見出し画像

元海兵隊大佐から日本へ 「戦うための準備はできているか」|【特集】歪んだ戦後日本の安保観 改革するなら今しかない[PART03]

防衛費倍増の前にすべきこと

安全保障と言えば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。
だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。
日本人が長年抱いてきた「安全保障観」を、今、見つめ直してみよう。

もし数年以内に、日本が中国から攻撃を受けたとしてもほとんど戦うことはできない。それは戦うための体制作りができていないからだ。日本に必要な「準備」をここに示す。

文・グラント F・ニューシャム(Grant F.Newsham)
元海兵隊大佐・日本戦略研究フォーラム上席研究員
1956年、米バージニア州生まれ。プリンシピア大学卒業後、UCLA法科大学院修了。米太平洋海兵隊予備役作戦参謀及び情報参謀、駐日米国大使館海兵隊武官などを歴任。2013年10月より現職。


 中国は長年、日本に対して、目に物見せようとしてきた。注意を払っている人には明々白々である一方、永田町では、注視する人が足りなかった。だが、ロシアによるウクライナ侵攻が日本政府を目覚めさせたようだ。今、台湾が「アジアのウクライナ」になること、そして好むと好まざるとにかかわらず、日本が巻き込まれることが危惧されている。

 日本の政治家は口々に「台湾の防衛は日本の防衛だ」(これは確かに事実だ)と話している。岸田文雄首相は日本の防衛費を2倍に増額し、防衛力を「抜本的に強化」すると約束した。

 政界には切迫感が広がり、こうした対策が必要だという一般的な合意がある。だが、これには時間がかかる。岸田氏は5年以内と語っている。

 しかし、日本が防衛体制を整える間、中国が〝協力して〟待ってくれる保証はない。では、もし中国が今後数年以内に台湾(あるいは日本)を攻撃したら、日本は戦争をする準備ができているのだろうか。

答えは「ノー」だ。

 だが、日本は防衛に年間5兆円以上かけており、世界で9番目(2021年、ストックホルム国際平和研究所〈SIPRI〉)に大きな軍隊(自衛隊)を誇る。理屈の上では近代的な装備を大量に抱え、毎年夏に「富士総合火力演習」で見事なショーを披露し、防衛については年来の日米同盟がある。日米双方のアライアンスマネージャーは定期的に「同盟はかつてなく強固」だと宣言する。

 以下のことを口にするのは礼儀正しいとは見なされず、もしかしたらそれが日米識者の親睦会「富士山会合」に筆者が決して招待されない理由なのかもしれない。だが、中国人民解放軍(PLA)がすぐそばで日本と米国の一挙一動を見守るなか、あえて言わせてもらおう。

実戦において自衛隊に
足りないもの

 日本の自衛隊は本格的な敵を相手にする戦争を想定して構築・構成されておらず、実際の戦争をする能力を持たない。そして中国は手強い敵だ。

 戦争をするためには、以下がいくつかの基本要件となる(ただし、これらがすべてではない)。そして日本はここでの基準を満たしていない。

ここから先は

3,676字 / 2画像
この記事のみ ¥ 350

いただいたサポートは、今後の取材費などに使わせていただきます。