ワト

30秒で読める3~500文字程度の読み切りの小説を書いています。まとまらなかったら3倍…

ワト

30秒で読める3~500文字程度の読み切りの小説を書いています。まとまらなかったら3倍になります。難しいですね

最近の記事

放置したショートヘアーの夢

夢を追って上京して5年、いまだに私の生活はひどく現実的だ。昼まで眠りこけて、夜はネオンが光る街へ。まるで醜い小虫のように吸い込まれていく。 こんな生活のほうが、まるで夢みたい。早く醒めて欲しい。 * あの街にいた私は、年齢よりも数段と幼く見えていただろう。周りの友達が化粧やおしゃれに目覚めていく中で、私は起きて3分で家を出ていたくらい、自分に無頓着だった。短く切りそろえていた髪はアイロンの熱で痛むこともない。伸ばせばお人形みたいにサラサラだろう。 家に出る前に1時間以

    • 嘘の毒【30秒読み切り小説】

      色素は薄い。腹の色はわからない。計算か天然か、何も見えない私の体には、あなたから受け取った毒が巡りきっている。 「僕は優しい人が好きですね」 打ち込まれた最初の毒。 どうせなら「歳下が好き」とか言ってくれれば。対象に入らなければ対象にすることを諦めたのに。 * 「先輩って優しいですよね」 30にもなって熟れない私が、25のあなたへ上司として接する。恐らく1万円もしない、クタクタのリクルートスーツ姿を見てから3年。ミスをカバーした数は100を超える。でも私が怒ることは

      • 氷の移ろい【読み切り小説】

        共同生活が始まって1年 ささやかな楽しみは、金曜日の夜に乾杯するハーゲンダッツ。 夏は窓を開けて、冬はコタツで。 「ちょっと柔らかいくらいがピークだよ」と少し置くあなた。 ほんの数分ぽっち。永遠を感じられる貴重な時間。 本を持つあなたの指だけが、ゆっくり時間をめくる。 カップの中 誰にも気づかれないまま、いつの間にか進んでいたんだな。 * 普段とは違う淀んだ華金。会話にならない話し合い。 二言目には「ごめん」。手を付けない二つの個体。 「もう一緒には進めない」 どう

        • 今日も僕は、好きな人の失敗を願う【読み切り小説】

          彼女を想う気持ちは誰にも負けていない。 誰に打ち明けるわけでもなく心の奥底へしまっていた気持ちは、自らの闇へと溶け出し、歪な形へと姿を変える。 同じ職場、同じ電車、同じ明日 考えうる限りの小さなアドバンテージは、跡形もなく吹き飛ぶ。 想っても変わらない現実の距離。彼女が好意を寄せる男が自分ではないことは、誰よりも自分が知っている。 金曜日。普段は接待で忙しい上司の代わりに残務を片付けている彼女が、今日は早めの帰宅。いつもより強めに巻かれた毛先。垢抜けた絶望。 ああ、う

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          現代の失恋歌【読み切り小説】

          今日も街に広がる幻想。枯れない雨に味付けをひとつ。 進む地球の点、もう一つの点とは線になること無く円を描く。 ああしていればなにか変わったのかな。 文字の毒にさらされた血眼に打ち込まれる針。心音、溶けていく。 広げた風呂敷をどうするか考える。涙は出るほどでもないと思っていたんだけど。 あの識者が言っていた「これをやれば間違いありません」 手のひらには理想、固まる親指が示した答えは間違いだらけ。 これは意味のない、孤独の救済を信じていただけ。情けないな。 大人の道化者

          現代の失恋歌【読み切り小説】