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<妄想>探偵討議(Detective Debate)とは<注意>

「探偵討議(Detective Debate)」という耳慣れぬ言葉に戸惑っている諸兄のために(随分前の話ではあるけれども)WJDDA(関西学生探偵討議連盟)大会2連覇の経験がある僕、WEMが僭越ながらその競技概略をここに記載しておく。

探偵討議の始まりは、モーリス・ルブランによる「遅かりしシャーロック・ホームズ」であったと言うのが定説だ。この作品で、ルブランはすでに名声を不動のものとしていたコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」をアルセーヌ・ルパンの敵役として登場させた。自分の生んだキャラクターの流用に対して(当たり前のことだが)、ドイル側から芳しい反応が得られなかったため、後にルブランはこの探偵役の人物を「Herlock Sholmès:エルロック・ショルメ」と改名した。賢明なる読者諸兄は先刻お見通しの通り、これは「Sherlock Holmes」のアナグラムであり、その人物像はほぼ、本家シャーロック・ホームズに準拠したものであった。

余談ではあるが、このような形でホームズをパロディー化した人物を探偵役とすることは、洋の東西を問わず行われ、枚挙にいとまがない。例えば、「セサミ・ストリート」には、「Sherlock Hemlock」というマペットの探偵が登場するし、本邦にも小栗虫太郎「黒死館殺人事件(推理小説の三大奇書に数えられる)」の有名な探偵役「法水麟太郎(ノリミズ・リンタロウ)」がいる。彼の苗字である「法水」は、なんのことはない、シャーロック・法水(ホウミズ)という洒落である(という説がある)。さらに、徳川夢声「オベタイ・ブルブル事件」の探偵役、「六車家々」は、「シャーロック→ひっくり返して六車」、「家々→ホームズ」というかなり無理矢理感が漂うネーミングとなっている等々、、。

一方、コナン・ドイルは「ルパン対ホームズ」をはじめとする一連のルブラン作品において、ホームズを模した「ショルメ」が芳しい戦績をあげていないことに強い不満を感じた。探偵小説を牽引してきた、という矜持は、ついに彼をしてルブランに書簡を送り、「ホームズとルパンどちらが優れているかを決めようではないか」と提案せしめるに至る。ちなみに、ドイルと比較してまだ名声を得るに至っていなかったルブランは、この提案に欣喜雀躍したようである。この時の心情は後の「コナン・ドイルへの弔辞」において、感謝と旧懐の念を持って綴られている。

このような経緯で、フランスーイギリス間の往復書簡により、「ドイルの謎をルブランが解く」、「ルブランの謎をドイルが解く」といった壮大な最初の探偵討議は行われた。この勝負は、ほぼ引き分けに終わったらしい。事前に多くの準備ができる「謎の提示側」が圧倒的に有利で、お互いに相手から出された謎を解くことができなかったようだ。これはそのまま後の「探偵討議」の競技上の弱点となった。

後にイギリスで誕生した競技としての「探偵討議」は、もっぱらこの弱点を回避する方向でルールを修正、アメリカにおける競技ディベート文化の発展と歩を同じくして欧米を中心に広まっていった。

かくして現代の「探偵討議」には「ジャッジ」が設けられた。ジャッジには事前に「謎」の全貌と、その解決編が伝えられる。また、「探偵側」には事前のリサーチが可能なように「謎の概略」を伝えなければならない。

ジャッジは以下のような評価項目で「謎の提示側」、「探偵側」を各々採点し、その合計点で勝敗を決める、と言うのが現在主流のスタイルである。

謎の提示側の評価項目
フェアネス: 謎が解けるだけの十分な情報を提示したか。
ロジック: 謎の解決編は、十分に論理的か。
エレガンス: 提示した「謎」はどれだけ興味深い(美しい)か。
探偵側の評価項目
プリサイスネス: 提示側が出した「謎」をどれだけ正確に解いたか。
ロジック: 謎を解くまでの過程は十分論理的か。
インプレッション: 探偵らしく、かっこよく謎を解いたか。

通常は「提示側」、「探偵側」ともに四人一組でチームを組み、

謎の第一提示(5分)
Q&A(5分)
謎の第二提示(5分)
Q&A(5分)
探偵側による謎の解明(5分)
提示側によるまとめ(5分)
ジャッジによる採点と講評(概ね10分)

と、1時間弱の競技時間となる。意外と短い、と思われるかもしれないが、一時間に渡りフルに頭脳を回転すると競技者は疲労困憊となる。探偵討議が「頭脳のスポーツ」と評されるのも頷ける。

まだまだ日本においての競技人口は少なく、ディベートと比較してもメジャーとは言い難いが、WJDDAには現在18の大学の部、もしくは愛好会が登録されており、大学間で連日活発な討議が行われている。

拙作「探偵討議部へようこそ」においては、この競技の魅力を伝えるべく、やや誇張がなされていることは否めないが、実際にも読者諸兄の預かり知らぬところで今日も名もなき探偵討議者がまだ見ぬ謎に挑んでいるのだ。

読者諸兄に於かれましても、是非、この機会に聞き慣れぬ競技、「探偵討議」に興味を持っていただきたく筆をとった次第である。

ちなみに、大変残念なことに挿絵の右がどう見ても夏目漱石になってしまったが、これはドイル。左がルブランである。



(本解説は所々真実が混じっているというタチの悪い種類のフィクションであり、実在の団体、人物とはほぼ関係がありません。すみません、、。WEM)





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