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押さえておきたい健康経営ワード15選|これで語れる健康経営(3)

6月は、企業における重要な経営戦略となっている「健康経営®」をおさらいしています。第3回は少し視点を変えて、健康経営を学ぶときによく聞くキーワードをおさらいしていきましょう。

あ~か行

アブセンティーズム(absenteeism)

従業員の健康を労働生産性の損失として算出する指標のひとつで、心身の体調不良による欠勤や休職の状態を示す。WHO(世界保健機関)により提唱された。直接的な健康関連コストといえる。
対になる間接的な健康関連コストは「プレゼンティーズム」の項を参照。

アブセンティーズムを測定する代表的な方法は (1)従業員へのアンケート調査 (2)欠勤・休職日数 (3)疾病休業者数・日数。正確に計測できるのは(1)のアンケートだが、難しい場合は人事データの(2)(3)を利用する。
アブセンティーズムの測定結果から企業の労働生産性損失額を算出することにより、生産性の観点から健康投資の効果を金銭的コストで評価することが可能となる。

参考)経済産業省 健康投資管理会計ガイドライン

ESG

投資活動または投資活動を意識した経営・事業活動。
次の要素を重視する。
E:Environment 環境
S:Social 社会
G:Governance ガバナンス(企業統治)

ESGは、投資活動から始まった概念であり、1990~2000年代に広がった潮流である 企業の社会的責任(CSR)、社会的責任投資(SRI)、責任投資(RI)とも関連する。
日本においては、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(PRI)に署名したのを機にESG投資の広がりが本格化した。(PRIは投資にESGの観点を組み入れることを原則としている)
ESGは投資活動を起点とするが、現在では企業経営で配慮すべき観点としていわゆるESG経営など、投資に限定されることなく用いられる。

ESGは企業経営の事業継続性(サステナビリティ)に関係する。このためSDGsとともに注目されている。特に、大規模資産を超長期で運用する機関投資家を中心に評価が進んでいる。SDGsが持続可能な社会に向けた目標であるのに対し、ESGはその目標を達成するための手段であるともいえる。
SDGsについては本記事の該当項目を参照。

参考)ESG投資の「S」が深化する~健康経営は企業戦略の重大な柱に

伊藤レポート

経済産業省が推進したプロジェクトで、2014年8月に公開された最終報告書の別名。企業の「稼ぐ力」を高め、起業価値の持続的向上を促す観点から、企業と投資家による質の高い対話を目指すよう提言する。

2014年の伊藤レポート1.0は「自己資本利益率(ROE)8%」という具体的な達成目標を掲げ、ガバナンス(企業統治)に大きな影響を与えた。
2017年の伊藤レポート2.0で論点整理が進み、経営戦略や非財務情報などの開示・評価の際の「価値協創ガイダンス」が公開された。

伊藤レポートの視座は企業の人的資本にも広がる。
2020年に人材版伊藤レポートがまとめられ、持続可能な企業価値の向上には働く人(人的資本)が不可欠であることが明示された。
2022年5月に公開された人材版伊藤レポート2.0では、先進的な取組を行う企業事例など経営戦略・人材戦略が実践的に紹介されている。

参考)知って得する「人材版伊藤レポート2.0」人材戦略×健康管理の新常識

Well-being

WHO(世界保健機関)により提唱された健康の概念。人間の豊かさを、心身の健康と社会的な存在意義の両面から捉えている。
1947年に採択されたWHO憲章で「健康とは身体的、精神的、社会的にすべてが満たされた状態であること」とうたわれている。この憲章は現在に至るまで75年間、文言を変えることなく掲げられ、普遍の概念とされる。
人としての価値を、心、体、社会的なつながりの3つの要素が満たされることに置くWell-beingは、人としての価値を存在そのものにおく。

近年のWell-beingへの関心の高まりから新しい指標も生み出されつつある。
2021年には「日本版Well-being Initiative」が発足した。その中で、新しい社会の豊かさの指標としてGDW(国民総充実:Gross Domestic Well-being)を提案している。経済成長を測定する客観的指標であるGDP(国民総生産)に対し、GDWは質的向上や実感できる精神的豊かさを示す主観的指標となる。幸福度や生活満足度の指標でとらえきれない文化的な差異についても考慮し、多面的な指標を目指している。

 参考)
健康の本質"Well-being"を自然体で実現したスティーブ・ジョブズに学ぶ
これからの健康管理とWell-being【なぜビジネスに幸福が必要なのか】

SDGs

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)。
2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」に記載されている国際目標である。

SDGsは「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を合言葉にする。
発展途上国だけでなく、先進国も自ら取り組むべき普遍的(ユニバーサル)な目標である。

SDGsの目標は、17のゴール・169のターゲットで構成される。地球上のあらゆる領域について、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すために取り組むべき方向が示されている。SDGSを目標にさまざまな具体的な取組が展開していく。

持続可能性(サスティナビリティ)については本記事の該当項目を参照。

健康経営度調査

企業の健康経営を測定する調査。経済産業省が以下の目的で実施する。
・企業の健康経営の取組状況・経年変化の分析
・健康経営銘柄の選定、健康経営優良法人(大規模法人部門)の認定のための情報収集

健康経営度調査は毎年実施される。調査に用いられる健康経営度調査票は、社会の状況に応じて毎年変更されており、調査票をチェックすると健康経営に求められている要素が把握できる。健康経営に対し、何から取り組んでよいか不明な場合の指標にもなる。
健康経営度調査に回答するとフィードバックシートが返送される。自社の健康経営を社会的な位置付けや取組みの度合いとして客観的にふりかえる機会に活用できる。

参考)健康経営の指標「健康経営度調査票」を健康管理の味方につけよう

健康保険法

労働者とその扶養者が病気や怪我などに見舞われたときの保険給付について定めた法律。大正11年に制定された。日本の公的医療保険制度の基盤となる基本的法律で、社会保障法のひとつである。

健康保険には、大きく分けて政府管掌保険(中小企業対象)と健康保険組合管掌保険(700人/2以上が共同する場合は3000人以上の事務所)がある。
常時5人以上の従業員を使用する事業所は、法律上加入が義務付けられる。

被保険者と扶養家族に対し、療養、疾病、死亡、出産などで保険給付金が支給される。財源は国庫負担金と保険料。保険料率は、政府管掌保険については法により定率が定められ、組合管掌健康保険については厚生労働大臣の認可を受けて組合が決定する。

コラボヘルス

保険者(健康保険組合など)と事業主(企業)が連携し、加入者(従業員とその家族)の健康づくりを効果的・効率的に実行すること。保険者による保険者機能の発揮と事業主による健康経営の推進の同時実現を目指す。

コラボヘルスの実行には、保険者と事業主の役割分担を明確にし、保険事業の強化と職場環境の整備を進め、従業員が自ら疾病予防や健康増進のために活動する「三者の協力」が不可欠。この鍵となるのがデータの活用である。

2017年に閣議設定された「未来投資戦略2017」に「保険者のデータヘルスを強化し、企業の健康経営との連携(コラボヘルス)を推進する」と明示されている。活用されるデータは、個人の健康診断の結果、レセプト、健康度調査、人事労務関連など多様であり、一元化・統合管理するDXの導入が欠かせない。
データヘルスの詳細は、本記事の該当項目を参照。

参考)従業員の健康行動を後押しする3つの力「コラボヘルス」のしくみを押さえよう

さ~ら行

サスティナビリティ/サスティナブル

持続可能性(sustainability)。サスティナブル(sustainable)は「持続可能な」という形容表現。SDGs(持続可能な開発目標)などで近年特に注目される概念となっている。SDGsの詳細は本記事の該当項目を参照。

人々の活動は、自らも周囲の環境も持続可能な状態で展開すべきという概念で、関連するものに以下のワードがある。
エコロジー:ecology(生態学⇒生態系を維持する概念・行動・活動)
エコシステム:ecosystem(生態系⇒相互に依存しあった環境・構成)
3R:Reduce、Reuse、Recycle(省資源、再使用、再生利用)
LOHAS:Lifestyles of Health and Sustainability(健康と持続可能性を考えた生活スタイル)

J&Jの健康投資

医薬品・医療機器などのヘルスケア関連企業 ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が表明する健康経営の投資の考え方。
1943に三代目社長によって起草された「我が信条(Our Credo)」にまとめられており、顧客、社員、地域社会、株主のステークホルダー四者に対する企業の社会的責任が明示されている。

この中で、全世界のグループ会社の従業員とその家族の健康や幸福をだいじにすることが表明されており、独自の予防・健康増進プログラムを提供する。この健康投資に対するリターンを試算すると、投資1ドルに対し、3ドルの投資リターンがあったとされている。

参考)ジョンソン・エンド・ジョンソン「我が信条(Our Credo)」にまつわるエピソード

D&I

ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity and Inclusion)
多様性を認め、受け入れて活用する概念。ダイバーシティは多様性、インクルージョンは包括と訳されることが多いが、D&Iは個別に事象をとらえるものではなく、多様な状態を受け入れて相互作用により新たな価値創造につなげる流れを一連とする概念である。

経済産業省では、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義する。
多様性確保には、国籍、性別や性的指向、年齢、学歴や所属、宗教や信条といった顕在化しやすいものが取り上げられやすいが、ここでいう多様性は、経験や特性、働き方といった潜在的なものも含んでいる。
一人ひとりが満たされた働き方のできる環境を整えることにより、特性を活かした価値創造が起き、競争力強化につながる経営を目指す。

参考)経済産業省 ダイバーシティ経営の推進について

TCFD

気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
2015年にG20からの要請を受け、金融安定理事会(FSB)により設置された特別チーム。2017年に財務に影響のある気候関連情報の開示を推奨する報告書を公表した。

ESG投資の観点から、企業が気候変動の情報を経営戦略に織り込むことは重要視されている(ESGについては本記事の該当項目を参照)。
TCFDの報告書では、戦略の開示にあたり、シナリオ分析を行うよう求めている。環境省ではシナリオ分析実践ガイドを作成し、TCFDの報告書に沿った取組みを支援する事業を行っている。

環境省 TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド~

データヘルス

医療保険者が医療情報・特定健診情報などのデータ分析を行い、加入者の健康状態に即した効果的・効率的な保健事業を展開すること。この展開のために確定する計画を「データヘルス計画」という。

データヘルスは、厚生労働省では「加入者の健康データを活用し、データ分析に基づき、個人の状況に応じた保健指導や効果的な予防・健康づくりを行うもの」とされる。
これまで蓄積された健診データやレセプトなどの電子データを高度な分析を施した上で、一人ひとりの状況に応じた保健事業へと展開する。

参考)
厚生労働省「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」
よく分かるデータヘルス【1】取り組みと計画の概要

プレゼンティーズム(Presenteeism)

従業員の健康を労働生産性の損失として算出する指標のひとつで、心身の体調不良による生産性が低下したパフォーマンス状態を示す。WHO(世界保健機関)により提唱された。間接的な健康関連コストといえる。
対になる直接的な健康関連コストは「アブセンティーズム」の項を参照。

プレゼンティーズムを測定する代表的な方法には (1)WHO-HPQ、(2)東大1項目版、(3)WLQ、(4)WFun、(5)QQmethod がある。
従業員のパフォーマンスは日々変化するため、月次のように短い頻度で測定するパルスサーベイの導入が望まれる。きめ細かな測定により、従業員自身によるセルフケアにも活用できる。
プレゼンティーズムの測定結果から企業の労働生産性損失額を算出することにより、生産性の観点から健康投資の効果を金銭的コストで評価することが可能となる。

参考)経済産業省 健康投資管理会計ガイドライン

労働安全衛生法

職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成する目的で定められた法律。昭和47年に制定された。
労働衛生は、従業員の安全と健康を維持するために企業が働く環境を整備することをいう。産業衛生・工場衛生と呼ばれることもある。
労働衛生は労働衛生法により規定され、さまざまな事項が義務化されている。

労働衛生管理の基本は以下の3管理が柱となる。
・作業環境管理:有害要員を排し、適切な作業環境を整備
・作業管理:従業員の健康・安全が守られる作業方法、勤務姿勢を整備
・健康管理:従業員の定期的な健康診断や保健指導、メンタルヘルスケア
上記に加え、総括管理・労働衛生教育を加えて5管理とする場合もある。

参考)厚生労働省 職場における心とからだの健康づくりのための手引き


※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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「これで語れる健康管理」シリーズ 目次
 (1) 健康経営とは
 (2) 健康経営を歴史から学ぶ     
 (3) 押さえておきたい健康経営ワード15選 ←本日の記事
 (4) 健康経営事例集
 
 
 
 
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