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「生きた証を残す」 引き籠りを経て高齢者見守り事業を軌道に乗せた青年|【さらばリーマン】逆境を乗り越える編

☆逆境を乗り越える画像(1280×500)背景黄色 (1)

イラストレーション
木原未沙紀(Misaki Kihara)

東海道・山陽新幹線のグリーン車に搭載されている月刊誌『Wedge』の人気連載「溝口敦のさらばリーマン」。勤め人を辞めて、裸一貫で事業を始めた人、人生の窮地を起業で乗り越えようとした人、趣味を仕事にしてしまった人、自らの事業で社会課題を解決しようとした人など、起業家たちの人生や日々奔走する姿をノンフィクション作家の溝口敦氏が描きます(肩書や年齢は掲載当時のもの)。

文・溝口 敦(Atsushi Mizoguchi)
ノンフィクション作家、ジャーナリスト
1942年東京都生まれ。暴力団や新宗教に焦点をあてて執筆活動を続け、『食肉の帝王』(講談社)で第25回講談社ノンフィクション賞などを受賞。

澤和寛昌さん(600×400)

澤和寛昌さん(Hiromasa Takuwa)
IoTBASE代表取締役(33歳)

   (※肩書や年齢は掲載当時のもの)

 澤和寛昌さんは弱冠33歳。4年前の2015年2月、東京・池袋で見守りシステム構築のIoTBASEを立ち上げた。

 現在、同社が目標とするのは5年後に売上52億円を達成、株式を上場することだ。単に言うだけなら誰にでも言えるだろうが、澤和さんの場合、起業後の実績がこうした目標にある程度現実性を与えている。すなわち起業2年後の17年売上はわずか1200万円。翌18年には前年比の3倍近く3200万円、19年にも3倍以上の1億円がほぼ確実視された。立ち上がるような短期の急上昇。その線を延長すれば、23年52億円は必ずしも夢物語ではなかろうという気になる。

 営業種目はIoT(物のインターネット)による見守りである。具体的には、子どもや高齢者、人や車両、ガス・水道の使用量、遠隔検針と操作、防災・自然災害の予測・警報発令・避難者受け入れなどだ。

 ただし澤和さんの会社がやっていることは、子どもにスマホなどの発信器を持たせ、両親がそれを受信し見守るというものではない。そうではなく、地方自治体やガス会社など各種組織体から見守りシステムの構築を請け負い、適切なデバイスをどう選び、それらをどう組み上げるか、回線(ネットワーク)をどう選び、どう接続すべきか、システム(ソフトウェア)をどう設計すべきか——など、それぞれを選択・開発し、実際に運用した際の課金や契約管理、請求、入金管理などの事務をどう補助するかというシステム全体の設計と運用サービスの開発設計、バックアップである。

 ひとことでCPS/IoT市場と呼ばれる分野だが、日本でこの分野は早くも16年、11.1兆円の規模に達し、30年には19.7兆円にも伸びると見込まれている。大変な成長分野であることは間違いなく、澤和さんが徒手空拳、なぜいち早くCPS/IoT市場に参入できたか、不思議なほどだ。

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