信じられる「未来」についての虚構をどう描くか? ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』が問いかけるもの
歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏による『サピエンス全史』。上下二巻にわたり人類の歴史を一掴みにしようというおもしろい本である。
様々な人々の無数の経験が織りなす複雑な人類の歴史を、わずか二冊の本で一掴みにする。そのための方法としてハラリ氏が選んだのが「虚構の力」という概念を軸に設定し、その軸の周囲に人類史を記述していくというやり方である。
だからこそ7万年前ほど前の人類に起こったコトバの力の獲得、虚構を音声や物に置き換えて他者と共有する力の獲得から、『サピエンス全史』の記述は始まるのである。
しばらく前にこちらのnoteに「科学革命」のことを書いた。
500年ほど前に始まった科学革命は、7万年ほど前の「認知革命」(虚構を共有する力の獲得)、1万2千年ほど前の「農業革命」に次ぐ、人類史上の三大革命のひとつであり、今日の私たちが生きる世界、私たちが信じる虚構の世界を支える力を生んだものである。
このnoteで書いたように、科学革命の前提には「人間」を価値の源泉として信仰する新しいタイプの宗教の登場があった。
人間は世界の本当の秘密をまだ何も知らない。しかし人間には、無知からはじめて、知を獲得していく力がある。そう「信じる」新しいタイプの宗教である。
それ以前の宗教は、世界について知られるべきことは全て予め神が知っており、人間はどうにかして(修行したり、死んだりして)、神とひとつになることで、その神が知る「正解」の知にふれることができるのだ、という具合に考えた。
これに対して人間中心主義の「宗教」は、人間自身が、無知から出発して、生きている間に知を新たにし、増やすことができる、ということを発見し、その力を信じたわけである。
今日の私たち自身が信じる虚構 「資本主義」
無知から出発しながら知を獲得できる、人間の力を信じたこと。
この人間を信じることが、おもしろいことに「資本主義」の世界を作り出す結果につながったのである。このあたりの話は、『サピエンス全史』下巻の中程、第16章「拡大するパイという資本主義のマジック」と第17章「産業の推進力」といったあたりに詳しい。
ハラリによれば、資本主義は「将来的に富は増えているはずだ(パイは拡大しているはずだ)」と人々が「信じる」ことに支えられている。
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