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今日も僕は、好きな人の失敗を願う【読み切り小説】

彼女を想う気持ちは誰にも負けていない。
誰に打ち明けるわけでもなく心の奥底へしまっていた気持ちは、自らの闇へと溶け出し、歪な形へと姿を変える。

同じ職場、同じ電車、同じ明日
考えうる限りの小さなアドバンテージは、跡形もなく吹き飛ぶ。

想っても変わらない現実の距離。彼女が好意を寄せる男が自分ではないことは、誰よりも自分が知っている。

金曜日。普段は接待で忙しい上司の代わりに残務を片付けている彼女が、今日は早めの帰宅。いつもより強めに巻かれた毛先。垢抜けた絶望。


ああ、うまくいかなければいいのに。


名もなきあいつは知らない。装飾の少ない服やボサボサの頭、かじりかけのパン。同僚から聞いたあいつの特徴は、そんな彼女とはつり合わない。

空想の言葉遊び。頭を支配する無情の劣情。


彼女のことを考えれば考えるほど、今日の失敗を願い、同じ明日を夢見ている。

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