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面白さは転がってるものじゃない。育てていくもの。東京都立大学 嶋村 耕平 先生[研究者インタビュー]

佐本先生にご紹介いただきました、高校の同級生である嶋村先生にインタビューさせていただきました。

深野先生、佐本先生と高校の同級生の嶋村先生。すごいご縁でお繋ぎいただけたこと嬉しく思っています。
今では逆に人のやらないことをやることが面白いと思ってきたが、当時は新しいロケット推進技術の研究は興味を持ってもらうことができなくモチベーション維持が難しかったそうです。
自分で面白くすることが大事、そのためにも自分で手を動かさないといけないとのことでした。
過程を楽しむ。結果やまわりを意識しすぎず、目的を目指して突き進みたいと感じました。

マイクロ波やレーザーでロケットを飛ばす実験、研究

ー今、どんな研究をされていますか?

嶋村先生:私の専門は航空宇宙の流体分野です。色々なことをやっていますがその一つに、マイクロ派やレーザーでロケットを飛ばすという実験、研究をしています。
いきなりロケットを飛ばすのは難しいので、ドローンくらいからやってみようかな、みたいな感じで、5Gのドローンを飛ばすデモンストレーションをしました。
エンジンや制御等、少し分野は違いますが、横断的にチャレンジしてみたら航空分野以外の人達に興味を持ってもらえました。

このロケットのコンセプトは地上から宇宙空間までを外から電磁波を照射してその燃料を供給するというものです。
この外からというのがミソで、ロケットというのは質量の95%が燃料やその燃料を燃やすための燃焼器・エンジンで構成されています。
あれだけ大きいのに持っていける荷物(ペイロード)といいますが、それはほんの少ししかありません。非常に燃費の悪い乗り物です。

地上から電子レンジの1000倍以上の強さのマイクロ波をロケットに当てて、ロケットではそのマイクロ波を集光して爆発させて推力を得る、という先端的なコンセプトのロケットです。ロケット版のEVみたいなものですね。
これまで私の研究では、地上の試験では核融合発電に用いられるジャイロトロンと呼ばれる電子レンジの親戚のような大きなマイクロ波装置を使ってロケットの研究を進めてきました。

研究しているマイクロ波ロケット推力測定実験(左上)、使用したマイクロ波ロケット(右上)、推力測定実験模式図と測定結果(下)

一方で宇宙空間までロケット本体を飛ばすのには地上のマイクロ波装置の出力レベルが大学実験室レベルでは足りません。現在フランスで開発されている国際核融合炉くらいのマイクロ波出力があれば面白い飛行デモンストレーションができると思います。

またビーム装置だけではなく、ロケットにマイクロ波をピンポイントで当てる技術や姿勢制御など様々な課題を抱えています。
そこで、ロケットデザインだけではなくて、マイクロ波をロケットに給電する「ワイヤレス給電技術」の研究をドローンを使って行いました。

動画では30秒間くらい1mの高さで飛ばしていますが、ピンポイントにロケットに見立てたドローンにマイクロ波を当て続けることに成功しています。

ロケットの実験でやったつもりですが、実はドローンや空飛ぶ車に使えるのではという方で興味を持たれました。ドローンはバッテリーがそれほど強くないので数時間充電して10分、20分とか飛行時間は非常に短いのですね。空飛ぶ車も同じことが言えます。
つまりマイクロ波で地上から送電し続ける限り、ドローンも空飛ぶ車も半永久的に飛ばすことができる。空飛ぶ車は既にプロトタイプは各国で飛んでいますし、2030-40年くらいには普及するといわれています。ロケットよりもそちらの方が早く実現するかも、と最近では思い始めています。

ーそもそも、ドローンを飛ばすきっかけは何だったのでしょうか?

嶋村先生:実は以前、アメリカでマイクロ波ロケットのベンチャーがあったんです。彼らがドローンを使ったデモンストレーションをやっていました。詳細は会社が無くなったので分からず仕舞ですが、ここに着想を得てよりビームとロケットの制御技術などを研究していきました。余談ですが、アメリカは日本とは違い、一風変わったアイデアでロケットを飛ばそうとすると、ぱっとお金はつくし、人も集まります。その点は日本と違い羨ましいところでもあります。

皆さん、マイクロ波でロケットを飛ばすのって多分見たことないですし、イメージも湧きにくいと思います。私もまだ実験用の模型でしか見たことがありません。ネットで検索して出てくるのはコンセプトや絵でしかなくて、デモンストレーション実験動画くらいですね。
飛んでいないロケットをずっと研究し続けるのもどうなんだろう、まずは飛ばせるものからやってみようと思いました。そう思い、まずは簡単そうなドローンからどれだけ大変なのかやってみたんです。ちょっと切り口を変えてみよう、そんなモチベーションでした。

リバースエンジニアリングが好きだった幼い頃

ー航空宇宙の分野の研究を始めたきっかけをお聞きしたいです。宇宙やロケットの研究をしてるとお聞きすると、幼い頃からロマンをお持ちなのかなと思います。

嶋村先生:そういう方もいらっしゃいますよね。でも私は全くロマンを持ってるタイプではないんです(笑)。
幼い頃は、ジャンクの機械部品で遊んでましたね。リバースエンジニアリングと言って、家電や身の回りの機械等を分解するのが好きでした。なんの役に立つかわかってませんが、コンデンサやICチップを眺めるのは好きでした(笑)

そこから徐々に複雑になっていくんですよね。中身がどうやって動いてるんだろう、って気になって開けてみる。今の基盤は小さいので難しいのも多いですが、20〜30年前はICチップもどんぐり位のサイズ感で大きかったので、分解し甲斐がありました。公園でどんぐりを見つけて拾ってくる子どもと興味としては何ら変わらないと思います。

機械や車等、色々な制作物の中で、ロケットが一番複雑な作りをしてそうだな、要求される精度が高そうだなと思いました。電化製品やエアコンは身近に触れますが、ロケットは触れないですよね。複雑な方へ、複雑な方へと進んできました。

難しい、複雑だから面白い。物事は、横断するより掘っていく方が好き。

ー何かをする時に、もっと難しい方へ、険しい道へ行く、というのは嶋村先生の性分としてあるんでしょうか。

嶋村先生:簡単すぎるゲームってあんまり面白くないんです。例えばドラクエみたいな複雑なゲームにはのめり込みますよね。難しくて複雑な方が面白い。私自身ドラクエをやり込んだわけじゃないんですけど...(笑)。イメージとしてはそんな感じです。

ー複雑なものの面白さはどこにありますか?

嶋村先生:我々研究者は、何かを調べて、新しい事を論文に書いて発表するのが使命です。でも、新しい事を探すのって難しいんですよね~。見当たるところには転がっていません。
開けてみたらまだあった、掘ったらまだ出てきた、みたいな事がたまにあります。

物事を単純に捉えるのは大事ですが複雑さがないと出てこないですよね。扱っている問題が複雑な方が面白そうって感じです。宝探し的に眠っている可能性がある。新しいものを見つけたら単純に面白いです。

ー新しいものを見つける時は、物事を横断していく方が多いですか?掘っていく方が多いですか?嶋村先生の高校の同級生の深野先生は、広く浅くとおっしゃっていました。

嶋村先生:深野くんは広く浅くなんですね。それは多分戦略の好き嫌いですね。
「横断的にする」、「掘っていく」、両者に良さや面白さがあると思っていて、私はどちらも使い分けています。

流体力学等はどんどん掘っていった方が面白いカテゴリーもあります。そのテーマに合わせています。横に広く浅くやったほうが一般受けしやすく面白いです。プレスリリース等でドローンを出すのもわかりやすいし、繋げる方が世間受けはいいです。
ですが、私はどちらかというと、掘る方が好きですね。掘っていくと、分かる人は少なくなります。わかってくれる人がいると嬉しいと感じます。たまにですが(笑)。

プレリリースで広く理解してもらうことで業界全体が前進する

プレスリリースは戦略的に書かれたのですか?誰もわからなくてもいい、という方もいらっしゃれば、一般人に受け入れられそう、ビジネスにすれば芽が出るかも等色んなタイプの方がいらっしゃると思うのですが、嶋村先生はどのようなお考えだったのでしょうか。

嶋村先生:ロケット自体はなかなか飛んでくれません。プレスリリースを出したのは、研究費をもらっているからでもあるのですが、それとは別に、こういう形で研究が出来るんですよっていう宣伝をしないといけないんですよ。広くわかっていただくことによって業界が少しずつ前進する方向に進みます。
私自身、ロケットを飛ばしたいなって思うんですけど...。予算がかかりますし、皆さんが知って理解が進まないと、なかなか進めません。
もっと純粋な理由として、初めてやった新しさもあったのでそれをアピールしようというのもありました(笑)。

ちなみにプレスリリースは深野くんから教わりました。彼のプレスリリースは読んでいてとても面白く、若手研究者が学ぶところが多いと思います。

大学に進学する目的や意味を見出せなかった高校時代

ー高校時代の同級生、深野先生、佐本先生は、昔から研究者になりそうでしたか?

嶋村先生:そうですね~、深野くん佐本くんは今も昔も継続してやってることは変わらないと思いますよ。佐本くんは当時から部活で研究してましたし、彼らは根っからの研究者っぽいですよね。

私も彼らと同じ地方の某進学高校にたまたま進学できました。周りの同級生はモチベーションが高く大学進学への目標があったのですが、私は当時家庭に普及し始めたインターネットで深夜まで遊んでたりでほとんど勉強してません。何となく大学に行く、何故行きたいのか、そこに自分自身で納得する理由もなく退屈してたのかなと回想します。

私は好きなことや、やりたいことがあればとことんやる方なので、逆にそれが高校生では無かった。進路設定をちゃんとしていればもっと楽しめたかな、と今になって思うことはありますね。その観点では今の高校生はすでに研究活動をしてたりするので、凄いなぁと感心します。

ただ私も気質としては、深野くん佐本くんたちと同じく人の言うことをあまり聞かないと思いますよ(笑)。そこだけは研究者の素質はあったかもしれません。

「意味あるのかな?」研究が注目されないことがしんどかった。

ー大変だった印象的なエピソードはありますか?

嶋村先生:学生のときには新しいことがやりたくて実現されてないロケット推進技術、要はマイクロ波ロケットに近い研究を始めました。ただモチベーション的にしんどかったのは、研究が注目されないことでした。

海外の学会に行っても誰も興味を持たない。この研究、機械系ではちょっとSFっぽいって言われたりするんです。今では逆に人のやらないことをやることが面白いと思ってきましたけど、当時はどうして興味を持たれないのかは不思議でした。

ーネタとしては面白いけど、アカデミア的な興味ではないということでしょうか。

嶋村先生:仕事として、ロケットの効率を改善されたりする実務的な研究をされているのが大半かと思います。そういう実現しているロケット運用から見れば、飛ばないロケットを研究しても意味ないだろうっていうのはありますよね(笑)。

サイエンスの人たち、理学部系や人文系の人たちは、よく、役に立たないことが大事だって言いますが、工学部の中ではそれはすごくマイナーなんです。学生時代にやってた時は、これ意味あんのかなって思うこともありました。ただそういう一見意味のないようなことに時間を費やせたのは思い返せば貴重でした。

その観点でいえば、学生時代、旧ソ連の昔、ソビエト時代にやっていた研究を読んでいて、衝撃を受けたことがあります。彼らは数学・物理にたけていて非常に独創的な論文を残しています。
こういう発想があるのか、考えていることが同じだなと思ったり、注目されない研究をやっていて、やっと進めて辿り着いた結論に近しいものがあったりしました。

嶋村先生の研究室の様子

本質的には面白ければいい。面白さは、転がってるものじゃない。育てていくもの。

ー人生のゴール、研究のゴールはどこですか?
”飛ばない”ロケットの研究ではどこを目指しておられますか?

嶋村先生:ドキュメンタリーとか見てると、壮大なストーリーが並んでてすごいなと思います。そのような感じの研究のゴールを意識したことはないですが、ただこの先の行きつく先でマイクロ波でロケットが飛べばいいな、とは思いますよ。

ロケットを飛ばすためには、予算も必要でおそらく最後は政治家的な仕事をしないといけなかったり、研究者だけでは難しいところもあります。今はまだまだ技術的に成熟出来ていないので、色々なアイデアを駆使しながら研究を進めています。誰もやったことがないことなので、この点は面白いと感じて日々やっていますよ。

ー今、面白いと感じるのは、自分で面白くさせているんですか?

嶋村先生:「自分で面白くさせる」って、結構大事だと思います。趣味とかもそうですけど、すぐ面白くなくなると思うんです。
例えば、研究職や大学の先生も年齢があがっていくと、多忙になり体力的にもしんどくなって、学生の指導のみで研究から遠ざかりがちです。

登山に似ているところがあって、自分でやらないと勘所も技術も鈍くなります。仕事と割り切るのも一つですが、退屈で飽きちゃうと思います。ですので面白さは転がってるものじゃなくて自分で育てないといけないと思います。それをキープするだけでも難しいです。

ー育てていく時の工夫はありますか?

嶋村先生:面白いことを探すのも結構大変です。
自分自身が、面白いと思うためにはある程度手を動かさないといけない。実験もそうですけど、一緒にやって手先が鈍らないようにしています。例えば、学会に参加するのも国内外色んなとこにいっています。

若手の時はポジションや結果を気にして論文を書く事ばっかりに集中してました。それだとなかなかモチベーションが維持できないんです。過程をいかに楽しめるか、自分自身がやって楽しいかを大事にしています。

ー面白さが研究から外れて、今後研究者以外をすることもありますか?

嶋村先生:コロナ禍で枝豆やトマトの家庭菜園をしました。園芸学科の深野くんに結構教えてもらいました(笑)。採れたての野菜はおいしいですね。でも結構放置してしまったり、間違えてきゅうりの主幹を切ってしまったり失敗も多く、やっぱり機械いじりの方が向いているんだと思いました。

周りを気にせず自分がやってて面白いことをやっていけばいい。

ー若手研究者に一言お願いします。

嶋村先生:今は環境もあまりよくないですよね。結果ばかり求められることが多く、修士や博士課程を取るためにたくさん論文を書く必要があります。
お金は出さないけど成果を出せみたいな風潮があります。これは、研究の現場だけじゃなくて社会全体でですね。

したがってやたら結論を急ぎがちです。私も一時期そういうマインドになりかけたこともありました。本質的には自分がやっていて面白いから研究をするわけですから、そういうプレッシャーはうまく聞き流しておけばいいんです。

気にしすぎると落ち込む人もいるんです。あまり周りを気にせずに自分が楽しめたらいいんじゃないかなと思います。
成果を出すことも大事かも知れないですけど、モチベーションを保つ方が大事なんじゃないかと思います。

ーどうしても気になる方はどうしたらいいですか?僕は全く気にしないのでわからないんですが、やらないと!と思う後輩の方にはどんなアドバイスをしていますか?

嶋村先生:狭い視野で物事を見てるのかなと思います。世の中にはそれをクリアしなくてもなんとかなってる人がたくさんいます。本当にそれをやらなくてはならないのかと問う。やらなくても死にはしません。それこそ学会で海外を見ればいろんな環境の人たちと触れ合うことがあります、そうやって視点を増やすことも大事かなぁと思います。


先輩研究者の皆様の悩んだこと、どうやって乗り越えたか、成功の裏側などをどんどん発信していきます。
次回もお楽しみにしていてください。


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