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健康の本質"Well-being"を自然体で実現したスティーブ・ジョブズに学ぶ

健康とは「身体的、精神的、社会的にすべてが満たされた状態であること」と、70年以上も前にWHO憲章の前文で定義されています。
この定義について、「身体」「精神」「社会」の3つの要素だけでなく、次の2つの点にも着目しておきましょう。

ひとつは、健康の状態を「欠けていない」と表さず、「満たされた状態」であると表した点です。
健康の定義が「満たされた」というポジティブな未来志向型の視点で記されたことにより、現状からのマイナス点を羅列しがちな課題解決型の思考から自由になり、可能性が広がりました。

そしてもうひとつは、この憲章が第二次世界大戦終了から間もない1947年に採択されてより、文言を変更されることなく掲げられ続けている点です。
健康の定義や意義は時代が変わっても人類にとって普遍であることを示しているともいえますが、一方で、いまもなおその「満たされた状態」に到達し得ていないことの証であるともいえるでしょう。

健康であることは、時代を問わず、生きる上で最も大切な人としてのあり方を示しているといえます。、そして人とのつながりという3つの要素がすべて満たされていること、この状態がほんとうの健やかさであり、目指すべき生き方なのです。

このような満たされた人としてのあり方は、「Well-being」という言葉で表されることがあります。語意でみると、存在そのものの価値が高まっている状態です。
人の価値は、これまでは成果を出して他者からの評価を受ける「機能価値」が軸でした。それが今は、本人が他者とのつながりの中で心身ともに満たされていると感じる「存在価値」へと、価値観そのものが大きく変わってきているといえるでしょう。

では、この Well-being は、どのようにして実現していけばよいのでしょうか。そのヒントが、アップルの創業者スティーブ・ジョブズのエピソードに隠されています。

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京都を愛したスティーブ・ジョブズ

ITの分野で世界を牽引したスティーブ・ジョブズは、若いころから禅の思想に傾倒し、日本の文化に深い関心をもっていたことで知られています。
家族を連れて何度も京都を訪れ、馴染みのハイヤー運転手に案内を頼んで、龍安寺の石庭などの寺院や、和食、和菓子などを愛でていたそうです。

亡くなる前年、最後となった京都旅行では、たまたま通りかかった南禅寺界隈の街道で野村別邸碧雲荘の佇まいに心を動かされ、急きょ訪れる機会をもつことができたそうです(碧雲荘は現在公開の予定なし)。

そのときは、曹洞宗大本山の永平寺にも行きたいと運転手に話していたのですが、福井県はさすがに距離があり、体に負担がかかるため果たせなかったとのこと。ジョブズの飽くなき行動力--行きたいところ、やりたいことへの前向きさが感じられます。

そして、旅行の最終日、ジョブズは大好きな寿司を堪能します。特に、青森県大間のマグロを口にしたあとは、そのトロだけを握ってもらい、とても上機嫌で、めったに応じないサインまで書き残したのでした。

最高の状態を、全力で楽しむ

ジョブズがサインした色紙には、こう書かれていました。

All good things.

直訳すれば「すべて良し」にも見えますが、英語のことわざにある
 “All good things must come to an end.”(どんな良いことでも終わりを迎える)の一部とも読み取れます。

実はこのとき、ジョブズはすでに体調が優れず、京都旅行がこれで最後になるかもしれないと、自ら感じていたのでした。
それでもジョブズは、全身で、全力で、今ここにいる自分が見ているものや口にしたものを味わい、幸せと感じることを続けます。

その言葉どおり、これが最後の京都旅行となってしまったが、店から出たジョブズは大島さん(注:ハイヤーの馴染みの運転手)の車に乗り込むと、「人生で初めてこんなおいしい寿司を食べた!」と絶叫した。
車を走らせ始めた大島さんが、「3時間も何を食べていたの?」とたずねると、ジョブズは「トロを6つ」と答えた。
大島さんが「それだけ?」と聞くと、ジョブズは「そう」。
(出典:NHK WEB特集「スティーブ・ジョブズ in 京都」*1)


ジョブズは「今」を大事にしました。ビジネスでは、予告なく方針を変えることも多く、最高の仕事と納得するまで妥協しない厳しさをもっていたことでも有名です。
ジョブズの思いは、スタンフォード大学の卒業式のスピーチで「心からの満足を得るための唯一の方法は、自分で最高の仕事だと信じることをすることだ。そして、最高の仕事をするための唯一の方法は、自分のすることを愛することだ」と説き、繰り返し「Don't settle.(立ち止まるな)」と語りかけた言葉からも読み取ることができます。

Your work is going to fill a large part of your life, and the only way to be truly satisfied is to do what you believe is great work. And the only way to do great work is to love what you do. If you haven't found it yet, keep looking. Don't settle. As with all matters of the heart, you'll know when you find it. And, like any great relationship, it just gets better and better as the years roll on. So keep looking until you find it. Don't settle.
(出典:Stanford Report, June 14, 2005 'You've got to find what you love,' Jobs says*2)

自分を信じ、最高だと感じるまで進もう。有限のこの身、たとえ病など体が思うようにいかなくても、心が今を最高と感じるように。ジョブズは、その思いのままに生きることで、Well-beingを自然な形で体現していたともいえるでしょう。

もう彼に直接伺うことはかないませんが、ステージの進んだガンの闘病だったのですから、おそらく体の痛みや苦しみ、残された時間の短かさに悩んだことも多かったはずです。それでも彼は、「今ここにあること」に対して、最後まで妥協しませんでした。立ち止まらず、最高の時間をつくり、そして心から楽しんでいたのです。

今ここにある「存在価値」を高める Well-being

彼を支えていたのは、今の状態をありのままに受け止め、自分を信じようとする「自己受容」と、自分の信じる最高の状態は自分で決めるのだという「自己決定」でした。

そして、ジョブズは、周囲の人たちとその気持ちを分かち合いました。
最高を追い求めるひたむきさや自己決定の強さに、ときには混乱も招いたかもしれません。でも、今このときを全力で生き、信じて動くその姿に影響され、共感と絆が広がっていったことで、あれだけの大きな事業をなしとげたといえましょう。

自己受容、自己決定、共感と絆の分かち合い。
これはまさに、心身ともに健やかで、社会的つながりをもち満たされた状態である Well-being のありかたそのものです。

ジョブズが色紙に書き遺したように、最高の状態はいつまでも続くものではありません。年をとれば体調も下降気味ですし、思うように成果も出せなくなるでしょう。人は、機能価値では幸せになれないのです。

毎日の小さな気付きの中で、今ここにある自分を受け止め、最高の状態だと自分が信じるものを目指す。全力で向き合い、楽しむ。周囲とつながって、感動を共有する。
存在価値を高める Well-being の生き方により、人は本質的に満たされた状態になっていくのです。

ジョブズが学生に語りかけたように、わたしたちが生きるなかで働くという行為は、時間的にも意味的にも大きな位置を占めています。
わたしたちは、最高の状態に満たされて今を生きているでしょうか。
自分を受け止め、仕事と全力で向き合い、楽しみ、周囲と分かち合っているでしょうか。

人の時間は有限です。
Well-being な状態で働き、最高の時間を共有することができるよう、生きることの本質を掲げた健康管理、健康経営をめざしていきましょう。


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参考記事
*1)NHK WEB特集「スティーブ・ジョブスin京都」7/28 URL
*2)スタンフォード大学スピーチ URL
*3)   WellGoが考えるウェルビーイング経営 URL

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