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行政手続きはなぜ〝紙〟なのか 自治体DXの最前線|【特集】漂流する行政デジタル化 こうすれば変えられる[PART3]

コロナ禍を契機に社会のデジタルシフトが加速した。だが今や、その流れに取り残されつつあるのが行政だ。国の政策、デジタル庁、そして自治体のDXはどこに向かうべきか。デジタルが変える地域の未来。その具体的な〝絵〟を見せることが第一歩だ。

行政手続きはなぜ役所を直接訪れ、紙で申請するのだろうか。従来の「常識」を疑い、新たな一歩を踏み出した自治体の今を追う。

文・編集部(川崎隆司)


 引っ越し、転職、結婚、出産、死亡──。ライフイベントの際に誰もが一度は訪れるであろう「市役所」や「町役場」について、どんな印象を抱くだろうか。何枚もの紙の書類に名前や住所を記入し、窓口での手続きに長時間待たされ、複数の課をたらい回しにされる……。

 そんな役所のイメージを、デジタルの力を借りて払拭しようとするのが、北海道北見市だ。同市は2016年10月より「書かないワンストップ窓口」を導入した。同市役所を訪れた住民はまず、特定の専門業務を持たず住民サービスに特化した「窓口課」に案内される。他部署手続きの代理受け付けおよび案内の業務委任を受けた窓口課の職員が、市民本人の同意を得た上で、要件を聞き取りながら窓口支援システムを使って申請書を作成。来庁者は申請書の内容を確認しサインするだけで手続きが完了する。

 市民が複数の課を回りながら申請書を1枚ずつ記入する手間が省けるとともに、名前や住所などの重複事項はシステム上で自動転記されるため作成する職員の負担も少ない。さらに窓口課では、データベースの資格情報をもとに、児童手当や医療費助成など来庁者に必要な行政サービスをシステムで自動判定し、漏れのない手続き案内も実施している。

 同市窓口課の吉田和宏管理係長は「窓口手続きがどれだけ大変でも、役所はここにしかないから住民に選択の余地はなく、また来てくれる。そのことに甘え、役所の都合を押しつけていた窓口手続きを、住民目線で見直すことから始めた」と振り返る。

 マイナンバーカードを活用し、申請手続きをオンライン上で完結させる仕組みを22年4月から導入したのが福岡県行橋ゆくはし市だ。オンライン申請の対象となるのは……

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