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よく分かるデータヘルス【1】取り組みと計画の概要

厚生労働省と経済産業省が共に推進する「データヘルス」。先日厚労省主催で全国イベントの「データヘルス・予防サービス見本市」が開催されるなど、その取組みには大きな注目が集まっています。

データヘルスの言葉としての意味をそのままみると、「健康・医療に関する電子情報の活用」です。
適切なデータ活用に伴って効果的な健康づくりが行われることを疑う人はいないでしょう。ここで重要なのは、具体的にデータが何を指し、誰に対してどのような活用が求められているのかを把握しておくことです。

まずは、データヘルスが何の目的で実施され、データヘルス事業によってどのような状態を目指しているのかをみていきましょう。

データヘルスとは

データヘルスの定義は、厚生労働省の説明から読み解くことができます。

データヘルスとは、加入者の健康データを活用しデータ分析に基づき個人の状況に応じた保健指導や効果的な予防・健康づくりを行うものです。

(厚生労働省「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」
はじめに より。太字は筆者)


これまで、効果的・効率的な保険事業のための重要な施策として、保険者による健康情報の蓄積・活用が位置づけられ、健診データやレセプトの電子的標準化が実現し、保険者にデータが蓄積されてきました。

データヘルスは、これらの状況を踏まえ、高度な分析を施した上で個別の状況に応じた保健事業を効果的・効率的に行おうというものです。

具体的な施策については次回詳しくみていきますが、大きくは次のような事業を行い、データ活用による健康づくりを推進するとしています。

  • 健保組合等によるデータヘルス計画の作成、運用

  • データヘルス・ポータルサイトの運用

  • コラボヘルス(健康経営)の推進

  • 個人の予防・健康づくりを支援する取組み

  • データヘルス・予防サービス見本市の開催


データヘルスが必要とされている背景

データヘルスは、国の成長戦略にも組み込まれる重点項目になっています。その社会的な背景を簡単に整理しておきましょう。

社会環境が変化した
背景のひとつは「少子高齢化」です。総人口に対する65歳以上の割合は年々増加し、1950年に4.9%だった高齢者人口の割合は、2021年には29.1%。2040年には35.3%の見込み。3人に1人は高齢者です。総務省統計局によると日本の高齢者人口の割合は世界最高で、どの国も経験したことのない超高齢社会に突入しています。

また、少子化が進むと企業を支える働き手が少なくなります。人員確保のため、定年の延長や廃止、再雇用など、高年齢者が就労する機会も増加します。働く人の年齢が高くなれば職場の中での健康リスクも上昇します。高度成長期と比べると、労働者の平均年齢は約7歳も上昇しました。健康リスクが増えるにつれて労働生産性は落ちていきます。

今や企業にとっては、従業員が健康で長生きすることそのものが重要な経営課題となっているのです。

政府の成長戦略・骨太方針でも位置づけられた
健康で長生きするための施策は、政治の面でも重点項目になっています。
2013年6月には「日本再興戦略」が閣議決定し、その中で国民の健康寿命の延伸が重要な柱として位置づけられました。

また、2016年6月には、「骨太方針2016(経済財政運営と改革の基本方針2016)」により、データヘルスの強化がうたわれ、データヘルスと健康経営の推進は、次の観点から社会に寄与するものとして強力な推進策を講ずることとされました。
・医療費の適正化
・国民の生活の質(QOL;Quality of Life)の向上
・健康長寿分野での潜在ニーズの掘り起こし
・企業における生産性の向上、健康投資の取組み

さらに、翌2017年には、データヘルス改革推進本部を設置。ビッグデータのプラットフォーム構築に向けた取組みに着手し、ICTによるデータ基盤の構築や民間外部事業者の活用促進保険者機能を強化し、実効性の高いデータヘルス事業の推進を図る環境を整備しました。

同年6月の「骨太方針2017」および「未来投資戦略2017」では、次の点が掲げられ、先進的な取組みの横展開が期待されています。
・データヘルス等の活用による企業の質の高い健康経営の促進
・自治体・企業・保険者による先進的な取組みの全国展開
・保険者と企業の健康経営との連携(コラボヘルス)の推進

レセプト・検診データの電子化が進んだ
データ処理の側面からの要因も挙げられるでしょう。
2008年の特定健診制度の導入やレセプトの電子化が行われ、健康・医療の情報は電子データによる管理が進みました。

電子情報になったことにより、単純な統計的集約の効率化が進んだだけでなく、健康・医療・介護の領域を統合したビッグデータ解析、AI分析など、電子データを活用した高度な分析が可能となりました。

また、自動化されたデータ管理により、個人情報管理に配慮したデータ活用もしやすくなり、一人ひとりの健康状態や生活状況にあわせた効果的な保健指導や予防措置、健康づくりの支援が可能になっています。


データヘルス計画の狙い

前述のような社会的背景を踏まえ、データヘルス事業を効果的・効率的に進めるため、データヘルス計画の作成と運用が保険者に定められています。

データヘルス計画は、検診データ・レセプトデータを活用し、PDCAサイクルに沿って保健事業を推進するための保健事業の実施計画です。

保健事業はただ進めれば良いものではなく、データを適切に分析し、効果的・効率的なアプローチで事業の実行性を高める必要があるのです。データヘルス計画の作成と運用はそれを狙いとしています。

データヘルス計画は、次のような流れで作成し、PDCAサイクルで運用していきます。

厚生労働省「データヘルス計画作成の手引き」P37より


【P(計画)】
現状把握に基づき、加入者の健康課題を明確にした上で事業を設計

【D(実施)】
費用対効果の観点も考慮しつつ、次のような取組みを実施
・加入者に自らの生活習慣等の問題点を発見し、その改善を促す
・生活習慣病のリスクを改善する
・生活習慣病の進行及び合併症を抑える
・その他、健診・レセプトデータを活用した取組み

【C(評価)】
客観的な指標を用いた保健事業の評価
・計画作成時に設定した評価指標で目標達成の成否を確認
・達成の成否の背景(成功要因・阻害要因)を探る

【A(改善)】
評価結果に基づく事業の構成、目標・評価指標、対象・方法等の見直し

ここでひとつ注意したい点があります。
「データ」という言葉に誘導され、データの増減に着目したデータ至上主義に陥らないようにしましょう。
データはあくまで取組みの検証のため、事業のPDCAサイクルに沿った推進のために用いるべきなのです。

データヘルス事業の構造

データヘルス計画は、データの活用を通じて健康や生活習慣の改善の必要性をいかに意識付けられるかがポイントです。

事業主と健保組合が健康課題を共有し、個人が健康行動を実践しやすくするよう、また保健事業が職場に浸透しやすいしくみをつくりましょう。
意識付けと職場環境の整備を図る「保健事業の基盤」を強化しつつ、事業特有の課題に対応した「個別の事業」を導入する2つの方向から効果的・効率的に展開するデータヘルス事業の構造がポイントとなります。

厚生労働省「データヘルス計画作成の手引き」P27


データヘルス計画成功のポイントは協働

データヘルス計画の成功には、保険者と事業主、健診機関、自治体など関係する各機関がそれぞれの役割のもと、協働して取り組みの実効性を高めていく必要があります。

特に重要なのが、事業主と健康保険組合の「コラボヘルス」です。
コラボヘルスは、それぞれの立場・役割を踏まえ、強みや特性を活かして協働を推進することを指します。
コラボヘルスは、少子高齢化などを背景に従業員の健康を重要な経営課題とする「健康経営」を進める上でも重要な要素となっています。

厚生労働省「データヘルス計画作成の手引き」P34より


【参考】データヘルス計画の取組みの方向性

データヘルス計画は、2013年に閣議決定した「日本再興戦略」で、すべての健康保険組合に対し、作成・公表、事業実施、評価等の取組みを行うことが定められました。

2013年度は実施指針の改定とデータヘルス事例集の作成、翌2014年度は52のモデル健保組合で実証事業が行われました。2015年度からすべての健保組合でデータヘルス計画が作成、実施されています。

データヘルス計画の運用スケジュールは、2015~2017年度の3年間が第1期、2018~2023年の6年間が第2期と位置づけられています。第2期の6年間は3年の区切りで前後にわかれ、2021年度は後半の第1年目です。

第1期と第2期では、次の点が大きく変わりました。
・身の丈に応じた事業範囲 ⇒ 確実な実行・挑戦
・3か年計画 ⇒ 6か年計画(3か年で前後期に区分)
・表形式で作成・提出 ⇒ データヘルス・ポータルサイトの活用

第2期データヘルス計画の特徴としては、次の点が挙げられます。

課題に応じた目標設定と評価結果の「見える化」
第1期計画は評価指標が数値で設定されておらず、達成の成否を判断できなかったり課題解決につながらなかったりしました。そこで第2期は次の点を明確にして事業を進めることになっています。
・健康課題と保健事業と紐付け
・目標達成するための評価指標
 (定量的なアウトプット指標、アウトカム指標)
・評価や見直し時のデータヘルス・ポータルサイトの活用

目標と指標の明確化により、評価結果が「見える化」され、課題に対してどのような事業が効果的か、つまずきやすい点はどこかなどの共有ができ、効果的な見直しを行うことができます。

情報共有型から課題解決型のコラボヘルスへの転換
第1期計画では、健保組合と企業との関係は、課題の共有などを通じた関係性の構築を図る程度でした。

第2期計画では、従業員の働き方や生産性の向上など、健康経営の側面も強化したコラボヘルス体制の構築を目指すよう促しています。

データヘルス事業の横展開
健保組合の母体企業は多種多様で、健康課題もさまざまです。医療専門職を配置する健保組合は3分の1程度と、中小規模の健保組合はマンパワーも限定されます。

第2期計画では、これまで推進した外部専門事業者の活用に加え、健康課題に応じた効果的な保健事業のパターン化を行い、実効性を高めます。
目標設定と評価見直しの項目で挙げた、健康課題の紐付けや目標・評価指標の標準化、評価結果の見える化などは、業種や業態によりパターン化できる可能性があり、効率化を図ることができます。

第2期データヘルス計画後半の方向性
2021年度から第2期データヘルス計画の後半に入りました。
これからのデータヘルスは、これまで進めてきたデータヘルス改革の基盤構築とこれまでに提供を目指してきた8つのサービスにおける取組みをさらに推し進め、健康・医療・介護の分野で健康寿命延伸を図るとしています。

<8つのサービス>

データヘルス分析
 ・NDB、介護DB等の連結解析
 ・幅広い主体による公益目的での分析
PHR・健康スコアリング
 ・自社の従業員等の健康状態や医療費等の見える化
 ・企業・保険者の予防・健康づくりへの活用
保健医療記録共有
 ・全国的な保健医療共有サービスの運用
 ・複数の医療機関等の間での患者情報等の共有
救急時医療情報共有
 ・医療的ケア児等の救急時の医療情報共有
 ・搬送先医療機関で適切な医療が受けられる体制の整備
科学的介護データ提供
 ・科学的裏付けのある介護の実現のためのデータベース構築
AI
 ・重点6領域を中心としたAI開発基盤の整備
 ・AIの社会実装に向けた取組み
がんゲノム
 ・がんゲノム医療提供体制の整備
 ・パネル検査に基づく適切な治療等の提供
 ・がんゲノム情報の集約
乳幼児期・学童期の健康情報
 ・乳幼児健診等の電子化情報の市町村間引き継ぎ
 ・マイナポータルによる本人への提供

厚生労働省第4回データヘルス改革推進本部「健康寿命延伸に向けたデータヘルス改革」

2021年度以降に目指す未来
自身のデータを日常生活等につなげるPHRの推進
 ・健康医療情報をスマートフォン等で閲覧
 ・自らの健康管理や予防等に簡単に役立てられる
データベースの効果的な利活用の推進
 ・保健医療に関するビッグデータの利活用
 ・民間企業・研究者による研究の活性化
 ・患者の状態に応じた治療の提供等、幅広い主体がメリットを享受
医療・介護現場の情報利活用の推進
 ・患者等の過去の医療等情報を適切に確認
 ・より質の高い医療・介護サービスの提供
ゲノム医療・AI活用の推進
 ・がんや難病の原因究明、新たな診断・治療法等の開発
 ・個人に最適化された患者本位の医療の提供
 ・AIを用いた保健医療サービスの高度化・現場の負担軽減


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