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健康経営を歴史から学ぶ|これで語れる健康経営(2)

6月は、企業における重要な経営戦略となっている「健康経営®」をおさらいしています。第2回のテーマは、健康経営の歴史です。
健康経営がなぜ注目されるようになり、どのようにとらえられてきたか、また今後の展開はどうなるのかについて見ていきましょう。

前回の記事「健康経営とは」

健康経営の起源はアメリカの生産管理

健康経営は、企業理念に基づいて行う従業員への健康投資です。この概念の始まりは1990年代のアメリカ、臨床心理学者のロバート・ローゼンが提唱しした「ヘルシー・カンパニー思想」にみることができます。

当時のアメリカは、労働災害が増える一方で公的医療保険制度がなく、企業の負担する従業員の医療費が経営を圧迫し、深刻な問題となっていました。
このため、従業員の健康促進を投資と考えて積極的に行い、生産性の向上につなげようという構想を打ち出したのです。

ヘルシー・カンパニーは、Health and Productivity Management、つまり、従業員の健康と労働生産性を同時にマネジメントするという考え方です。
「健康な従業員こそが企業の収益性を生み出す」として、病気になってから医療費を払う「疾病モデル」から、人的資本への投資として積極的に健康管理する「生産モデル」へと転換したのです。

日本における健康経営の変遷

ここからは、日本での健康経営の広がりをみていきましょう。
日本でも、1990年代以降、医療費の増大は深刻な問題になっていました。
「健康経営」の言葉は、2006年に設立されたNPO法人健康経営研究会による啓発活動で用いられたのが始まりです。

日本再興戦略(2013年~)

2010年代に入り、政府も健康経営の言葉を使い、国民の健康促進のための国策のひとつとするようになりました。
2013年に発表された「日本再興戦略」の中で、国民の健康寿命の延伸が主要テーマとして挙げられました。翌2014年に発表された改訂版で「健康経営」の言葉が、健康投資の考えの中で用いられます。

この流れを受けて経済産業省は、2014年度より経営的な視点で従業員の健康管理に取り組む企業を表彰する制度を創設しました。健康経営に積極的に取り組む優良な企業を可視化することにより社会的な評価を与える環境を整えたわけです。

2014年度からは、東京証券取引所の上場企業の中から特に優れた健康経営を行う企業を「健康経営銘柄」として選定する制度が始まります。
そして2016年には、上場企業の枠を外した「健康経営優良法人認定制度」が創設されました。広く大企業・中小企業を対象として積極的に顕彰する制度です。
健康経営優良法人認定制度には、大規模法人部門と中小企業法人部門があります。特に優良な健康経営を実践している上位法人に対しては、「ホワイト500(大規模法人部門)」「ブライト500(中小規模法人部門)」という特別称号が与えられます。

未来投資戦略(2017年~)

2017年に政府は「未来投資戦略2017」を掲げ、経済の長期停滞を打破するため、第4次産業革命を積極的に取り込んだ「Society 5.0」 の実現に向けて、新しい経済政策を打ち出します。

この戦略分野の筆頭に「健康寿命の延伸」が挙げられました。特に、データを活用した予防・健康づくりの強化が重視されるようになります。
また、領域を横断する横軸のひとつに、「稼ぐ力」の強化をうたい、企業と投資家の建設的対話を促しています。

健康経営銘柄や健康経営優良法人の顕彰制度についても、選定基準を見直して取組の質的向上を促すようになっていきました。

成長戦略(2019年~)

2019年からの「成長戦略」では、質的向上への転換がさらに推し進められました。
保険者と企業とが積極的に連携して健康経営を行い、健康経営の成果が投資家から適切に評価されるよう、環境整備を促しています。
2020年には、健康経営への投資を可視化する「健康投資管理会計ガイドライン」が発表され、健康経営の各種指標が例示されるようになりました。

また2020年からは、ポスト・コロナを見据えた動きとして国際展開もうたいます。健康経営に関する一連のしくみを海外に広げようというわけです。

健康経営の現在と未来

アメリカで提唱された「従業員の健康管理による生産性拡大」が日本の経済戦略の中で「健康経営」となって展開する中で、企業の組織マネジメントと従業員のセルフマネジメントとが融合した経営戦略のしくみに深化してきました。

この経営戦略は、日本に馴染みの深いビジネスの考え方である「三方良し」によくフィットしています。従業員も、経営者も、社会経済も幸せになる企業のあり方が、健康経営により実現できるのです。
現在はその推進力として、データによる健康管理の可視化を進め、具体的な実現性を高めた「データヘルス計画」や、保険者と企業が積極的に連携した「コラボ・ヘルス」が展開しています。

健康経営優良法人に認定される企業は年を追うごとに増加し、今では認定法人で働く従業員数は770万人、日本の被雇用者の13%まで広がりました。

経済産業省 第3回健康・医療産業協議会(2022年6月8日)
資料5「未来の健康づくりに向けた取組の方向性」より

また、健康経営銘柄2021に選定された企業の平均株価とTOPIXの推移をみると、銘柄企業の株価はTOPIXを上回る形で推移し、健康経営の取組が株価に好影響を与えていることが明確になっています。

経済産業省 第3回健康・医療産業協議会(2022年6月8日)
資料5「未来の健康づくりに向けた取組の方向性」より

これからは、「三方良し」の健康経営を日本のブランドとして積極的に展開するため、国際ルールづくりや海外からの投資促進などに広げていく施策も見込まれています。

特に、ICTの進展によるポテンシャルの活用がうたわれています。
スマートウォッチなどのウェアラブル端末や、ヘルスケアアプリによる健康データを活用した健康管理を拡大し、医療機関、職場、地域が連携して効果的な健康管理のアプローチを行って行動変容を促そうというわけです。

経済産業省 第3回健康・医療産業協議会(2022年6月8日)
資料5「未来の健康づくりに向けた取組の方向性」より


デジタル技術による未来の健康経営は、もうそこまで来ています。
積極的に取り込んで、健康経営の波に乗りましょう。

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「これで語れる健康管理」シリーズ 目次
 (1) 健康経営とは
 (2) 健康経営を歴史から学ぶ       ←本日の記事
 (3) 押さえておきたい健康経営ワード15選
 (4) 知っておきたい国内の取り組み事例  

※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。


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