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SECOND CHANCE ~せっかく転生したのに、気づいたらもうオッサンだった……~ 第5話

第5話 「迫る最終試験 チーム分け」

~第4話 「第1回ロストクリムゾングランド調査団募集試験」の続き~


翌日、オレとトリアは最終試験を受けるために再び会場へと向かった。昨日と変わらず、大勢の志願者たちが集まっている。

やがて時間になり、試験官がやって来て最終試験の概要を説明する。
オレが希望する戦士班やトリアの魔法班の最終試験は、ランダムでツーマンセルかスリーマンセルのチームに分かれて、相手のチームと競う実技形式だった。

自分の持てる技や能力を駆使して、先に相手チーム全員の膝か腰を地面に着けさせればそのチームの勝利、というルールらしい。

(よしっ! 誰が来ても必ず勝ってやる!)

オレは気合を入れて、トリアの方を見た。彼女もこちらを見てコクリと頷いてくれる。
試験官の説明が終わると、オレたちは一旦別室へと通された。
そこでチームの抽選会が行われるようだ。

「一緒のチームだといいね、コウくん」
「うん、そうだね!」
そんなことを話しながら待っていると、いよいよ抽選結果が発表される時間になる。
1人、また1人と呼ばれていく。

そしてオレの番が来た。
「では、次の方! どうぞ!」
試験官に呼ばれ、オレは前に進み出ると大きく深呼吸して気持ちを落ち着ける。

(大丈夫! きっと大丈夫だ!)
2人の合格を信じて……いざ!!

「……19番です」
オレは抽選紙に書かれていた数字を読み上げる。

「19番ですね。では、こちらの番号の2人とチームを組んでください」
試験官に告げられ、オレはその人たちの元へと向かった。
そこにいたのは、1人の少女とエルフの女性?……だろうか。

「へぇ、あなたと一緒のチームなのね。わたしの名前は、ミン・ミンソよ。昨日のあなたの戦闘、この目で見てたわ。よろしくね」

眼鏡の位置を直しながら微笑む彼女は、どこか大人びた雰囲気を醸し出している。手足もスラリと長いし、同い年くらいだとは思うけど、どうなんだろう。
顔立ちと名前の漢字から、オレのいた世界でいうところの中国とか韓国あたりと同じ文化圏の出身なのか?

そしてもう1人の方はというと……。
「おぉっ! 昨日の怪力マンかぁ! よろしくよろしく~♪ アタシはウッドエルフと巨人のハーフ、オルガ・ショーストルムだぜ」
そう言って手をブンブン振る彼女は、身長はオレよりも50㎝は高そうだ。肩まで伸びる艶やかな緑髪と切れ長の鋭い目が印象的だった。

「よ、よろしくお願いします!」
オレはぺこりと頭を下げる。

「そうかしこまるなよ~! チームじゃんか~」
そう言いながら、オルガが肩をバシバシ叩いてくる。見た目通りの怪力だ……。けっこう痛い……。

「言っとくけど、わたし慣れ合う気は無いから。それぞれの力を出して、さっさと最終試験を終わらせましょ。あなたたちだってそれを望んでるでしょ?」
ミンは冷たい態度、とまではいかないものの、あまり仲良くする気はないようだ。

「は、はい……そうですね」
オレは苦笑しながら答えるしかなかった。

(トリアとは別チームになっちゃったか……。トリアは誰と組むんだろ?)
そう思っていると、トリアが試験官に呼ばれて前に歩み出る。

「45番……です」
トリアが少し不安そうに手にした紙を掲げる。

「こっちだよ。僕は44番だ」
と、トリアを呼ぶ声があった。
それは、なんと勇者のアクシウスさんだった。

「あ、ありがとうございます! あ……アクシウスさん……」
トリアが礼を言うと、アクシウスさんはニコリと微笑む。

「こちらこそよろしくね。お互い頑張ろう!」
そう言って彼は手を差し出した。その手をおずおずと握る彼女の表情は、どこか安堵しているようにも見える。
それもそのはず。恐らくこの場にいる多くの人が、勇者であるアクシウスさんと組みたかったに違いない。

トリアたちのもう1人のメンバーは、これまた奇遇なことにアクシウスさんの仲間の1人で屈強な武闘家のボーブ・マンソンのようだ。

(アクシウスさんたちと一緒なら勝ちは間違いない。よかったな、トリア!)
オレは心の中で彼女にエールを送った。

トリアはこちらに気付くと、困ったように小さく手を振る。そして「ごめんね」と口を動かす。オレは「気にしないで」と、笑顔で返した。


その後は抽選くじをランダムでかき混ぜ、最終試験の組み合わせが決められるのだった。
「それではこれより、最後の能力試験の組み合わせ結果を発表します。呼ばれたチーム同士はお互い顔合わせの後、それぞれのチームに分かれて作戦会議を行っていただきます」
試験官がそう言うと、会場に番号が読み上げられていく。

そして……ついにオレたちの番が来た!
「10番と11番はこちらのチームです」

呼ばれたチームを見て一瞬、心臓が止まりそうになる。
なぜならオレたちのチームと戦うのは、アクシウスさん率いるトリアがいるチームだったからだ。

「えっ……。そ、そんな……。まさかトリアと戦うことになるなんて……」
オレは思わずそう呟いていた。

「ん? どったー? あの子と知り合いなのか~?」
オルガが不思議そうに聞いてくる。

「は、はい……トリアはオレの幼馴染なんです……」
オレは正直に答えた。

するとミンも会話に加わってきた。
「ちょ、ちょっと! 幼馴染とかそんなの関係ないから。幼馴染だからって手加減とかしないでよ? 絶対に勝つのよ」

その言葉に、オレはハッと我に返った。
そうだ……今はそんなことを考えてる場合じゃない。トリアだってオレと全力で戦うことを望むはずだ!

オレは拳をぎゅっと握り締めた。
「あ、ああ。それはもちろん!」
そう答えつつ、オレの目は自然とトリアの方へと向かってしまうのだった……。

(いよいよ最終試験が始まるんだ……)

オレたちのチームはアクシウスさんたちと対面する。

「ト、トリア! 敵同士になっちゃったけど、お互い頑張ろうね!」
オレが声をかけると、トリアは嬉しそうに微笑んでくれた。その笑顔を見ると、少しだけほっとする。
(よかった……トリアはいつものトリアだ!)

「うん! コウくんには悪いけど、負けないよ!」
彼女は真剣な眼差しでそう答えた。
オレだって負けるつもりはない!

そんなオレたちのやり取りを見て、オルガはニヤニヤしている。
「幼馴染かぁ~! いいねぇ~! 尊いじゃねぇの♪」

オルガの言葉に、顔を赤くするオレだったが、遠くで静かにしているミンの鋭い視線を感じる。
(戦う前に慣れ合うなってことかな……。でも殺し合いじゃないんだし、もう少し仲良くしても……)

アクシウスさんとボーブさんの2人は、静かに精神を集中させているようだった。


試合間近になったところで、アクシウスさんに「ちょっといいかい」と呼ばれる。
相変わらず爽やかな笑顔を絶やさない人だ。

そしてオレの顔をまじまじと見ると言った。
「よろしくね、コウくん」

「はい、こちらこそよろしくお願いします!!」
オレは元気よく挨拶した。

すると彼はニッコリ笑って言った。
「絶対に負けないからね! そういえばね、僕はトリアさんをパーティーに勧誘しているところなんだ。でも、彼女はまだ迷っているみたいなんだよね」

彼はトリアの方を見た。オレも釣られてそちらを見るが、彼女は俯いているため表情まではわからない。
(そ、そうだったんだ……。昨日、アクシウスさんに声を掛けられた時に少し態度がぎこちなかったのは、そのせいだったのか……)

でも、どうしてそんなことをオレに言うんだろう? するとアクシウスさんは言葉を続けた。
「君とトリアさんの関係は知らないけど、もし幼馴染なんだったら、彼女のことを考えてあげて欲しいんだ」
そう言うと彼は再びこちらに向き直る。

「僕はね。彼女に運命的なものを感じているんだ」

その言葉を聞いた瞬間、オレの心臓は大きく跳ねた気がした。
「運命……ですか?」

「うん! 彼女は僕と一緒にいるべき人なんじゃないかって、そう思うんだ。僕が今の仲間たちと出会った時と、同じ感覚を感じるんだよ。長く旅をしてきたけど、こんなのは滅多にあることじゃないんだ」
その言葉を聞いた瞬間、オレの胸の奥がズキッと痛んだような気がした。

「じゃ、じゃあ! ロストクリムゾングランドに行けても行けなくても、オレもアクシウスさんのパーティーに入れてくれませんか? オレにとってもトリアは大切なんです!」
気がつくとオレはそんなことを口走っていた。自分でもよくわからないままに感情をぶつけているような感じだった……。

そんなオレの言葉を聞いたアクシウスさんは、少し困ったような表情を浮かべた後、真剣な眼差しで見つめてきた。そして口を開く。
「コウくん……申し訳ないんだけどそれはできない。僕のパーティーにおけるコウくんの役目なら、すでにボーブが担当してくれてるんだ」

「え……? あ……そ、それは……」
アクシウスさんの答えは予想していたものとは違っていた。でも確かに言われてみれば当然のことだ。ボーブさんとオレの役割は被っているし……。

落胆するオレに彼は続ける。
「それに……。本当に申し訳ないんだけど、キミには運命的な感覚を感じなかったんだ……」
その言葉に、これから戦わなければならないというのに胸に重苦しいものがこみ上げてくる。

「え……?」

オレの反応を見たアクシウスさんは慌てて言葉を加えた。
「いや! そんな落ち込まないでよ! 別にキミの能力がダメってわけじゃないんだよ? キミは充分すぎるくらい優秀だと思うし。」
その言葉を聞いても、オレの心は晴れなかった。

トリアはどう思っているんだろう。迷っていると言っていたけど。

オレが答えに窮しているのを見かねてか、オルガが助け舟を出してくれた。
「まぁまぁ、気にすんなって~ちゃんコウ♪ この試合で試験官にいいところ見せて、全員でロストクリームに行けばいいじゃんか~! そうすればあの子とも一緒にいられるだろ?」

彼女の一言で少し冷静さを取り戻す。
そうだ。何も離れ離れになるわけじゃないし、そもそも今回の調査団に2人とも合格すれば、一緒にいられるじゃないか。ていうかロストクリームって……。

「確かに……! そうだ! オルガ、ありがとう!」
「いいってことよ! 一緒に戦う仲間なんだし」
そう言ってオルガはニカッと笑った。オレもつられて笑ってしまう。
落ち込んでいても仕方ないよな……。今はとにかく全力で戦うだけだ!

アクシウスさんに視線を向けると、彼も言葉は不要と言ったように決意に満ちた眼差しで微笑んでいる。

「2チームの皆さん、そろそろ時間です。試験開始位置まで移動願います」
試験官に促され、オレたちはスタート地点へと移動する。いよいよ最終試験が始まるのだ!


~続く~

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