上したい。いくつになってもそんな思いを持ち続けることには、プロもアマも、関係ない。

最後に、この詩を紹介したい。

あまりに不出来なこの絵を/はずかしいと思えばとても上げられない/けれど貴方は欲しい、と言われる/下手だからいやですと/言い張ってみたものの/そんな依怙地さを通してきたのが/今までの私であったように/ふと、思われ/それでさしあげる気になりました
・・・・・
不出来な私の過去のように/下手ですが精一ぱい/心をこめて描きました

「不出来な絵」石垣 りん

私は今日も、

下手ですが精いっぱい、心をこめて文章を書きました。


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