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放置したショートヘアーの夢
夢を追って上京して5年、いまだに私の生活はひどく現実的だ。昼まで眠りこけて、夜はネオンが光る街へ。まるで醜い小虫のように吸い込まれていく。
こんな生活のほうが、まるで夢みたい。早く醒めて欲しい。
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あの街にいた私は、年齢よりも数段と幼く見えていただろう。周りの友達が化粧やおしゃれに目覚めていく中で、私は起きて3分で家を出ていたくらい、自分に無頓着だった。短く切りそろえていた髪はアイロンの熱
嘘の毒【30秒読み切り小説】
色素は薄い。腹の色はわからない。計算か天然か、何も見えない私の体には、あなたから受け取った毒が巡りきっている。
「僕は優しい人が好きですね」
打ち込まれた最初の毒。
どうせなら「歳下が好き」とか言ってくれれば。対象に入らなければ対象にすることを諦めたのに。
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「先輩って優しいですよね」
30にもなって熟れない私が、25のあなたへ上司として接する。恐らく1万円もしない、クタクタのリクルー
氷の移ろい【読み切り小説】
共同生活が始まって1年
ささやかな楽しみは、金曜日の夜に乾杯するハーゲンダッツ。
夏は窓を開けて、冬はコタツで。
「ちょっと柔らかいくらいがピークだよ」と少し置くあなた。
ほんの数分ぽっち。永遠を感じられる貴重な時間。
本を持つあなたの指だけが、ゆっくり時間をめくる。
カップの中
誰にも気づかれないまま、いつの間にか進んでいたんだな。
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普段とは違う淀んだ華金。会話にならない話し合い。
今日も僕は、好きな人の失敗を願う【読み切り小説】
彼女を想う気持ちは誰にも負けていない。
誰に打ち明けるわけでもなく心の奥底へしまっていた気持ちは、自らの闇へと溶け出し、歪な形へと姿を変える。
同じ職場、同じ電車、同じ明日
考えうる限りの小さなアドバンテージは、跡形もなく吹き飛ぶ。
想っても変わらない現実の距離。彼女が好意を寄せる男が自分ではないことは、誰よりも自分が知っている。
金曜日。普段は接待で忙しい上司の代わりに残務を片付けている彼
現代の失恋歌【読み切り小説】
今日も街に広がる幻想。枯れない雨に味付けをひとつ。
進む地球の点、もう一つの点とは線になること無く円を描く。
ああしていればなにか変わったのかな。
文字の毒にさらされた血眼に打ち込まれる針。心音、溶けていく。
広げた風呂敷をどうするか考える。涙は出るほどでもないと思っていたんだけど。
あの識者が言っていた「これをやれば間違いありません」
手のひらには理想、固まる親指が示した答えは間違いだらけ