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SECOND CHANCE ~せっかく転生したのに、気づいたらもうオッサンだった……~ 第4話

第4話 「第1回ロストクリムゾングランド調査団募集試験」

~第3話 「勇者アクシウスとの出会い」の続き~

「いよいよだね」
トリアが緊張した面持ちで言うので、オレも思わず唾を飲む。
「ああ……そうだな……」

オレ達は両親に送り出され、会場である町「トルーナ」へと向かう馬車に乗っていた。
こんなに遠くまで町を離れるのは初めてのことだったけど、改めてオレが元々いた世界では見られないような美しい景色だなと感じる。

オレは異世界に来た。
そしてこれまで楽しい第二の人生を送ってきた。
そして今日は新たな始まりだ! 新たな大陸の冒険に、オレは行く。トリアと一緒に!
馬車に揺られながらオレは、これからの期待に胸を膨らませていた。


トルーナに到着したオレ達は早速受付へと向かった。

「あの……明日行われる調査団の募集に来たんですけど……」
オレがそう言うと、受付の女性は笑顔で言った。
「はい! ではこちらの用紙に必要事項をご記入ください」
そう言って渡された紙には名前や年齢などの個人情報を書き込む欄があった。

2人で必要事項を記入すると、その日の手続きはエントリーだけで終わった。


オレとトリアはせっかく遠くまでやって来たから、とトルーナの町を観て回ることにした。

内陸部の町なだけあって、のどかで空気が澄んでいる。
この町の近くには帝国で一番大きな兵士学校があるらしい。
もしかすると今回の志願者たちの選考には、そこの教官たちも加わるのかもしれない。
そんなことを考えながら町の外れまで歩いていると、突然トリアが立ち止まった。

「ねぇコウくん……あれ」
そう彼女が指差す先には、美しい泉と花畑が広がっていた。

「うわぁ……綺麗だな」
思わずそう呟くと、彼女が微笑みながら言った。

「うん! 近くまで行ってみようよ」
「ああ!」

2人で小道を進んでいくと、その泉が見えてきた。
木々に囲まれた静かな場所で、鳥のさえずりが聞こえてくる。

オレたちは、どちらからともなく柔らかい草の上に並んで座った。
しばらく無言で景色を眺めていると、トリアがポツリと言った。

「なんか……幸せだね」
「そうだな」

そんな何気ないやり取りでもオレは嬉しくなる。こうして彼女と2人で過ごせる時間を大切にしたいなと思った。
2人で沈黙したままでいると、彼女はオレの顔をじっと見つめてきた。

「ト、トリア……? どうしたんだよ?」
オレが照れながら尋ねると、彼女は一層柔らかく微笑んだ。

「ううん。ただコウくんと一緒に居られるのが嬉しいだけ」

そんな可愛いことを言う彼女に思わずドキッとする。

「そ、そっか……」
オレは照れ隠しに顔を背けることしかできない……。

すると、トリアが突然抱きついてきた。
突然のことに驚いたものの、オレも彼女を抱き寄せた。彼女の体温を感じると同時に心臓の鼓動が激しくなる。

どれくらいそうしていただろう。ほぼ同時に元の姿勢に戻ると、どちらからともなく笑い合った。

「そろそろ帰ろうか」
オレが立ち上がると、トリアも立ち上がって手を差し出してくれる。それを握り返して歩き出すと、再び2人で歩き始めるのだった。


宿泊予定の宿に到着したオレとトリアは、一旦それぞれの自室に向かう。その後にトリアの部屋で、露店で買ってきた夕食を食べることにしていた。

自室のシャワーを浴びながら、今日のトリアのことを考えていた。なんだかいつにも増して可愛かったな。
そう考えて思わずニヤけてしまう自分がいた。

シャワー室を出て服を着替えると、トリアの部屋に向かう。扉をノックするがなかなか出て来ない。
少しすると、なんとバスタオルを巻いたトリアが出迎える。

「ごめんごめん! まだお風呂に入ってて! ちょっと座って待っててくれる?」
オレは心臓がビクンッと高鳴るのを感じた。トリアの美しい素肌、その眩しさに思わず唾を飲む。
トリアはオレを部屋に迎え入れると、足早にシャワー室へと戻って行った。

(ビ、ビックリした~。まさかあんな格好で出てくるなんてな……)
オレはドキドキしながらも、言われた通り椅子に座って彼女が戻って来るのを待つことにしたのだった。

だがなんだか落ち着かない気分だ……。
(い、今ってあのシャワー室がトリアが裸でシャワーを浴びてるんだよな……って、何てこと考えてるんだオレは! 最低かっ!)
「小さい頃は一緒にお風呂に入ってたけど、すっかり女性らしくなっちゃったな……」

そうやって悶々としていると、やがてトリアがシャワー室から戻ってきた。
「ごめんね! 待たせちゃって」
そう言いながらオレの隣に座ると、彼女は髪をタオルで拭き始めた。

そんな何気ない仕草でさえドキドキしてしまう自分に呆れながら、オレは平静を装って答える。
「べ、別にいいよ……それより腹減ったし早く食おうぜ」
「うん! あ、これ買ってきたやつだけど食べよ!」
「ありがとう。じゃあいただきます」

2人で買ってきた夕食を食べながら会話をした。あえてお互い明日の話をしなかったのか、今日見た景色やお互いの家族の話など他愛もない話ばかりだっけど、オレは何気ないこの時間が何よりも好きだ。

あっという間に時間は過ぎていったようだ。時計を見ると既に日付が変わるような時間になっていたので、オレはそろそろ寝ようと立ち上がった。

「トリア、明日は頑張ろうな」
オレがそう言うと彼女は笑顔で答えてくれた。

「うん! 2人で合格しようね!」
そんなやり取りを交わしてからオレは自分の部屋へと戻ったのだった。

翌朝、ついに募集試験当日を迎える。
トリアと共に試験会場に着くと、そこにはすでにたくさんの冒険者や学者、魔術師が集まっていた。

シルビアではあまり見かけない多様な人種の人たちがいる。
自分たちとは肌や目の色が異なるヒューマン種はもちろん、犬の獣人やトカゲのような獣人、背の高いエルフ、背の低いエルフなど様々だ。

(この人たち全員と競うことになるのか……)
そう考えるとなんだか緊張してくるな……。

そんなことを考えているうちに、ついにその時が来たようだ。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。それではこれより選考試験を始めます」
司会らしき男性がそう言うと、会場内に緊張が走るのを感じた。オレも思わず拳を握りしめる。

「まず最初の試験は筆記試験となります。問題数は50問、制限時間は1時間です。その後に、身体検査、続けて能力試験となります」
そんな説明を受けつつオレは用紙に目を落とす。

問題は魔法や戦闘技術に関するものから一般常識のようなものまで様々だった。
(これならなんとかなりそうだな……)
オレは安堵しつつ問題に取り掛かった。

そして筆記試験を終えた後、身体検査へと移った。
この身体検査で身体能力や魔力量などを調べられるらしい。

(ここで落ちたら話にならないからな……)
そう思いながらもなんとか全ての検査をクリアして、再び広場に集められたオレ達は、今日行われる最後の能力試験を受けることになった。


「それではこれより、能力試験を始めます! まずは魔法班希望の皆さんからお願いします!」
試験官の言葉を聞いたトリアの肩がビクッと震える。

「トリア、大丈夫だよ」
オレが声をかけ、肩をポンポンと叩くと彼女は小さくうなずき微笑んだ。

「うん、ありがとう……行ってくるね」
緊張しているためかその笑顔はぎこちなかったが、前を向いた彼女の表情は自分を信じる強い意志を感じさせた。

「次、シルビア出身のトリア!」
名前を呼ばれた彼女は緊張しながらも前へと進み出た。模擬専用の動く幻影5体召喚される。

トリアは一息深呼吸すると、手に炎と雷の魔法を宿す。
そしてそれを同時に放った。

「雷と炎で焼き尽くせ! ファイアボルト!」
トリアが魔法を放つと、両手から放たれた炎と雷の光球は混じり合い、1つの光球となった。素早い光球が1体の幻影に当たる。
と、同時に光球が拡散し残りの4体の幻影にもぶつかり、5体同時に焼き尽くされていく。

(凄い……これがトリアの魔法か)

試験官たちは感心したように唸り声を上げる。
「あの歳で……あんな魔法を……」
「お、おいおい、シルビアには魔法学校はないよな……。まさか独学で……」
試験官のみならず集まった他の志願者たちも驚きの声を上げていた。

「よし! では、次……」
試験官がトリアの能力試験終了を告げ、次の志願者へと試験は移っていく。

「凄いねトリア! これなら合格間違いなしだよ!」
戻って来たトリアにオレがそう言って微笑むと、彼女は照れくさそうに笑った。

「えへへ……ありがとう、コウくん」
そう言って微笑むトリアの笑顔は本当に可愛かった。オレは思わず見惚れてしまう。
そんなオレの視線に気付いたのか、彼女はハッとした様子で顔を赤らめた。

「あ! あ、えっと……その……」
慌てふためく彼女が可笑しくてオレはつい吹き出してしまった。すると彼女もつられて笑い出す。そんな何気ないやり取りでオレの緊張もほぐれていくのだった。


「魔法班の能力試験を終了します。志願者の皆さま、お疲れさまでした。では、次は戦士班の能力試験に移ります」

よし、次はいよいよオレの番だ! トリアに続くぞ!
戦士班の能力試験は、武器や格闘で同じように模擬専用の動く幻影を倒す、という内容だ。

志願者たちが次々と、自分の得意な戦術を披露していく。
さすがにロストクリムゾングランドに向かうというだけあって、半端な者はほとんどおらず、幻影を倒せず試験官に助けられたり、自ら降参を宣言したりした者は数人しかいなかった。

「次! シルビア出身のコウ!」
(オレの番だな)
試験官に呼ばれ、オレは前へと進み出た。

「コウくん! 頑張って! 絶対勝てるよ!!」
トリアの声援に、力強く頷き返し、オレは模擬専用の動く幻影5体を相手取る。

剣術ができるところもアピールしておきたいし、何体かは剣で倒そう。
まずは1体目の攻撃をひらりとかわし、すれ違いざまに横薙ぎの一閃を浴びせて撃破する。
2体目は両手に装備した手甲で殴りかかって来たが、それを防いだオレは空中に飛び上がって縦に一刀両断して倒す。
3体目は遠距離の魔法を使って来る。思わずフッと笑ってしまう。こんなのトリアとの修行に比べたら楽勝過ぎる。
オレは剣を素早く投げつけ、3体目を撃破する。

残りの2体が長物を手に一気に距離を詰める。
「おいおい、武器がないじゃないか。大丈夫なのか?」
志願者の誰かがそう言っているけど、ここからがオレの本当の戦い方だ。

オレは2体の長物による突きを躱すと、両脇に長物を抱えてそのままグルグルと回転する。
そしてそのまま投げ飛ばすと、試験会場に張ってあるバリアに勢いよくぶつかりそのまま2体は消滅した。

「あ、あの細い体のどこにあんな馬鹿力が……?」
トリアの時と同じく、試験官を始め、他の志願者たちも呆気に取られている。オレは少し得意げに笑って見せる。すると、周りの空気が変わった気がした。

「あいつ……ただの雑魚じゃなさそうだな……」
「面白いわね」
そんな声があちこちから聞こえる中、試験官が口を開いた。

「こ、これで戦士班の能力試験は終了だ! ご苦労だったな!」
彼はどうやら冷や汗を垂らしているようだ。なんだかやりすぎた気もしたけどまあいいか……。

「コウくん! やったね!!」
そう言って駆け寄ってくるトリアは、本当に嬉しそうだった。そんな笑顔を見せられたらこっちまで嬉しくなってしまうな。
こうしてオレ達2人は初日の試験を無事突破したのだった……。


その日の試験は全て終了し、しばらく広場で話をしていたオレたちだったが、ここで思わぬ来客があった。それはなんと勇者アクシウスだったのだ!

「やあ君たち、さっきはすごかったよ」
「あ、ありがとうございます!」
突然の来訪にオレは緊張しつつも、なんとかお礼を言った。トリアも横でペコリと頭を下げる。

「僕も今日の試験を突破したんだ。後は、明日の最終試験だけどお互い頑張ろう」
アクシウスさんはニコリと微笑むと、その場を後にした。
オレも手を振って見送ったのだが、横にいたトリアはなんだか複雑な顔をしていたのだった。

(どうしたんだろう……?)

「トリア、どうかした? まさかまだ緊張してる?」
オレが尋ねると、トリアは慌てて首を振った。

「え!? あ、いや……その……あの……あのね……。え、えっと、やっぱり何でもない!」
そう言って駆け出そうとしたトリアの腕を、オレは思わず掴んでいた。すると彼女はビクッと肩を震わせて立ち止まる。
そしてゆっくりとこちらを振り向いた。その表情はどこか不安げで、何か言いたげにも見えた。

「どうしたの? 何かあるなら話してよ」
オレがそう言うと、トリアは少し迷った後、意を決したように言った。
「……あのね……勇者様たちってどんな人たちなのかな?」
意外な質問だった。オレは少し考えた後に答えることにした。

「うーん……オレもまだよくわかんないけど……悪い人じゃないと思うな……」
オレの答えを聞いたトリアは少し安心したような表情を見せると、ニッコリ微笑んだ。

「そうだよね! コウくんの言う通りだよ! うん……。でも、やっぱり私決めた! ねぇコウくん、もし2人とも合格してたらさ、コウくんに話したいことがあるんだ」
「話したいこと?」
オレが聞き返すと、彼女はこくりと頷く。そして少し照れたような表情で言った。

「うん……いいかな?」
「もちろん! ……というか、実はオレもトリアに伝えたいことがあるんだ。だから、もし2人とも合格したら必ず話そうよ」

オレがそう言うと、一瞬驚いたような顔をした後、彼女は嬉しそうに微笑んだ。そしてそのまま駆け出す。

「うん! 絶対だよ!」
そんな彼女の背中を見送るオレの心には、ある決意が芽生えていた。

(よし! 明日はいよいよ最終試験だ!!)
2人が合格できることを祈りつつ……。


~続く~

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