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嘘の毒【30秒読み切り小説】

色素は薄い。腹の色はわからない。計算か天然か、何も見えない私の体には、あなたから受け取った毒が巡りきっている。

「僕は優しい人が好きですね」

打ち込まれた最初の毒。
どうせなら「歳下が好き」とか言ってくれれば。対象に入らなければ対象にすることを諦めたのに。

「先輩って優しいですよね」

30にもなって熟れない私が、25のあなたへ上司として接する。恐らく1万円もしない、クタクタのリクルートスーツ姿を見てから3年。ミスをカバーした数は100を超える。でも私が怒ることはない。
つねに優しく、優しく。

「いつも優しくしてくれてありがとうございました」

なんでそんなことを言うの?彼に向けた唯一の怒りは、瞳から溢れて雫となる。困った顔の彼は、一切怒ることなく私のそばにいてくれた。ああ、私も優しい人が好きなんだな。

思い出しては消えてしまいたくなる過去の話。
彼との思い出はここで途切れている。あなたはきっと他の職場で、どこの誰とも知らない人間に怒られているのだろう。

もう会いたくはない。涙は枯れても毒は消えていないから。

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