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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter26

ラスト サムライ ~ スズキ スイフトスポーツ ZS32S 2011年式 ~
The Last Samurai ~ Suzuki Swift Sport ZS32S 2011 ~

永代橋のたもとには 
開花宣言と同時に満開になる 早咲きのソメイヨシノがある
”ラストサムライ”に出てくる桜も印象的だが 
僕はこの一本桜が好きだった

「片目で 落ちてくる花びらを 5枚つかむと 願いが叶うのよ」

僕の世界を独り占めしていた 
ポロのロングスカートが似合う カノジョが言った

しかし 
隅田川沿いに吹く風に 
不確定な軌道で拡散していく花びらは 
3枚つかむのがやっとだった・・・

「きさま それでも日本人か・・・」
サムライ 氏尾(真田広之)の声が 聴こえた

開花が 卯月まで遅れた年 
カノジョとの関係も 冷え切っていた
僕は 二人の関係を修復するために 桜の力に頼ることにした

「好きだ!・・・好きだ!・・・」

心で叫びながら 
花びらを 追い続けて2時間 
ようやく手にした花びらを握り締めながら
カノジョに電話をかけた

「あなたと話すことは 何もないわ・・・」

北風のように冷たい声が 
頭の中を通りすぎた
「所詮・・・ うわさ話か・・・」
握られた花びらの一枚が 
二つに千切れていたことに 僕は 気が付かなかった・・・

それから5年 
今年も ソメイヨシノは満開になった
ZS32S スイフトスポーツを降りた僕は 
カノジョとの 
懐かしい記憶の中で
あっさりと 
花びら5枚を手にした
 
「こんなに簡単だったんだな・・・」

遮二無二なった過去の自分を思い出して・・・ 

笑った 
その時・・・

「僕が悪かったと言ってるじゃないか・・・ 
 ちょっと・・・ 話を聞いてくれ・・・」

桜の木の下で 
携帯に向かって必死に叫ぶ 学生服の青年に気付いた

ButuuuuuuuuuuuN!

電波の遮断される 衝撃が 僕にも届いた

うなだれる青年に 
「君・・・ この桜の伝説を知っているかい・・・」

僕は 5枚の花びらを彼に渡した

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スイフトスポーツに戻ると 
突然 春雨が 降り始めた 

春の雨は 花びらを一気に落としてしまう
「今年の 花見も 終わりか・・・」

M16Aエンジンを始動させる

バックミラーには
ガッツポーズを見せる青年の姿・・・

春雨じゃ 濡れてまいろう・・・

窓を全開にした僕は
軽快に吹き上がるエンジン音を堪能する

ハートを 覆ってきた霞が 
一掃されていく・・・

♪♪ 

助手席のシートに置かれた携帯が 
懐かしい カノジョからの着信音を鳴らしているが
僕には 聴こえない・・・

携帯と横・・・シートの上には
雨に濡れた桜の花ビラが5枚 落ちていた

Jax Jones, Mabel - Ring Ring



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